ILUSM - 現代異能まとめ

羽燕 @htbmhtbm

結局、電話は繋がらなかった。 脇に置いたスマートフォンを腹立たしく視界に置きながら、何だこの韓国ドラマ並のすれ違いはと息を吐く。 これで千紘か俺がお互いに会う前に交通事故にでも遭って、お互いの記憶だけを都合よく喪失すれば完璧。三流芝居の出来上がりだ。…記憶が戻るまで殴るけど。

羽燕 @htbmhtbm

何時に帰るのかとか、そういえば聞いてないから迎えにも行けない…というよりも車を運転しない俺には迎えに行ってもさしたる意味はない。 （…そういえば、千紘の姿はおろか声すら聞いてないのは最高記録だな。） すっかり全ての仕事はおろか先の分までの作業を終えたパソコンを畳み、欠伸。

羽燕 @htbmhtbm

想定ではそこまで進む予定がなかったのに、妨害がないせいか予想以上にはかどってしまった。 （夕飯…は、そういえば食べてない。） 昨日もすっかり忘れて、今朝になって適当にカップ麺を胃に突っ込んでそれっきりだ。空腹に胃が泣く。まあ、またそれでもいいかと棚を物色しようとして－－やめる。

羽燕 @htbmhtbm

（どうせ千紘の事だから土産があるだろうし－－腹を満たすなら味気がある方がいい。） ソファーにだらしなく寝そべりながら、再度欠伸。昨日は潜水の自己記録更新のせいであんまり寝ていない。必要があるせいか、以前に比べて異能の精度と練度が上がっているらしい。今までは自己防衛のみだったのに。

羽燕 @htbmhtbm

寝るか。 腕を枕にして身体を丸めると、待ったましたと言わんばかりに眠気が小波のようにやってくる。 空腹を誤魔化せるし、やる事はやったし、千紘が帰ってきたら－－寝たくないし、 （これ以上千紘が居ない時間なんて耐えられない、なんて。） 我ながら人工甘味料よりも甘い発想で呆れる。

羽燕 @htbmhtbm

そもそも車もないのに迎えに行くなんて発想、自分がただ単に一刻も早く会いたいだけだ。そんな発想を自然としてしまうのは、犬にすっかり毒されてるなんて。 無意識にピアスを弄りながら、考えるのをやめて目を閉じるとあっという間に夢の世界へご案内。 （自分を起こすのが千紘でありますように。）

羽燕 @htbmhtbm

飼い主爆睡。

羽燕 @htbmhtbm

飼い主が飼い犬にメールしたりしつこく折り返したりしたいのは、 要は飼い主も飼い犬と同じ事を考えているというのを入れるのを忘れていた。悪戯と呼ぶにはあまりにも些細な。千紘も俺と同じ気分になればいいよって。

しばとに🎻 @sbt2___

…やっと着いた。高々二時間半ちょいの往来だったのにやけに長く感じた帰路だった。行きはそうは感じなかったのに。疲れからか目眩もする。家に着くまでの道程がまだ少しあるのがもどかしい。すごく、どうしようもなく。改札側で鳩羽がお譲の迎えに来ていた。中邨さんはああみえて空気を読む人だ。

しばとに🎻 @sbt2___

そんな彼の鶴の一声、現地解散で三人と別れる。今までの俺なら中邨さんと同じ家に帰っていたのだけれど、そういえば自宅に帰らなくなったのはいつからだろうかとぼんやり考えてにやついた。クソ重い荷物にも関わらず気持ちが逸ってしまって、つい、引き摺るように走り出す。…もう少し。

しばとに🎻 @sbt2___

大量の手荷物を持った俺に、あくびを噛み殺した運転手が目をぱちくりさせる。「うわあ、すごいねー兄ちゃん」「出張帰りで」苦笑しながら答えると、荷物を抱えるのを手伝ってくれた彼が声を小さくして俺を小突いた。「これ全部、彼女に…とか？」俺はにたりと笑ってから返す。「アッ、バレましたァ？」

しばとに🎻 @sbt2___

家から少し離れたところで下ろしてもらった。礼を言って抱え直し、歩くつもりがやっぱり走る。「…くっそ、マジ重っ…！」見慣れたマンションを見上げると明かりが点っていて心底でほっとした。よかった、もう少し待っててね？ 鍵束から一発で見つけられるようになったそれを捕まえて鍵を回す。

しばとに🎻 @sbt2___

大声でも上げてただいまと言いたくなるのを時間も時間だからと抑え込む。「……ん、ぇ、あれ？」無反応の部屋に不安になる。鍵を掛けて、玄関先に荷物を置いたまま部屋に上がり込むと微かに聞こえてくる呼気。安心してからキッチンを経る、と乾いたシンクにエッ、と思う。……潤、飯食ってなくない…？

しばとに🎻 @sbt2___

とりあえずそれはあとで追及するとして、まずは…。こそりとソファに近付くと横向きで寝入る姿を見つけて思わず笑ってしまった。ああ、もう。屈んで髪に触れてからそのまま頭を撫ですかす。揺すぶって起こしてしまいたい。一番にただいまって言いたいし、おかえりって言われたい。でもねェ…。「潤…」

しばとに🎻 @sbt2___

控えて出したつもりの声が静かな部屋に反響した。それでもまだ起きそうにはないし、頭を撫でるのもやめられない。「潤」たった一日。一日会えないだけでこんなに恋しくなるもんなの？ああもう、好き。好き、大好き。「…ただいま」声が聞きたい。会えなかった分、甘やかして俺の名前を呼んでよ、潤。

羽燕 @htbmhtbm

恋しそうに自分を呼ぶ声。瞬けば、焦がれた亜麻色が見える。 「…おかえり……、」 何を言われたかもよく理解をしていないのに、ほとんど反射で言葉を返す。あれ、言葉は合っている？ 「千紘、」 子供みたいに頭を梳かれながら、漢字にしてたった二文字のその言葉で自分の脳味噌が急速覚醒。千紘。

羽燕 @htbmhtbm

起こしかけた身体の上に犬が乗り、強制的にソファーに出戻りを喰らうハメになる。久々に見る夜のような目が恋しそうに俺の言葉を乞う。 「お疲れ、千紘。」「もっと。会えなかった空白の分、名前で埋めてよ。」「ん…千紘、千紘…ちひ」 その亜麻色を梳い名前を呼ぶと、途中で唇を合わせられて遮断。

羽燕 @htbmhtbm

腹が減った。お土産何買ってきた？お菓子買ってきた？出張どうだった？怪我はしてないか？ 「ね、潤…」「ん」 掛けようと思っていた言葉はたくさんあったはずなのに、犬が一度口付ける度に、深く舌を絡ませる度に一つ一つ消えてしまう。 最後に残ったのはこの言葉だけ。 「千紘、会いたかった。」

しばとに🎻 @sbt2___

たかが一日でこんな事になるなんて。…会いたかった。「潤、もっと、…はッ…もっと聞かせて、声…俺の名前も呼んで」お願い。もっと。「声が聞きたい…ねえ聞かせて。その声で。もっと。もっと」キスの合間、熱に浮かされたようにうわ言めいて呟く。絡んだ舌に噛み付いて、だれた唾液さえそのままで。

羽燕 @htbmhtbm

@heretic392 名前を請うておいて、ソファーに半ば後頭部を押し付けられながら、犬が深く唇を落としてくるのに苦笑。ねえ、キスしたいのと名前を呼ばれたいの、どっち。「は、…ぁ、ちひろ、ん、ちひろ、どうだった？」大阪と俺がいない時間。千紘も同じくらいの寂しさを感じて居ればいい。

しばとに🎻 @sbt2___

@yasaka_kz 言葉も声も欲しいのに全部潰すようなキスを繰り返してしまう。視界がぼんやりと滲み始めた。「…寂しかった」かろうじて呟いてまたどろどろのキス再開。電話も繋がらないし、メールは開けないまま貯まっていって。日中は殆ど携帯さえ覗けなかったから折り返すこともできなくて。

羽燕 @htbmhtbm

@heretic392 「…なら…は、よかった、」雨のように甘いキスを受けながら、それは返答として正しいのかという疑問は少しあったが、素直な気持ちだった。愛しい。「俺も、食事、忘れるくらい…」そこまで言ってやっと空腹を自覚する。…言ってから気付いたが、出立の時に注意されてたな…。

しばとに🎻 @sbt2___

@yasaka_kz 「やっぱり…」どろりとしたキスが扇情するようなリップ音で幕切れる。潤の背に腕を回しながら抱くように身を起こした。「…潤ちゃん、ぜってー食ってないと思った」「いや、でも昼は」「どうせカップ麺でしょ…」髪を撫でて触れるだけのキスして、問う。「潤、何が食べたい？」

羽燕 @htbmhtbm

@heretic392 こちらもキスを返しながら、犬が不在の時に感じていた不安や寂しさが解消されていくのを感じる。満たされる。「…千紘。」「エッ」「千紘がいい。」俺のおねだりに、千紘の整った顔がはっきりと苦渋に歪んだ。待てをくらった犬のような表情の下で黒い眼球が彷徨う。面白い。