第一章 アタシのこと、イジめていいよ♡

その1
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悠。さん @You_WMD

─アタシのこと、イジメていいよ♡─

2012-11-16 00:08:08
悠。さん @You_WMD

高城春馬の朝は理不尽な暴力からはじまる。 ドガっという鈍い音で顔に拳が食い込み、壁に思いっきりキス。 「起きなよ、ハル。おばさんのゴハン冷めちゃうぞ」 鉄拳から胸ぐらを揺さぶられるまでがワンセットだ。

2012-11-16 00:11:04
悠。さん @You_WMD

「ぅぁ……ねっむい」 寝起きでむくんだ顔がますます腫れぼったいが、パブロフの犬の条件反射で目が冴えていく。制服姿で、自分にまたがる幼なじみの顔が鮮明にうつった。

2012-11-16 00:12:58
悠。さん @You_WMD

鳶色の瞳を浮かべた目はやや吊り気味。細い眉は思いっきり逆八の字。スッと通った鼻筋は高すぎず低すぎず絶妙なラインで不機嫌な表情を引き締め、子どもから大人になりつつある少女期特有の危うい造形美を保っている。

2012-11-16 00:15:26
悠。さん @You_WMD

乱雑に結い上げたシニョンも活発な彼女にはよく似合う。 ひいき目にしゃべっても結構な美少女である。 ただし「黙っていれば」だが。いや、しゃべってもいいんだが「殴らなければ」。 「……鼻毛出てるぞ」 「え、嘘っ」 「嘘」 ささやかな反抗は二発目の拳で静められた。

2012-11-16 00:18:11
悠。さん @You_WMD

水瀬愛理は顔を真っ赤にしてさらに拳を振り上げる。 「選びなよ。黙ってさっさと起きるか、おばさんの手料理を二度と食べられなくなるまで殴られるか」 「歯が全部抜けたら責任もって一生俺の面倒を見てもらうからな」 「バカッ」 拳が飛んでくるかと思いきや、頭突きが飛んできた。

2012-11-16 00:20:32
悠。さん @You_WMD

怒り肩で憤然と部屋を出ていく幼なじみの後ろ姿を、ハルは朦朧とする意識で見送った。正確には斜め姿。歩みを進めるたび元気よくバウンドする2つの肉房。じっと、じぃっと、じぃぃぃぃっと、目で犯すように眺める。 女の証がぽゆん、ぽゆん、と弾むたび、ハルの頭は冴えていく。

2012-11-16 00:25:36
悠。さん @You_WMD

額と額がぶつかった衝撃に視界のすべてがチカチカと点滅し、痛みに脳が鈍磨した。せっかくさっぱりと起きていたのに。 「殴らなければ美少女」というのも訂正。 とにかく暴力を一切振るわなければ美少女。 「とっとと着替えて降りてこい!バカハル!」

2012-11-16 00:22:48
悠。さん @You_WMD

──暴力を振るっても、尊きものはEカップ。 心で付け加えた事項を拒絶するようにドアが閉ざされた。 「よし、一日頑張ろう」 タオルケットを蹴飛ばし、汗ばんだTシャツと短パンを脱ぎ捨てる。そろそろ秋になるのに、窓から差し込む朝日に肌が焼けるようだ。

2012-11-16 00:28:04
悠。さん @You_WMD

むわりと立ちこめる少女の芳香を思えば、グーパンの二発と頭突きくらいは余裕で許せる。 「いつしか揉みしだいてヒィヒィごめんなさいヒィヒィ言わせてやる」 あれやこれやと健全な好青少年らしい想像をしていると、ひゅ、と心地よい風が差し込んでくる。愛理が窓を開けていってくれたらしい。

2012-11-16 00:30:52
悠。さん @You_WMD

小学校の頃から使っている学習机にはコップ一杯のアイスティーが置かれていた。 「意外と気が利くんだよなぁ……ほんっと、殴ったりしなけりゃ理想的なのに」 せっかくなら胸を使った優しい起こし方はないものかとぼやきつつ、腰に手をあて、乾いた喉に一気にアイスティーをながしこむ。

2012-11-16 00:33:11
悠。さん @You_WMD

一気飲みでコップを置き、姿見の前で景気よくマッチョポーズをとってみた。格別に貧相でもなければ、それほど筋肉質でもない。ごく普通の様にならなき少年がそこにいる。背後には開かれた窓があり、隣の水瀬家の窓がみえた。 冷たい半眼が投げ掛けられている。 ハルの背筋は凍った。

2012-11-16 00:36:01
悠。さん @You_WMD

彼女が小さな口を開いて言葉を吐くのを、げっそりと痩せ細る心地で聞く。 「視界に気持ちの悪い生き物が映ったです……この最悪な気持ちを抱えて登校しなければならないお止めの純情、理解できる程度の母乳がお隣さんならよかったのに」

2012-11-16 00:38:30
悠。さん @You_WMD

小柄な少女だった。ついこの間まで小学生だったとはいえ、ランドセルの肩ベルトもずり落ちそうなほど狭くて細い肩をしている。そこにかかる長い髪の色がひときわ目を引いた。生まれつき色素が足りないらしく、赤みがかった白い髪は光の加減で桃色にも見えるのだ。

2012-11-16 00:40:40
悠。さん @You_WMD

なんとも可愛らしく、女の子っぽい色ではないか。小さな彼女にはぴったりの色彩だ。 顔のつくりもころりと幼くて、皮肉っぽい半眼だって愛嬌のうち。そう、愛嬌なのだ。だから隣のお兄さんらしくおおらかに対応すべし。

2012-11-16 00:42:43
悠。さん @You_WMD

「やあ、琴理。俺の肉体美はどんなもんだい?」 ニッコリ笑って警戒心を解こうとした。 ギリ、と眉が寄せられた。 「ぎょう虫の声とか初めて聞いたです。吐き気がしたのでトイレ行きたい。乙女に朝からこんな仕打ちをする邪悪な寄生虫なんて、トイレに流されて消えれ」

2012-11-16 00:45:18
悠。さん @You_WMD

とてとてと彼女は窓際から姿を消す。 「ちっくしょう」 ヘタすると姉の暴力以上に強烈なぼうげんだった。愛嬌だと心に唱えても我慢の限度というものがある。 ハルはやりきれない想いを抱いて、カーテンを引き着替えをはじめた。

2012-11-16 00:47:18