1992年のこと。当時、四谷にある大学に通っていたわたくしは、学園祭で自分の大学オケのコンサートをみていた。コンサートといってもホールなどない大学なので、教室の一角で1日中名曲をだらだら弾きまくるゆるーいコンサートだった。
2010-08-03 23:31:37何曲か聞いたが、つまらんので帰ろうと、エレベータに乗って降りた。そのとき、見慣れた顔が入れ替わりにエレベーターに乗った。一瞬、見るはずのない場所でみたので、面喰った。小澤征爾さんだった。
2010-08-03 23:33:27うん? なんでうちの大学で小澤征爾??? 不思議に思ったが、あわてて、エレベーターに乗りなおし、一緒について行った。教室に小澤さんは教室の一番後ろに入るとオケのコンサートをみはじめた。
2010-08-03 23:35:12どうもまったくの予告無しのアポなし訪問である。そのうち観客の一人が気付いた。だんだんざわめく客席。客席といたって、教室に椅子が数十ならねているだけの小教室。そのうち大騒ぎに。何よりオケのメンバーが騒ぎ出す。
2010-08-03 23:37:11そりゃそうだ。なんの気合も入ってない、普段本番にでることもないような、1・2年を中心とする練習みたいな発表会の場に、小澤征爾がきているのだ。何より、かわいそうなのは、指揮者。そのとき振っていたのはエグモント序曲。
2010-08-03 23:39:24指揮者っていったって、普段指導を受けている汐澤氏でもなければ、学生の正指揮者でもなく、ただのパートリーダーが拍をきざんでいるだけなのだ。だんだんあせる指揮者君。汗だくになりながら、エグモントの演奏を終える。全員の視線が小澤さんに集まる。
2010-08-03 23:42:31小澤さん、まさにその場の全員の期待通り、指揮台へ向かおうとする。大喝采! びっくりしたのはオケだ。それも、舞台に乗っているメンバーではなく、客席でぼーっと後輩の演奏をみていた先輩だ。あの小澤征爾が振ろうとしている! あわてて楽器を取り後輩を押しのけ座ろうとする!
2010-08-03 23:45:44大騒ぎの中、指揮台に立った小澤さん。「いやー、実は娘がこの大学に通ってまして、そこでクレープ焼いてるのできてみたんです。そしたら、オケのコンサートがあるみたいなんで来てみました。せっかくだから、ちょっとやってみますか!」再び大喝采!
2010-08-03 23:47:58エグモント序曲を振り始める小澤さん。それも最初の数小節だけを繰り返し、繰り返し。だんだん反応よくなるオケ。さっきまでの気合の抜けた演奏とは大違い。みな必死に反応しようとする。
2010-08-03 23:51:0015分ほど、繰り返し、細かく指導した後、小澤さんは 「どんな曲でも繰り返し、繰り返し真剣に演奏することが重要。ぼくも斎藤先生にモーツァルトのディベルティメントを何回やらされたかわからないです。今度はギャラもらったらまた来ます」と笑いながらいい、去って行った。
2010-08-03 23:54:08以上、小澤征爾の思い出でした。ウィーン国立歌劇場では、燃え尽きることができなかった感のある小澤さんですが、指導者として、もっと日本で活動してもらいたいです。
2010-08-03 23:56:28