山本七平botまとめ/【軍隊語で語る平和論④】/欠陥兵器集団だった日本軍/~「兵器に人間を合わせろ」→「人海作戦」→「馬の目」~

山本七平著『ある異常体験者の偏見/軍隊語で語る平和論/44頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】新井宝雄氏の「強大な武器をもった日本」という言葉と、一種の「精神力→人海作戦」を連想さす発想にぶつかったとき、瞬時にして目の前に現われたのが、この「目」であった。というのは、この「目」は、この二つの言葉と密接な関係があるからである。<『ある異常体験者の偏見』

2012-10-28 22:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

2】というのは、欠陥兵器をもたされ、いざという時にタマが出ず、「アーッ、ダメッ」という状態になったときと、また人海作戦で、疲れ切って頭の中が完全に空洞状態になり、幽鬼のように歩いているとき、人は、あの「目」で、ただ「見るだけ」の存在になってしまうからである。

2012-10-28 23:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

3】強大な武器、強大な武器、ああとんでもない、日本軍とは、強大な武器をもつどころか、欠陥兵器集団であった――だがそういえば、おそらく異論百出するであろう。 しかしその前にまず私の言い分を聞いてほしい。 一体「これは欠陥車だ」という権利があるのはだれか?

2012-10-28 23:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

4】それはユーザーだけである。もちろんメーカーは否定しよう。それはそれでよい。 ただし、その車を運転したことのない人間には、発言権はない。 では一体、兵器のユーザーとはだれか。それは兵士だけなのである。

2012-10-29 00:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

5】確かにユーザーの意見と、メーカーまたはメーカーの代理人の意見、または広告屋の意見は違うであろう。 ただ私が知っているのは現場だけである。従って私がいうのはいわば車に対する「タクシーの運転手」の意見、末端の管理者兼ユーザーの意見、「無言の意見」の代弁である。

2012-10-29 00:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

6】「無言の意見」とは何か、それは口を封じられても、動作に出てくる意見である。だがその前に、兵器のメーカーがだれであったか考えてみよう。確かに軍需工業が造り、また下請にも出し(これが問題!)、工廠でも造ったであろう。

2012-10-29 01:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

7】私たちの砲は、大阪兵器工廠製であった。だがこれらもすべて下請である。というのはメーカーとはブランドを入れたものを言うはずだからである。たとえばソニーの製品といえば、それが自家工場製であれ、下請工場製であれ、メーカーはあくまでもソニーであろう。

2012-10-29 01:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

8】出版社などは全部下請制だが、たとえば落丁・乱丁かあった場合、取換えの責任を負うのは出版社であって、「それは製本屋のやったことだから私は責任がない」などということは、もちろん絶対に許されない。

2012-10-29 02:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

9】とすると、日本軍の兵器にブランドを入れた者、すなわち普通ならメーカーとしての立場にある者はだれなのか。 実は天皇なのである。 小銃には菊の御紋章というブランドが入っている。そして本当のユーザーは、そのほとんどすべてが星二つの陸軍一等兵なのである。

2012-10-29 02:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

10】天皇がメーカーでユーザーが一等兵――これでは「欠陥兵器」という言葉が存在することすら許されなくなるのがあたりまえである。それが「無言の意見」を代弁するといった理由の一つである。

2012-10-29 03:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

11】「兵器は神聖だ」と、まるで天皇の分身の如くに扱われたあの軍隊、銃を倒したら重営倉、一類兵器を損傷したら重営倉、銃剣の小さな傷痕まで細かく記録され、もし新しい傷痕を作ったら、表沙汰にならなくても恐るべき私的制裁という場所だ。

2012-10-29 03:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

12】もし一兵士が菊の御紋章のついた小銃を指さし「これ、欠陥兵器じゃないスか」と言ったら一体どうなるか――ところが私は星一つの分際で、つい、それを言ってしまったのである。だが、これについては後述しよう。

2012-10-29 04:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

13】ここで、欠陥車と人間という関係を考えてみよう。この場合もし、欠陥車が完璧で、批判を許さぬ神聖なものとするなら、すなわち車を絶対の基準とされるなら、今度は逆に、それを運転出来ない人間は欠陥人間だということになってしまう。

2012-10-29 04:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

14】即ち欠陥車と考えるか欠陥人間と考えるかは、いわば相対的な事で、どちらを中心に考えるかという問題にすぎない。人間中心なら欠陥車、車中心なら欠陥人間という事になるわけである。これは有名な言葉だから知っている人も多いと思うが、軍隊には「編上靴に足をあわせろ」という言葉があった。

2012-10-29 05:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

15】合わない靴というのは、その靴自体がどれだけ完全であろうとその人にとっては「欠陥靴」である。その場合、靴自体は完全だ、という言葉は理由にならない。だがこれはあくまでも人間中心の考え方で、もし靴中心に考えれば、靴自体に損傷がない限り、合わない人間の足が「欠陥足」だという事になる

2012-10-29 05:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

16】靴は被服で、被服だからまだこの言葉が出てくる余地があるわけだが、これが兵器ともなると、こういう言葉すら出て来ないほど、兵器中心が徹底的であり、兵器対人間の関係などという発想すら許されないほど徹底的であった。

2012-10-29 06:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

17】従って「日本軍は欠陥兵器集団などというのは嘘だ」という人がいても私は不思議に思わない。 この完全兵器・欠陥人間という考え方は、そういう考え方をしているのだと意識させないまでに徹底していたからである。

2012-10-29 06:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

18】同時に何の疑いもなく新井宝雄氏の様に「強大な武器をもった日本」という言葉が出てくる事は、欠陥兵器という考えは勿論「人間と兵器は相対的関係」という発想すら許さなかったほど兵器が決定的に中心であって…旧軍隊の延長線上にある言葉としか受けとれない。

2012-10-29 07:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

19】そして「兵器に人間を合わせろ」は結局「情況に人間を合わせろ」であり、それが最後に行きつくところは、人海作戦であって、そのとき人間は人間でなくなって、あの「目」になってしまうのである。これは確かに同じ発想から出ている。

2012-10-29 07:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

20】というのは、一言でいえば「兵器と人間」を相対関係と考えることを許さないことは、「作戦目標の達成と人間乃至は人間の能力」は相対関係だと考えることも許さないのと同じ発想だからである。 これが日本軍の宿命的ともいえた病弊であったことは、先日、ある座談会で藤原彰氏も指摘された。

2012-10-29 08:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

21】すなわち「作戦目標達成に人間をあわせろ」になるから、その為には「わが方の損害」を一切無視してもよい事になってしまう。

2012-10-29 08:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

22】簡単にいえば「全滅しても突撃せよ」が当然であっても「作戦目標の達成とわが方の損害は相対関係だから、たとえ目標を達成しても、わが方の損害が異常に大きければそれは失敗(敗北)だ」とは考え得ない。

2012-10-29 09:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

23】この発想の基本は確かに今もあって、「経済成長に人間を合わせて公害を無視した」ことにもなれば、「経済的目標達成に人間を合わせた大躍進・人海作戦」に感激することにもなるのであろう。

2012-10-29 09:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

24】しかし何よりも恐ろしい事はある種の評論家のヴェトナム戦争への評価に、この旧軍人の考え方と全く同じ考え方が出てくる事である。しかもそれを「軍人的断言法」で書かれると、私などは「右側を歩きましょう」というビラを突きつけられた様にとびさがってしまう。こういう人は、日本軍の幽霊だ。

2012-10-29 10:28:06