ILUSM - 現代異能まとめ

しばとに🎻 @sbt2___

玄関先で気だるげに腕を組み、壁に凭れる潤を見下ろしていると仕事なんざ放棄して二度寝に洒落込みたくなる。今生の別れでもあるまいし明日になればまた会えると言うのに、たった今夜離れるだけがもう辛い。「ちゃんと御飯食べてね」「わかってる」「明日の夜には帰ってくるからね」「知ってる」

しばとに🎻 @sbt2___

「あとは…えーっと」「しつこい」ぴしゃりと言われて思わずへらり。「ほら、早くしないと遅刻する。こんな時まで人様に迷惑掛けるな」「はァい」頭をがしり掻きながら踵を返そうとしたその時、腕を引かれてつんのめった。驚いている間に髪を引かれ、屈むと柔かなキス。「行ってらっしゃい、千紘」

羽燕 @htbmhtbm

－－もうこんな時間か。 息を吐きながら眼鏡を外し、千紘を見送ってからずっと向かっていたパソコン画面から目を離して伸びをする。 なんとなく、犬がいないのに外出して仕事をするというのは安全面で憚られ、奴の出張中の丸二日をオフにしてしまった。溜まった処理や報告を消化するという名目だが。

羽燕 @htbmhtbm

しかし安全面で憚られる、ねえ…むしろ今までは犬がいない時間のが長いし、別に四六時中一緒にいる訳じゃないんだが。 すっかり腑抜けた。それが感想。 いつからこんなにも、リードを引く存在がいなければ不安に感じるようになってしまったのか。保守派の名目が涙が出る程笑わせてくれる。可笑しい。

羽燕 @htbmhtbm

それでも携帯電話に病的に目線をやってしまうのには我ながら呆れ果てる思いだ。 （久々に水練…水没でもしてるかな……最近、限界まで挑戦とかしてないし。） パソコンの電源を落とし、風呂場にお湯を張り始めて何かが忘れているような気がしたがどうにもピンと来ない。犬にも注意された気がするが。

羽燕 @htbmhtbm

（まあ、思い出せないのならそんなに重要な用事でもないだろう。）

羽燕 @htbmhtbm

忘れてるもの→夕飯 昼飯は犬が出かける前に作ってくれてたのでかろうじて覚えてたけど、もうすっかり犬が料理して一緒に食べるという習慣がついてしまったため、すっかり忘れ落ちている馬鹿。 そして携帯電話が数時間くらい繋がらないフラグ。

羽燕 @htbmhtbm

（千紘、早く帰ってくればいいのに。）

しばとに🎻 @sbt2___

ユニットバスに浸かりながらぼんやりとスマートフォンを弄る。時刻を確認しながらもう眠ったかも知れないと思いつつ、指先が探す短縮ナンバー。「……」コールするのは何度目か。あまりやり過ぎてもしつこいと一蹴されるに違いないのだけれど、でも。「……」繋がらない。「…潤」声が聞きたいのに。

しばとに🎻 @sbt2___

飼い主が水練で電話繋がらないときいて。少し前ならちょっと連絡とれないと気が狂いそうになってた犬なんだけど、今はあらゆる面において「絶対の信頼」を置いてるからもうそこまでのことはなくて。でもそれとこれとは全部別。寂しい。…寂しい。声が聞きたい。ブクブクと湯船に沈みながら、流す。

羽燕 @htbmhtbm

たぶん誰も止める人間がいないから潜水の自己新記録を更新して、犬の着信に気付いて当然折り返すけど出ないっていうオチ

しばとに🎻 @sbt2___

「うっま…」「せやろ！ここ俺めっちゃ好きやってん」呟くときらきらした目で返事をしたお譲にこっちもへらりと笑ってしまう。三段トレイのアフタヌーンティー。紅茶の香りは大変良好。テーブルに来るまでは絶対シロップを使うんだと息巻いておきながら、味を変えるのが勿体無くて使えなかった。

しばとに🎻 @sbt2___

トレイの一番上に乗せられたショートケーキを口にすると緊張の解れるような淑やかな甘さが広がる。ストレートの紅茶によく合う品の良い味だった。至福。そういえばお譲の作るケーキや淹れる紅茶にも似たような品を感じる。そして同じように旨い。お譲の技術はここ譲りかと思いつつ、フォークを入れる。

しばとに🎻 @sbt2___

「(マジうま…バカウマ…)」かちりと歯に当たった銀食器、とろりと甘い苺ショート、ほうと溜め息を吐きたくなるような絶妙のストレートティー。…潤にも教えてやりたいし、叶うなら連れてきてやりたいな。「みっちゃん、なんや嬉しそうやね」「んー、生きててよかったァって」「大袈裟やなぁ」

しばとに🎻 @sbt2___

(ま、潤の作ったケーキだって負けちゃいねーんですケド)

しばとに🎻 @sbt2___

生きててよかった。潤はきっと、いや絶対に喜ぶから近いうちに連れてこよう。風情のある階段を降りながらひたすらそう思う。あーあ、東京と大阪がもっとずっと近かったら、ショーケースの生菓子を端から端まで全部買って帰るのに。

しばとに🎻 @sbt2___

無意識で弄る胸元のドッグタグ、ああ、はやく、はやく帰りたい。苦しいほどに愛しいあの恋人に、出来るなら今、今すぐに会いたい。手が痺れるほど大量の土産物を持ち直す。アーケードの菓子屋で見付けたミルクジャムが、紙袋の中でやわらかく転がるのを感じていた。会いたい。声が聞きたい。あーあ。

しばとに🎻 @sbt2___

潤にも同じことを考えてほしくて、電話をかけたいのを我慢する。我ながら悪質だと思いながらしょうもないこの俺自身の質は嫌いじゃなかった。…帰ったら馬鹿みたいにべったりして馬鹿みたいに好きって言って、そんで、潤から呆れられたい。ポケットに携帯を戻しながら、ニヤニヤするのを隠せなかった。

しばとに🎻 @sbt2___

お譲が電話するのに対して、犬はわざと電話しないんじゃね？っていう