山本七平botまとめ/【われらの内なる横井さん③】/「事実の認定」を政治的立場で歪める”ロマン・ロランの愚行”とは?/~自ら目を潰し、破滅した戦前の日本人~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/横井さんと戦後神話/257頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】神話というものはそれくらい強力な浸透力をもつものなのである。そして一度それが浸透してしまうともう動かせなくなる。全ての人は、自己の内なる神話に抵触しまいとして、どうしても触れねばならぬ時は「我らの内なる横井さん」の様に語るか、大体そこは避けてふれない<『ある異常体験者の偏見』

2012-10-01 04:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

2】そしてその神話が事実でないことを知っている人自身が、率先して、その神話を事実だと証言する。――どうしてこうなるのか。否これは人事ではない。私自身が、やはり、「戦後神話」に抵触するときは、それをロにするとき何か「決心」のようなものがいるのである――全く戦前と同じように。

2012-10-01 05:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

3】「決心」がいるということ自体が、私の中にも「われらのうちなる横井さん」がいて私を制止しており、私がそれを振り切っているはずなのである。なぜそうなるのか。いまは軍部が言論統制しているわけではあるまい。それならなにが私にそういう「自主規制」を強いるのか。

2012-10-01 05:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

4】戦争中日本軍が行ったさまざまの残虐行為は、ほぼだれの耳にも入らなかった。だれもロにしなかった。それを知っているはずの人が真先に否定して神話を事実だといった。これは言論統制のゆえであろうか。軍部の横暴のゆえであろうか。

2012-10-01 06:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

5】「軍部」とするのはおそらく「戦後神話」であって、事実は、このことを口にさせないために、何らかの「権力」が介入する必要はなく、おそらく介入の余地もなかっただろうと私は思う。

2012-10-01 06:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

6】というのは、そんなことはしなくても、その事実を知っている人間が、真先に神話を事実だと言って、逆に事実を否定したに相違ないからである。というのは、横井さんの発言の背後にだれかがいて、あのように語れと統制しているわけではないからである。

2012-10-01 07:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

7】私にそのことを考えさせたのは『海外評論通信』という定期刊行物のある記述であった。…何気なく通読しているうちに、思いもよらぬ記事につきあたった。それは南ヴェトナムのビン・ディン州北部三地区を、北ヴェトナム軍とヴェトコンが占領している間に、どのようなことが行われたかを、(続

2012-10-01 07:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

8】続>アメリカ・南ヴェトナムの合同調査班が67名の男女に長時間面接調査し、内44名の談話をテープに記録したその記録の一部である。公開処刑・大量虐殺、恐ろしい虐殺死体の下で血のため窒息しそうになりながらかろうじて逃げ出して来たゴンという男の話――私はこの記述が事実かどうか知らない

2012-10-01 08:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

9】いま私か問題にしたいのは、そのことでなく、この記述への私自身の態度である。このことは日本の新聞には一切出ないであろう。それはそれでよい、戦争中も、日本軍による同じような事件は一切出なかったのだから、今さらそれを異とする必要はあるまい。

2012-10-01 08:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

10】また現地の実情を知っている人は、これを「事実」だと判断したらその瞬間に逆にこれを否定し、神話を事実だというであろう。それもそれでよい、今さら、そうしてほしくないなどとは言わない。私が問題にしたいのは人事ではない。私自身のことなのである。

2012-10-01 09:28:07
山本七平bot @yamamoto7hei

11】私自身がこの事に触れるのに一種の「決心」がいるのである。何かが、いや何かではない、「われらのうちなる横井さん」が私に「それには触れるな。それは『戦後神話』に抵触する。神話に抵触すると、どんな大変な事になるか、戦前の体験でお前はよく知っている筈ではないか」と囁くのである。

2012-10-01 09:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

12】今は確かに民主主義の時代なのである。言論は自由なはずである。そしてこれは外国の事件にすぎない。それですら一種の「決心」が必要とあっては、これが日本軍の事で、しかもそれが戦時中であれば、統制などはしなくても誰も触れまい――触れろと言われても触れまい。

2012-10-01 10:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

13】今ですら「神話の軍隊」なら、それが何をしようと絶対にだれも触れないのだから。否、他人のことはどうでもよい、私自身が触れたくないのだから――一体なぜか。何かこわいのか。これらのことは一体何に起因するのであろうか。一体なぜ「われらのうちなる横井さん」が絶えず私に囁くのだろう。

2012-10-01 10:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

14】いろいろな理由があると思うが、その一つと思われることを記したい。前に私は、日本が満州事変から太平洋戦争に道んだ道程にも、新井宝雄氏の考え方にも「是・非」と「可能・不可能」の判別がつかない点に問題があるとのべた。

2012-10-01 11:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

15】同じような視点で今の問題を取りあげれば、それは「事実の認定」と「思想・信条」とは関係ないということ、これが理解されていないということであろう。

2012-10-01 11:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

16】ロマン・ロランの『群狼』は、この問題をも取りあげている(と私は思う)が、たとえ自分が断固たる共和党員であり、陥れられたのが憎むべき王党員で、陥れたのが自分の同志の共和党員で、しかもそれが戦闘中で、その共和党員が戦勝のため不可欠な人間であり、(続

2012-10-01 12:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

17】続>更にもし事実を証言してその共和党員を告発すれば逆に自分が孤立するとわかっていても「事実は事実だ」と断言できるかどうか、という問題であろう。こういう戯曲が書かれたという事自体が、この問題は我々だけの問題でなく、私などには到底論じ切れない人類永遠の問題なのかも知れない。

2012-10-01 12:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

18】だがそういうむずかしいことは一まず措くとして、非常に浅薄な面でこの問題を取りあげるとすれば、過去において日本を誤らした最も大きな問題点は、ある事実を認めるか認めないかということを、その人の思想・信条の表白とみた点であろう。

2012-10-01 13:28:12
山本七平bot @yamamoto7hei

19】だがそうすると、事実を歪曲することが、正しい人間の正しい態度だという、実に奇妙なことになってしまい、これを避けることができず、そしてそれを重ねて行くと対象がつかめなくなるという結果に陥ってしまうことである。

2012-10-01 13:57:54
山本七平bot @yamamoto7hei

20】ロランの指摘の通り、王制を糾弾することは、ある事実を曲げて故意に誤認を強要し偽証せよということではない。それをすれば、自らが糾弾さるべき王制以下になってしまう。

2012-10-01 14:28:12
山本七平bot @yamamoto7hei

21】そういう倫理的な問題は別としても、ある事実は目前につきつけられてもこれを認めず、それに対立する事実は針小棒大にし、そうする事を、一種の正しい態度乃至はその人間の思想・信条の表白としていくと、最終的には自らの目を潰し、自ら進んでめくらになるという結果になってしまうのである。

2012-10-01 14:57:55
山本七平bot @yamamoto7hei

22】その態度を外部から見れば、ただただ異常というほかはないであろう。在米の藤島泰輔氏はアメリカにいてある日本の週刊誌を読んだ読後感を『諸君!』に次のように記している。

2012-10-01 15:28:14
山本七平bot @yamamoto7hei

24】【「生産性のない国、といえるんじゃないの(25歳、会社員)」「最近は何となくイメージかわりましたねエ。昔は富める国だったのに、今では日本の鼻息うかがってるんてすってねエ(35歳、主婦)」】

2012-10-01 16:28:19
山本七平bot @yamamoto7hei

25】【「破滅寸前の国じゃないか。ヴェトナム戦争の終結ぶりを見たってわかる。なにも日本はノコノコ追随して行くことはないよ(21歳、早大生)」「めちゃくちゃな国ですね。日本をもっとひどくするとあんな感じになるんじゃないかな(20歳、立大生)」】

2012-10-01 16:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

26】【生産性がなく、日本の鼻息をうかがっている、破滅寸前の、めちゃくちゃな国、と、この四人の日本人のいっていることを要約するとそうなる。日本は言論自由の国だから、何をいうのも勝手なのだろうが、これは少々行き過ぎではないか。】

2012-10-01 17:28:17