斎藤環氏などのアウトレイジ ビヨンド映画評
昨日、ようやく北野武の『アウトレイジ ビヨンド』を観た。葬式のような映画だと思った。
2012-11-08 16:43:27止め絵がほとんどなくて、『座頭市』で実験してた、ふわふわ動くカメラワークが板についていた。抗争そのもの、暴力そのものは淡白、というか、「結果だけ」という感じ。その前の、駆け引き(コミュニケーション)や策謀の時点で全ての結果が出ているかのような。動くカメラがそこに合っていた。
2012-11-08 16:45:30今作は明白に「コミュニケーションの暴力」を描いていた。威圧、謀略、空気、などなど。人を操作する言葉の巧みさで魅せる映画だった(だから、前半の方が良い)。悪役が、疑心暗鬼や人望の喪失によって敗北させられるパターンも北野映画では初めてでは。
2012-11-08 16:47:22だから、加藤は、刺されないで欲しかった。あのパチンコ屋に行くときの風貌で充分だよ、と思った。
2012-11-08 16:48:44『アウトレイジ』コントロールと謀略でハメられてみんな死ぬ 『アウトレイジ ビヨンド』コントロールと謀略を仕掛けて勝った人間が反撃されてみんな死ぬ という映画。
2012-11-08 16:50:11息が詰まるほど救いがなくて陰惨な感じだった。初期北野映画にあった、抜けるような「美」の出口もない。「美」や「芸術」という逃げ道すら封印されて描かれるこの世界(基本構造は『ソナチネ』と変わらない)は、救いようのない地獄のようだ。
2012-11-08 16:51:33ポスターを眺めていて、ブリューゲルの絵画を思い出したけども、そんな風な、滑稽な人間世界の「地獄」そのものを笑うような映画なのかもしれない。しかし、救いがない。陰惨だ。
2012-11-08 16:52:24「けじめ」とか、「若者の死」とか、その人間が熱くなったり、重きを置いている価値を見抜いて、うまくそこをくすぐるような言葉でたきつけてコントロールする片岡の存在感が、一番強い映画だった。実質、彼が主役であり、最大の悪役であったのだろうな。
2012-11-08 17:20:56『アウトレイジ ビヨンド』は、北野監督独特の構図が少なくて、カラーも少なかった。画の北野節を封印して他の方へふりきったように見えました。前回よりもミントがかった緑も写りこみも少なかった。心理のかけひきと救いのなさが描けていた。
2012-11-10 22:32:47やくざが無造作に銃殺されてゆく場面は、直接的に描かなくてもよかったなと鑑賞中は思ったけども、先の震災で大量に人が亡くなったのだけれも度、あの扱いの無機質さ無造作さととればあってもよいかなと思いました。なんというか、深作オマージュのような赤も使われていて対比ができてよいです。
2012-11-10 22:37:17深作の『仁義なき戦い』では、下っ端のチンピラさんが膝をまげてがくがくしながらカメラワークも含めて動的に何度も発砲してやくざを襲うのだけれど、北野監督は棒立ちで、構えもなしに唐突に静的に銃を発砲する。銃を撃った衝撃もうけないという描写(以前からそうだけれど)。
2012-11-10 22:41:02これは映画の本質とは関係なのだけれども、深作と北野の映画を観ると、銃って何度も発砲しないとなかなか死なないのだなと思う。深作の仁義なきでは、撃ちそこないもとても多くて、ハリウッドのどの映画と比べても銃殺シーンや襲い方がどろくさい。
2012-11-10 22:44:52前作の『アウトレイジ』は昔のキタノブルーより少しミントがかった色と漆黒の拘りが良かった。今回は引きのはっとするような画が少ないのだけれど、三浦友和がパチンコ屋さんに行くシーン、加瀬亮がバッティングセンターで顔にボールを受け続けるひきの画が印象的でした。
2012-11-10 22:51:59『アウトレイジ ビヨンド』は、北野監督の芸術性をあえて引き算させて、人のかけひき、主に操りの内面を役者の演技でビジュアル化させた映画だと思います。
2012-11-10 22:55:05北野武監督の観客へのあきらめというか諦観をビート武演じる主人公があらわしているようにさえとれました。主人公は出獄後、抗争に巻き込まれるのだけれど、もうやくざ界への未練や野心がなかった。けれど要請があったり偶然の重なりで仕方なくやる(撮る)。
2012-11-10 23:09:05アウトレイジ・ビヨンドようやく観る。なにこの傑作。よもや今年の邦画であの『ドライヴ』よりも満足度が高い作品に出会えるとは。コメディすれすれの暴力つるべ打ち映画、いわば北野映画のセルフパロディものかなあ、とか予測してすいませんでしたー!!
2012-11-17 00:11:04北野映画と言えばアドリブ演出で有名だが、今回は脚本段階から練りに練っただけあって、変な話、リミッターを解除したような凄みがある。全編にゆきとどいた「映画的配慮」が、あの完璧なラストシーンまで弛緩することなく続いてゆく。
2012-11-17 00:11:40暴力描写もすごいが狂言回し役の刑事・片岡の存在が秀逸。こいつはハメット『血の収穫』とかクロサワ『用心棒』好きなんだろうなあ。情報を攪乱して疑心暗鬼のタネをまき散らし、組どうしの潰し合いをさせる。
2012-11-17 00:12:20「出世のため」を口実にしながら、憑かれたように状況を攪乱し続ける男。彼の“狂気”が、作品世界に重層的な厚みをもたらす。
2012-11-17 00:12:36たけし映画には「コミュニケーション(=語り合い)」がない。セックスや撃ち合いが描かれないのはそのせいだ。本作では珍しく、ほんの少しだけ撃ち合い起こるが、俯瞰視点から虫の喧嘩みたいに描かれるからまったく”相互性”がない。強い虫が弱い虫を圧倒しながらばりばり食っちゃうような感じ。
2012-11-17 00:13:30北野映画の暴力は常に一撃必殺。「殴り合い」や「撃ち合い」はほとんどない。たとえば「ソナチネ」の銃撃戦。ヤクザたちは無造作に銃をつきだし棒立ちのまま撃ちまくる。“弾をよける”といったリアクションは、徹底して禁欲される。
2012-11-17 00:14:30北野がジャッキー・チェンを好まないというのは、たぶん殺傷能力の低い殴り合い(=語り合い)をえんえんと描くからだろう。
2012-11-17 00:15:01映画『BROTHER』公開直後に、雑誌の企画で北野武にインタビューしたことがある。はじめ、たけしはむしろ不機嫌な感じで当惑させられたが、インタビューが進むにつれ饒舌になり、あとはギャグの連発。ギャグはある意味、「人見知り」の煙幕であると知る。
2012-11-17 00:15:23本作では片岡をはじめ、全員、ひどくよく喋る。しかし、それらのほとんどは状況の説明でしかない。「内面」を語り、「内面」を変える言葉はそこにはない。だとすれば、やはり「語り合い」はない。
2012-11-17 00:15:44