ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード #4

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「アバーッ!?」ナ、ナムアミダブツ!ニンジャは何の躊躇も無く、破壊されたカケルの脚をチョップで切断した!「アバババーッ!」カケルは泣き叫んだ。「運べ」オーファンは同じ顔、同じ仕草のヤクザ達に命じた。カケルは消毒・止血処理を施され、ワゴン車に放り込まれた。 25

2012-11-09 14:30:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!アバーッ!」「フハハハハ!」走行するワゴン車内は広く、カケルは無造作に転がされた。泣き叫ぶカケルを眺め、オーファンは心底面白そうに笑った。「その脚はこれからタダでサイバネティクスに手術してやる。スピード施術だ……ウフフフ……バイクも用意してやる。喜べ。そして走れ」26

2012-11-09 14:36:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「な、何だと畜生ーッ!」「もっと遊べと言っているんだよ、非ニンジャのクズめ。しかも奴隷にすらなりきれぬ非生産的存在ときている。そんな貴様を私が役に立ててやるというのだ」「アバーッ!」「……ZBRをくれてやれ。うるさくてかなわん」「ハイヨロコンデー」「アバーッ!」 27

2012-11-09 14:39:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

絶望と無感覚がカケルを包んだ。遠くにオーファンの声が聴こえた。「喜べ……好きに遊べ……お前はエサになるんだよ……エサにな……ドルフィンを釣るエサに……そしてドルフィンは、奴らを釣るエサに……喜べ……」 「畜生」カケルは呟いた。「こんなかよ……こんななのかよォ……」 28

2012-11-09 14:57:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなた症状どんなアレですか」「倦怠感でしょうか」「エート……来た事あるんでしたっけ今まで」「いえ、初めてです」「モリタ=サン、イチロー・モリタ=サンと」ドクターは電子カルテにタイピングしながら虚ろに呟いた。「モリタ=サン、初めて、モリタ=サン、倦怠感ねこれ。倦怠感これ」 30

2012-11-09 16:48:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

UNIXモニタに「イチロー・モリタ」「倦怠感」と打ち込み、「薬物やってますか」「いえ」「IRC。一晩中IRCとかゲームとかねやってますか」「いえ」「倦怠感どのくらいですか具体的倦怠感」「よくわかりません」「アー……よくわからないですよね。そういうものですね自我障害ね」 31

2012-11-09 16:50:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「自我障害ですか」「自我障害ねテクノストレスこれね自我が障害、現代の病ですねIRCとか。そんなにやってなくてもね。テクノストレスすごい避け難い現代社会これ」「ハイ」イチローは素直に頷いた。「まあとにかく初回はねあちらのブースでニューロンをリラグゼーションして頂いて」「ハイ」 32

2012-11-09 16:52:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドクターは椅子から立ち、隣室のカーテンを引き開けた。「ドーゾ、ね」イチローを促す。「ハイ」イチローは隣室へ入り、リラグゼーション機を眺めた。「これね。ここから音楽とリラグゼーション出ます、ニューロンキックは初回はやらない。心の準備しないと。これメタファーじゃない準備期間」 33

2012-11-09 16:55:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よくある事なのですか?倦怠感は」イチローはたずねた。ドクターは機械を起動しながら、「まあ倦怠感よくありますね、今のところ症状をね切り分ける事できないから初回は準備ニューロンの。リラグゼーション。これやらないといけませんから……」「このボタンは?」「これはね……」 34

2012-11-09 16:58:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イチローは繰り返しドクターにたずねた。その背後、カゴに入れられた彼の鞄から、縄めいたものがスルスルと這い出て来た。……蛇だ!コワイ!ドクターはイチローに集中しており、その蛇が診察室の床を這い進み、机のUNIXに這い寄ろうとしている事に気づかない。 35

2012-11-09 17:00:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蛇は机の上へ這い登ると、チロチロと舌を出しながら、整頓されたファイル類を物色した。やがて蛇は目当てのものらしきフロッピーディスクを見つけ出し、器用に噛んで棚から引き出した。首を振って勢いをつけ、カゴの鞄めがけヒョイと投げた。鞄の口にストライク!ポイント倍点! 36

2012-11-09 17:09:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒートリ、コマーキタネー……ミスージノ、イトニー……。隣室から漏れ聞こえるサウンドを蛇は一瞥し、チロチロと舌を出した。それから驚くほどの速さで、スルリと鞄の中に入り込んだ。何も知らぬドクターは腰を叩きながらUNIXデッキに戻り、カチャカチャとタイピングした。 37

2012-11-09 17:13:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて音楽が終わり、イチローが診察室に戻ってきた。「どうですか」ドクターは尋ねた。「どう、とは?」「感じとか何か感じとか感じますか」「……」イチローは数秒沈黙し、ドクターを真顔で見た。「……わかりません」 38

2012-11-09 17:16:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「アーハー、ハーハー」自我科クリニックを後に、フィルギアは面白そうに笑う。彼は既に人間の姿に戻っている。「リラグゼーション音楽、楽しかったかい」「ご苦労だったな」ニンジャスレイヤーは答えた。トレンチコートにハンチング帽。 39

2012-11-09 17:22:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こんな事、犯罪だよ、犯罪……いけない事だぜ」フィルギアはニヤニヤと呟いた。「犯罪者だよ……」「特にトラブルも無く手に入ったな」ニンジャスレイヤーはフロッピーディスクのラベルを確認し、頷いた。あの自我科を訪れた、過去二年の患者リストである。 40

2012-11-09 17:27:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

なぜ彼らは芝居を打ってまでそんな物を?ケンザ・キシオミに辿り着く為である。……ニンジャスレイヤーはまず、ハッカーのナンシー・リーに依頼し、モママ銀行のネットワーク上の社員情報を探った。結果、ケンザ・キシオミの在籍事実は虚偽の内容であった事が確認された。 41

2012-11-09 18:06:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もう一方の被害者、依頼者の娘であり、ケンザと同じタイミングで殺害されたマカナ・ムツコ。彼女は服飾見習い、20歳の平凡な市民だ。後ろ暗いところは無い……ように思える。試行錯誤の末、ニンジャスレイヤーは彼女の入出金記録をあたる。結果、まず、自我科への通院歴が浮かび上がった。 42

2012-11-09 18:17:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自我科への通院はネオサイタマにおいてさほど珍しい事とも言えない。だが、同居の両親にこれを隠していたのは、受診理由が違法薬物への依存であったからだ。いきおい、ケンザとの出会いのきっかけも、両親は把握していなかった。実際のところ二人の馴れ初めの場は、自我科の待合室であった。 43

2012-11-09 18:25:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタ、よくまぁ辿ったもんだよなァ」フィルギアはフロッピーディスク情報を読み出したUNIXデッキの検索結果画面を、後ろから覗き込んだ。ニンジャスレイヤーは言った「彼女が抱える違和感は僅かだ。故にその僅かな違和感が、かえって、何らかの事実に繋がると考えた」「アタリだなァ……」44

2012-11-09 18:36:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モニタには、名簿から抽出されたマカナ・ムツコの名が……そしてケンザ・キシオミの名が並んでいる。「別に、隠す事無いのにな」フィルギアは呟いた。ニンジャスレイヤーはケンザの住所情報を書き留める。「デタラメかもよ……」「その時はその時だ」「そうね」フィルギアは欠伸をした。 45

2012-11-09 18:58:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「ドーモ、イチロー・モリタです」ニンジャスレイヤーはオジギし、デッカー手帳を見せた。偽造品だ。年老いた大家は呻いた「エヒッ、ハイ、確かに」繰り返し頷き、「私、何も悪い事してないですよ」額の汗をハンケチで拭う。デッカーは恐ろしい権力存在であり、人は卑屈になるものだ。 46

2012-11-09 19:10:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大家はUNIXを操作し、「ケンザ・キシオミ=サン……?ああ、202号室ですね、確かに契約が有り、アッ!まさか、その人が事件したのですか?犯罪の!そんな!私は無実ですよ!何も知らない!ヤメテ!」「いや、落ち着いてください」ニンジャスレイヤーは制止した。「では確かに契約が有ると」47

2012-11-09 19:18:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「契約、有ります、ハイ」「中を見せて頂いても?」「勿論です。向かいのマンションなので」彼はためらいなく合鍵を渡した。「私、何も知らないし、無実ですよ。本当困ります。こういうの。私を逮捕しないでくださいよね」大家は繰り返した。48

2012-11-09 19:24:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒヒヒヒ、アイツ、あの大家、絶対何かやってンだろなァ……ビビり過ぎだぜ、あれ」鞄から蛇のフィルギアが滑り出し、人間の姿を取った。「アンタも今まさにやらかしてるけどな……」「開ける」ニンジャスレイヤーは鍵を差し込み、202号室の鉄扉を押し開けた。嫌な軋み音。 49

2012-11-09 19:31:46