山本七平botまとめ/【軍隊語で語る平和論②】/戦争を指向する「軍隊語」を操る人の精神構造とは?/~主語や時制が明らかでない日本語では戦争は不可能~

山本七平著『ある異常体験者の偏見/軍隊語で語る平和論/25頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】ショックを感ずる対象は、私の場合は言うまでもなく「軍隊」と「戦争」と「戦時中の言論」だが、この言葉の規定が、他の人と非常に違ってくることは、前述の牧師の言葉へのショックででも、理解していただけると思う。<『ある異常体験者の偏見』

2012-10-28 01:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

2】簡単にいえば、まず、どんなにごまかしてまことしやかに書いてあっても「偽物」はすぐわかるから、それには全く反応を示さないことである。

2012-10-28 01:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

3】…「百人斬り競争」を調査された鈴木明氏の記述の中で、どこかの誰かが何かに「十挺の機関銃で十万人の中国人を虐殺した」と書いている旨、記されており、氏も…深い疑問を表明されていたが、世界最低の粗悪品…「故障式」という渾名を頂戴した十一年式軽機なるものの実態を知っている者には、(続

2012-10-28 02:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

4】続>はじめから嘘にきまっているから、今こう書いていても、その出典を調べてみようという気さえ起らないのである。またいわゆる「軍隊小説」とか「軍隊映画」とかは、何かの拍子で偶然目に入ってきても、なんの反応も起さないことが多い。

2012-10-28 02:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

5】たとえば将校が、あらたまった調子で「皇軍」「皇軍」と連発し、兵隊が「ハッ」「ハッ」などと返事をすれば、もう滑稽になってしまう。 もちろん皇軍という言葉も使われたけれど、これはあくまでも通称もしくは俗称であって、大日本帝国陸軍の正規の略称は「国軍」であって「皇軍」ではない。

2012-10-28 03:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

6】したがって叱られるときは「諸官それでも国軍の幹部か!」「国軍のテイカンたるべき将校が……」「国軍の伝統に従い……」…であって、こういう場合には絶対に皇軍とはいわない。「皇軍」や「無敵皇軍」はおそらく新聞造語であり、外部から軍隊に入ってきたはずである。

2012-10-28 03:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

7】というのは老将校ほど、普通の場合でも「国軍」と言って「皇軍」とはいわなかったからである。 また返事は絶対に「ハイ」もしくは「ハイッ」であって「ハッ」ではない。「ハッ」などといったら、初年兵なら、その場で撲られるはずである。

2012-10-28 04:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

8】以上はほんの一例だが、戦争中、いわば新聞等によって外部からデッチあげられた虚像の軍隊通りに何かが演ぜられていても、それは現実に私がいた場所とは何の関係もないものだから、ショックなどは起るわけがない、ということであろう。

2012-10-28 04:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

9】特にいい加減な「軍隊語」は噴飯物である。軍隊語とは単なる言い回しや表現の問題ではなく、主語や時制が明確でない日本語では軍隊の運営も戦争もできないが故に特別に造られた言葉であって、この言葉を正しく分析すればそれだけで戦争というものの実体が掴めるのではないかと思われる言葉である。

2012-10-28 05:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

10】従って語系が違うと考えた方がよいかも知れない。 「大阪弁では喧嘩はできない」などといわれるが、もっともっと徹底した意味で「日本語では戦争はできない」のである。 私自身はこのことを非常に誇りに思っている。

2012-10-28 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

11】たとえば普通の日本語の「お待ちしております」では戦争はできない。そこで軍隊語では「小官当地ニテ貴官ノ来訪ヲ待ツ」という言い方になるわけであって、この語順が何語に一番近いかは説明するまでもあるまい。 しかしそれだけではない。

2012-10-28 06:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

12】軍隊語といってもいわば「軍隊文語/口語」「将校語/兵隊語」の別があって非常に複雑でその表現も実に多岐にわたるが、これらの言語の背後にある「哲学」とでもいうべきものは、言う迄もなく人間を戦争にひきずり込む事、いわば「戦争指向の精神構造」に基づく言語哲学とでもいうべきものである

2012-10-28 06:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

13】それは厳然として存在するものであって、そして、存在するのが当然である。軍隊時代、自分の方から興味をもったものと言えば、この「軍隊語」と「軍隊内地下出版物」だけだが…しかしそれ以上に興味をもったことも確かで、今でも日本語と軍隊語の差はほぼ正確に指摘できると思う。

2012-10-28 07:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

19】私はいつもこの二つの言葉を比較して「なるほど、戦争とはこういう言葉を使わないと出来ないものか!そして、こういう言葉を使う事は、戦争を指向する証拠の訳か!」と思っていた。 言葉そのものから体系的に組みかえて行かない限り戦争はできないのだから、軍隊語は「戦争語」だといっていい

2012-10-28 07:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

20】前に新井氏の文章に軍人的断言法があると書いたが、新井氏はむしろその要素は少ない方で、ひどい人になると昔の軍隊語と全く同じ語系の言葉で、平気で、いわば「戦争語で平和を叫んでいる」のである。

2012-10-28 08:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

21】これはその昔「……東洋平和のためならば、なんて命が借しかろう」という軍歌をわれわれに歌わせた軍人たちが「軍隊語=戦争語で平和を叫んでいた」のと全く同じて、私にとっては、これくらい気味の悪いものはない。 というのは、内容は平和でも言葉自体が戦争を指向しているからである。

2012-10-28 08:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

22】両者とも、どう見ても嘘をついているとしか思えない。 それはその内容をその言葉自体が否定していることから明らかなはずで、平和は「平和語」でしか語れないはずだからである。

2012-10-28 09:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

23】…この違いが私のいう偽物と本物の意味で、いかに旧軍隊らしく仮装していてもそんなものには驚かないが、いかに平和の仮装をしていても、それが語る言葉の語系が、というのはそういう言葉を使うその人の精神構造が、軍人=軍隊同様なら、瞬間的に二、三歩飛び下がってしまうという事である。

2012-10-28 09:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

24】それは軍隊時代のことをたのしげに語っている人のところヘ、いきなり本物の「鬼軍曹」が現われたら、たとえその鬼軍曹が「市民」らしく仮装していてもその人は一瞬にして、巡査を見たI社長の如くにとびさがるであろうということである。

2012-10-28 10:28:04