『蛹』

12
@lowen_lowe

放送。『ンバス大尉、少将がお呼びです』彼は端末をスリープにして席を立つ。要人機はVIPルームと客室が区切られていた。少将以下、調査団の面々が彼を迎えた。「大尉、見損なったぞ。まだ導入に反対するのか」くそ、端末を監視していたのか。「あんなもので人的損害を増やすべきではありません」

2012-11-11 02:10:34
@lowen_lowe

「あんなもの、だと?」将校の一人が立ち上がった「貴官は我が首都が攻撃を受けるのを良しとするのか。対案を出したまえ」「地上軍の防空ミサイルを戦闘機で誘導します。レーダーより目です」システム的には可能だ。メーカーは売り込んでいる「貴様!地上軍にまで媚を売るのか!」不採用の原因がこれだ

2012-11-11 02:13:24
@lowen_lowe

「大量のCAPを上げておくのが非現実的なのは貴官も理解しているはずだ」温和な将校がいった。「中将閣下、敵機に撃墜されるなら誰もが納得するでしょう。しかし離陸で死ぬなど受け入れられないはずです。士気に関わります」中将の怒声「ではどうするというのだ!みすみす首都を爆撃させるのか!」

2012-11-11 02:16:08
@lowen_lowe

結果から言うと、カタパルトが実戦で使われることはなかった。その前に国民が暴動を起こし、政府は戦争遂行を諦めざるをえなくなったのだ。政権を握っていた軍のトップは国を逃げ出し、あるいは捕まって裁判にかけられた。その中に人体改造に携わった将校団と技術者がいくらか含まれていた。

2012-11-11 02:20:20
@lowen_lowe

そう、人体改造は行われたのだ。彼らは最初からカタパルトを全力で使う気だった。しかし、それが幸いし、本格的な実用化が遅れ、優秀な若者たちを社会復帰できない身体にする悪夢の計画は規模が小さい悪質な戦争犯罪にとどまった。

2012-11-11 02:21:55
@lowen_lowe

「サボタージュを主張すれば楽なものだったよ。戦闘機マフィアの中から『本物』がいくらか出てきて改造を受け入れてくれた。彼らは通常戦闘機に乗れれば身体などどうでもいいのさ」かつて連絡将校だった男に、かつて大尉だった男が語りかける。「なるほど、うまくやったものです。それで、貴方は」

2012-11-11 02:24:06
@lowen_lowe

「そう、貴方は、暗殺されると思って、要人機を飛び出したというわけだ。パラシュートで。成層圏から」両足を失った大尉は、既にパイロットではない「それ以外に何ができたというんだ。私は死体袋には入りたくない。墓に入ったり棺桶で飛ぶよりも、翼を失うほうがましさ」

2012-11-11 02:26:26
@lowen_lowe

連絡士官だった男の苦笑は何年か前とかわらなかった。「そうですか。亡命生活はどうです。住めば都の我が国ですが」「悪くない。蜜壷アリのフライがあればもっといいんだが」「そうですか。ところで、我が軍がインストラクターを増強するようで」大尉が眉をひそめる

2012-11-11 02:29:09
@lowen_lowe

「戦勝国が調子に乗っているからか」「ええ、ここでも隣国が調子づいている」「条件は」「脚のサイボーグ化、ミルスペック」大尉はコーヒーを噴出す。その姿を見て、士官は盛大に笑った。「運命は変えられないということか」「悪いものではありません。ようこそ、大尉。歓迎します」

2012-11-11 02:30:46