【二次創作な】「フロム・ネオサイタマ・ウィズ・ニンジャ」＃３

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サボターの視界にヒョコヒョコと歩く小柄な男が写った。耐酸パーカーのフードをスッポリと被り、顔をガスマスクで覆っている。その風体は奇異だが異常ではない。もしも読者諸氏の中に呼吸器疾患を抱える方がおられれば、マッポーレベル大気汚染下のネオサイタマでは彼と同じ格好を強いられるのだ。19

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男は人の河を素早く掻き分けて喫茶店に入ってきた。そしてサボターの対面に腰を下ろし、クタリとテーブルに突っ伏した。「フィヒー…さすがに疲れた。ウェイトレス＝サン、そのう…申し訳ないが…血液循環…」男の名はモスキート。クイーン・ヨドギミサン事件を追うもう一人のニンジャである。20

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「血液…エッダメ？」「シトー、何か分かったの事ですか？収穫なし、私許さない」「ならばミルク…オーガニックがあるのか！？スゴイ！フィヒーッ！それを！…サボター！サン！一息！つくぐらい！いいだろう！何せ俺は…キンボシ・オオキイなのだ！突き止めたのだ！彼女のベッドを！スゴイ！」21

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「ハラッショ！…と言っていいのことですか、ガセはいけない」「何せこの俺が一晩這いずり回ったのだ、少しくらい信用してもよかろう」「クァック、それはどのようにしてわかったか？」「それは勿論…彼女のスメルを…」「サモン・ズィーリャ？」「奴らのオンボロ船から漏れていたオイルを辿った」22

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モスキートはIRC端末を取り出し、ネオサイタマ湾の地図を表示させた。指先がマップ上に軌跡を描く。「古事記のヘンゼル・グレーテル神話めいている。オイルは湾を半周し…キサラズからタマ・リバー支流を遡った廃基地に続いていた。そこがアジトで…囚われの姫が…ラプンツェル！フィヒーッ！」23

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感極まったモスキートが仰け反り、マイコ・ウェイトレスが運んできたミルクジョッキをひったくる。「プロー…ジット！」「トストにはまだハヤイではないか。考えること沢山」「日本には前祝いという奥ゆかしい習慣があるのだ。これは実際縁起がいいのだ！」「ロシアでは前祝い縁起悪い言いますね」24

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サボターはロシアンティーを一口啜った。モスキートは掲げたジョッキを下げ、ガスマスクから飛び出すストローでミルクを吸い始める。「決行は？」「今夜しか無いですね。連中正体分からない、移動されたらアウトの事です」「であろうな。何より…あんな連中に…我が聖女を…フィヒーッ！許せん！」27

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モスキートは憤慨し、ミルクを一気に吸い上げる。「作戦立案は任せる。俺は一晩中這いずり回っていたのだ、彼女を想えば疲れはしないが…それでも戦士には休息が要る」「勝手に休むといいですね、ただし後で文句言うは殴ります」「フィヒッ！せいぜい楽しみにしておこう！」28

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ジョッキの底に残ったミルクを啜り上げると、モスキートはヌルヌルと立ち上がった。しかしサボターはそれを制する。「一つだけ…確認したいことがあるります。あなたなぜ私に協力するかパチムー？」「協力…フム。もう少し日本語を勉強したほうがよいな、これは『利用し合っている』」と言うのだ」29

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「言葉遊びはしたくないですね。あなたこの街のニンジャ違うのことでしょう？監視が目的なら、協力する理由見つからない」「フィヒッ！フィーヒヒヒ！理由！俺がそんなモノのために動くニンジャなら、今頃左遷めいてこんな所まで飛ばされずに済んだものを！」モスキートははのけぞり、笑った。30

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「逆に聞こう。キミは何故スパイなどになった？どうせ組織のために生きるなら…もっと真っ当な道がいくらでもあったはずだ」「……」「フィヒヒッ、どうせ我らは外道。組織に忠誠を誓う事も、さりとて一人でやっていく事もできぬコウモリ。ならば…役得！それ以外に何があろう！無い！」31

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憮然とした顔のサボターを前に、しかしモスキートは言葉を続ける。「外道同士腹を割ろうではないか、キミは保身の為、俺は役得の為。褒められた理由ではないだろうが…手を組む理由としてはそれで充分、途中で道を違えたなら互いに裏切ればそれでいいだろう？俺はドライな関係が好みなのだ」32

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「…一つ、約束するしなさい。彼女に危害は加えない、これとても重点です」サボターが言うや否や、モスキートの右腕から毒針が飛び出した。サボターはイスを蹴立てて立ち上がり、パンキ第一防御の構えを取る。店中の視線が二人に集まり……やがて二人はゆっくりと腰を下ろす。33

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「俺は紳士なのだ…それは俺が俺に課したルールなのだ。それだけは疑ってほしくない」モスキートの毒針がスルスルと収納されてゆく。「ハラショ！」サボターは笑った。「あなたの考え変態的ですね、私分かりません。でも…手を組む相手としては申し分ニェット」「フィヒッ、光栄だな。さて…」34

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モスキートはクレジット素子をテーブルの上に置くや、フラフラと店を後にした。サボターはぬるくなったロシアンティーを飲み干し、しばし思案した。35

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その夜、イッキ・ウチコワシ基地。元は営倉と思しき鉄格子の中、囚われのエニ・ジョーレンはアグラ・メディテーションを続けていた。傍らの皿にはスシパンが乗っている、しかし彼女がそれに手を付けた形跡は無い。ボンズである彼女は、食事を拒むことで抵抗の意思を示しているのだ。何たる非服従！37

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鉄扉が開き、営倉に光が差し込んできた。コツコツと油断ならぬ足音が近づき、牢の前で止まる。エニが目を開くと、青紫色の装束に身を包んだニンジャが立っていた。その整った顔はまだほど若いが、たたえられた微笑みは思慮深さを表している。「ドーモはじめまして、私の名前はラプチャーです」38

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エニは嫌悪をあらわにするが、ここで返答を拒むような育ちではない。眉根をひそめつつ、「ドーモ、ラプチャー＝サン。エニ・ジョーレンです。…今更名乗るまでも無いでしょうが」彼女にできる最大限の侮蔑を込めてアイサツを返す。ラプチャーは手の平を上に向け、肩をすくめた。「これは手厳しい」39

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ラプチャーが鉄格子に手をかざす。鍵穴の機構が動き…扉が開いた。ネンリキである。「移動です。貴女のような淑女をいつまでもこのような所に閉じ込めておくわけにもいかない。本部までお連れしましょう」「人攫いの不信心者共に従うとでも？私は動きません、動かしたければ力づくでドーゾ」40

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「これは困った。人質に傷を付けるわけにはいかない」「慣れている、という風情ですね。そのお顔で何人の女性を騙しましたか？」慧眼めいてエニの視線が鋭さを増す。「騙すなどと。私は真実を語る、革命の真実を。ここは寒く荒れ果てている、どうか私にエスコートをさせてはもらえないでしょうか」41

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ラプチャーは跪き手を差し伸べる。だがエニは、そしてその意志は動かない。「生憎です。私には既にナイトが居ります。確かに、少し奇妙なお人ではありますが…あなたなどより余程信じられる。革命？真実？空虚な言葉です。私はブッダのお導きと、そしてあの方の正直な言葉こそを信じます」42

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「…断られてしまいました」「ええ」エニは再び目を閉じた。ラプチャーはしばしの逡巡の後、ネンリキで無理やりエニの体を動かすべく…両腕を交差させ力を込める！エニの体が僅かに軽くなった、その瞬間！KABOOOOOOOOOOOOM！！爆発音とともに施設全体が揺れる！43

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天井から剥がれたコンクリートがパラパラと降り注ぐ。警報が鳴り、怒号が上がる！KABOOM！KABOOM！断続的に響く爆発音！狼狽するラプチャー！「襲撃…！？ハヤイ過ぎる！」「ほら。いらしたでしょう？」このシュラバの中、エニは、勝ち誇るかの如く微笑んだ。44

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「フロム・ネオサイタマ・ウィズ・ニンジャ」＃３終わり　＃４へ続く