「シー・ノー・イーヴル・ニンジャ」#1(再放送バージョン)
「エートそれでは、事件エート、処理番号『ぬ015441121号』第一審のですね、エー本日は結審ということで、始めます」中央の裁判長が宣告した。ざわついた傍聴席は一瞬静まり返るが、すぐにまた囁き声が交わされ出す。「……死刑だろ」「死刑」「死刑しか……」「いくらなんでも……」8
2012-11-16 21:20:56「エー、本件において、被告人ゴトー・ボリスは、己の鬱積した感情のはけ口に……」主文後回しである!キョートの裁判において、判決を読み上げず理由から話す場合、これすなわち死刑を意味する。これはキョート・リパブリックが独立国となる以前からの伝統である。伝統は何よりも重んじられるのだ。9
2012-11-16 21:23:22通常このような場合、己の命が風前の灯と決まった被告人は判決理由朗読の最中にブザマに泣き叫び、あるいは裁判官に対して無力な恫喝を叫び、セプクを試みたり、大声でハイクを詠む。だが、このゴトー・ボリスは……拘束椅子に座らされて何もできない事もあるが……落ち着き払い、嗤っていた。 10
2012-11-16 21:25:35「……強姦殺人……一家を残虐に……連続放火……何ら落ち度のない男女を……拷問……屍姦……銀行を……短期間……」「ゴボーッ!」凄惨な犯行内容をあらためて耳にしただけで、傍聴席の誰かが叫びながら嘔吐し、失禁した。「うぐふッ」ゴトーは猿轡を噛んだ。それを見て笑いが吹き出したのだ。11
2012-11-16 21:31:54彼は判決などどうでもよかった。何故か。彼には根拠の無い確信があった。ここで終わるわけが無いという確信が。彼は己の衝動をなかば神の啓示のように受け止め、欲望のままに行動してきた。彼は常に、何の裏付けも無い自信に満ちていた。だからやりたいようにやってきた。……そして、こうなった。12
2012-11-16 21:33:45神は彼を捨てたか?……否、彼の自信は引き続き揺るがなかった。何の感慨も無かった。裁判官が「被告人を死刑に処する」と宣告した時も、檻の外の弁護人が曖昧に笑いながら「まだ二回審理がありますからね」とゴトーに言った時も。内なる何かの声が、いきなり語りかけてきたその瞬間も。13
2012-11-16 21:38:20「へへへ、来た来た、おいでなすったぜ」ゴトーは猿轡の下でモゴモゴと呟いた。そしてニューロンに思考のさざ波を返した。(((なァ神様、どうすんだ?え?今度はどうするつもりだ……言ってみろよ、なァ。へへへ……)))(((オゴレルモノ……ヒサシカラズ……))) 15
2012-11-16 21:43:40(((ドーモ、神様……いいからどうにかしてみろよ……)))(((……ドーモ、はじめまして。ダイコク・ニンジャです)))(((ダイコク?ニンジャ?)))「退席させなさい!」裁判官がケビーシを促す。その声もゴトーには遠くの世界だ。彼は今、おぼろな影と対峙していた。16
2012-11-16 21:51:48(((ドーモ、ダイコク・ニンジャ=サン。ゴトー・ボリスです)))ゴトーはアイサツを返した。(((神様ってのはニンジャなのか?へへへ、おかしな話だな?)))(((自由)))(((自由?それだ!どうにかしてくれよ!))) 17
2012-11-16 21:56:29(((今から私はお前だ)))影はいきなり左手でゴトーの口をこじ開け、右手を喉奥に突っ込んだ。(((オハヨ!)))「オゴーッ!?」手が、腕が、上半身が、全身が……ダイコク・ニンジャの全てがゴトーの体内に入り込む! 18
2012-11-16 21:59:14邪悪な生命エネルギーが身体を内側から灼き苛み、押し寄せる底無しの苦痛がニューロンを蹂躙した。彼は絶叫していた。「アバーッアバババババーッ!?アーババババババ、アババババーッ!?」「ひ、被告人を退出させなさい!」「貴様、こっちに来い!……うわ、こいつ……?」 19
2012-11-16 22:06:05ニューロン内の光景が現実と重なり合い、光がゴトーの視界に戻ってきた。「「「「アバーッ!?」」」」突然の絶叫は、ゴトーを四人がかりで地面に引きずり倒したケビーシ・ガード達が発したものだ!ナムアミダブツ!?一体なにが?四人は目、鼻、口から黒い血を迸らせ、狂気のダンスを踊る! 20
2012-11-16 22:08:35「アーッ!アーッ!アーッ!」ゴトーも絶叫していた。四つん這いで苦しみに耐える……そう、四つん這い、即ち全身の拘束が解けている。正確には、拘束具が変形している……ニンジャ装束に!「アーッ!アーッ!アアアア、アア……アー……」ゴトーの痙攣が止まった。彼は立ち上がった。「……フー」21
2012-11-16 22:11:49ゴトーは四人のケビーシを見下ろした。彼ら自身の体内から絞り出された黒い液体に塗れ、恐怖の形相を一様に凍りつかせて、無残に絶命している。「へへ……死んじゃってやンの」「アイエエエエエ!」傍聴席はパニックに陥った。「なにが!?」「死んだ?」「あれは……ニンジャ?ニンジャナンデ!」22
2012-11-16 22:13:54「正当防衛重点!」裁判官が直々に宣言し、ハンマーで「非常」と書かれた赤いボタンを叩いた。ブガーブガー!途端に警報音と「御用!御用!」という警告音声が法廷内に鳴り響く。「正当防衛?へへへ!」ゴトーはせせら笑う。頭部拘束マスクは鼻から上が融解し、ジゴクじみた黒髪が逆立って揺れる。23
2012-11-16 22:15:27溶け残ったマスク下半分もやはり変形し、奇怪なメンポ(面頬)となっていた。ゴトーの足元に黒い液体がわだかまり、泡立ちながらその質量を増してゆく。「スゲェなァ!エエッ!?スゲぇよなァー?」ゼリー?油?スライムめいてべとつく暗黒物質が、ゴトーを取り囲む檻に巻き付く! 24
2012-11-16 22:17:55ギギッ……嫌な音を立て、鋼鉄製の檻がいともたやすく歪む。ゴトーは悠々と檻を乗り越えた。「自由!へへへへ!」「アイエエエエエ!」傍聴人たちは出口へ我先にと殺到する。だがスシ詰めインシデント!お互い押し合ってロクに出られはしない。「せ、席に戻りなさい……」裁判官が震え声で命じた。25
2012-11-16 22:21:07「あんたバカだなァ」ゴトーは笑った。「何で俺が席に戻るの?」「ほ、法律が……」「『ほ、法律が……』へへへへ!」ゴトーはおどけて真似をした。そして傍聴席へ叫ぶ。「お前らァ!早く逃げた方がイイぜ!今から見境なく殺すからなァ!」「アイエエエエエ!」26
2012-11-16 22:22:31ドブッ……ドブッ!ゴトーの背後で暗黒物質が沸騰しながらせり上がる。「汚ねぇだろォ!汚ねぇなァー!へへへへ!まるでアンダーガイオンの掃き溜めだな!最高じゃねぇか!」「アイエエエエエー!」ゴトーのそばにいた弁護人、法廷警備員がまず犠牲になった!黒い液体は容赦なく彼らを呑み込む! 27
2012-11-16 22:24:39「アバッ、助け……何でアバッ」暗黒物質に溺れ、潰されながら、弁護人が哀れな声を上げる。彼を弁護して来た人間が。「だって面白いんだからしょうがねェよ」ゴトーは真顔で答えた。「そのツラも最高におもしれぇ!」「アババーッ!」弁護士と衛士を無慈悲に殺めると、ゴトーは裁判官に向き直る。28
2012-11-16 22:28:36「ドーモお前ら!今日から俺はデスドレインだ!死!排水(ドレイン)!デスドレイン!まったく俺の品性そのまま!ドブみてェなジツだもんな?わかりやすいよな?俺はニンジャになった。今から殺す奴に教えても仕方ねェか?へへへへ!」「ア、アイエエ……」「アンコクトン・ジツ!イヤーッ!」29
2012-11-16 22:34:31ゴトー=デスドレインが両手を突き出す!片手は裁判官席、片手は傍聴席だ!暗黒物質は二又に別れ、ギュルギュルと渦を巻いて傍聴人と裁判官、検察官に襲いかかる!「アバーッ!」「アッバ、アッババーッアーッ!」「アバババーッ!」ナ……ナムアミダブツ!なんたるマッポー大殺戮宴会! 30
2012-11-16 22:36:05「最高最高最高最高だぜ!」デスドレインの足元が暗黒物質で高く盛り上がる!天井近くまでせり上がった不浄の台座に立ち、デスドレインは最高裁判官を睨み下ろす。その首から下は暗黒物質に飲み込まれ動きが取れていない。他の裁判官は全員死亡!「気分、どうだ」「ア、アイエエ」「へへへ!」31
2012-11-16 22:38:10BLAM!BLAM!検察官席のデッカーがデスドレインに発砲した。ヘドロに呑み込まれながら、果敢に反撃を試みたのだ。「おほッ!」デスドレインの目の前にカーテンめいて暗黒物質が迫り出し、銃弾を受け止めてしまう!「俺はスゲぇな!実際強い!」32
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