特集号 『福島原発事故の環境影響 その1』 Journal of Environmental Radioactivity

Environmental Impacts of the Fukushima Accident (Part I) http://www.sciencedirect.com/science/journal/0265931X/111  編集は環境科学技術研究所の久松俊一氏。全論文とも英語かつ有料。以下は日本からの論文についての簡単な内容紹介です。  収録されている論文は、SPEEDIによる飯舘村ほかの汚染プロセス解析や、今中哲二さんらによる福島県内の初期外部被ばく量の推定など。 続きを読む
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■ Preface to first special issue on Fukushima
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11003122

・エディターである久松俊一氏による巻頭言。一部を抜粋・意訳すると、

 「…大量のモニタリング・データが公開されたものの、今回の事故が環境放射線に与えた影響の全体像を知るには、技術レポートでは不十分である。そのため、我々は事故の環境影響に関する2つの特集号を企画した。1番目の号、つまりこの号は、アジア太平洋地域からの論文をまとめたもので、その多くは日本からのものである。また、2番目の号は欧州からの論文をまとめたもので…」

 ※ その「2番目の号」は:
  Environmental Impacts of the Fukushima Accident (PART II)
  http://www.sciencedirect.com/science/journal/0265931X/114
 

■ Numerical reconstruction of high dose rate zones due to the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002335

・JAEA(日本原子力研究開発機構)茅野グループからの論文。基本的に以下の無料資料と同内容:

  東京電力福島第一原子力発電所事故によるプラント北西地域の線量上昇プロセスを解析(お知らせ)平成23年6月13日
  http://www.jaea.go.jp/02/press2011/p11061302/index.html

・WSPEEDI-IIとモニタリング・データを駆使し、福島第一原発の北西方面(飯舘村など)で起こった高濃度汚染の経緯を解析。解析対象とした期間は2011年3月15~17日。
 解析手順は以下の2段階に分けられる:

 (1) 単位放出を仮定したシミュレーションの結果を測定値と比較し、放出率 [Bq/h] (※) を推定。
 (2) 推定した放出率を用いて大気輸送・拡散・沈着シミュレーションを行い、高濃度汚染の発生過程を再現。
 ※ 福島第一原発の建屋内から大気に向けて 1 時間当たりに放出される放射性物質の量

・解析で考慮した核種と放射能比は I-131:(I-132 + Te-132):Cs-134:Cs-137 = 1:2:0.1:0.1。I-132はTe-132と放射平衡にあると仮定。

・シミュレーション結果からは、3月15日の7-10時と13-17時あたりに大きな放出があったと推定される。前者のプルームは南西から西の方向に向かって流れ、川内村や郡山市などを汚染、後者のプルームは北西方向に流れ、飯舘村や福島市などを汚染した。

・飯舘村などの高濃度汚染は主に3月15日夕刻に発生。谷状の地形によるプルームの誘導と、雨による土壌沈着がその主要因と推定される。
 

■ 2011 Fukushima Dai-ichi nuclear power plant accident: summary of regional radioactive deposition monitoring results
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X1100213X

・元気象研究所、現上智大学・埼玉大学の廣瀬勝己氏による。
・3月18日から文科省の主導で行われた全国の定時降下物測定(日毎)と、それ以前から継続されている月間降下物測定についてのまとめと考察。降下物測定の結果は以下のページで見ることができる:

  文部科学省 定時降下物のモニタリング
  http://radioactivity.mext.go.jp/ja/list/195/list-1.html

・福島第一原発から放出された放射性物質は主に東北地方の南部と関東地方に降下したが、一部は日本のそれ以外の地域に、そして、北半球の北部全域に影響を与えた。

・放射性物質の放出は3月12日の早朝に始まった。福島県の汚染は主に3月15-16日に、関東地方の汚染は主に3月21-23日に発生した。

・各地の降下物測定の結果から、放出された Cs-137 の大気中での滞留時間(residence time)を推定した。各地の推定値は

【盛岡】 14.4日
【山形】 8.8日
【ひたちなか】 11.3日
【東京】 8.8日
【静岡】 10.9日

これらの結果より、福島原発 300 km 圏内での滞留時間は約 10 日と推定される。
 この推定値は、大気圏内核実験(約30日)やチェルノブイリ事故時(25日)の対流圏 (※) 滞留時間よりも短い。このことから、福島事故により放出された放射性物質の多くは、対流圏の下層部に流入したと推察される。
 ※ 地表と成層圏の間
 

■ Measurement of soil contamination by radionuclides due to the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident and associated estimated cumulative external dose estimation
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002736

・広島大、獨協医大、長崎大、NHK、京大原子炉研による。著者には今中哲二さんの名も。

・3月15-30日に福島原発周辺地域で行った土壌調査の結果と、事故後初期の外部被ばく量の推定について。3月28-29日に飯舘村で行われた分については、4月4日に今中氏らから調査報告(無料、日本語)が出されている:

  3月28日と29日にかけて飯舘村周辺において実施した放射線サーベイ活動の暫定報告(2011年4月4日)
  http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No110/iitatereport11-4-4.pdf

・調査の日時と場所は以下の通り。調査地点には4つの学校が含まれるが、それらは全て一時避難所として利用されていた:

【3月15-16日】 双葉町山田、都路中学校、常葉中学校、三春町
【3月20-21日】 いわき中央IC、末続駅、屹兎屋山、川内小学校、葛尾中学校
【3月28-30日】 南相馬、飯舘村蕨平、浪江赤宇木、浪江津島、福島市新浜公園、郡山市大島東公園

・土壌から検出された核種(γ核種のみ)は Te-129m, Te-129, I-131, Te-132, I-132, Cs-134, Cs-136, Cs-137, Ba-140, La-140。

・測定により得られた土壌汚染度から外部被ばく量を推定。推定手順は以下の通り:

 (1) 土壌中の核種が全て地表に有ると仮定し、1 m 高さでの空間線量率を推定。土壌中の核種分布は、実際には地表面から 2.5 cm深さにまで渡っていたと考えられるため、「全て地表に有る」とする仮定は、線量率の推定において 30% 程度の誤差を生じさせる(※ 被ばく量を過大評価する側の誤差になる)。
 (2) 建物による遮蔽効果については、室内での滞在時間を1日16時間、住居の遮蔽係数を 0.4 と仮定。これは文科省が用いた仮定と同じ。
 (3) 検出された核種それぞれの半減期を考慮し、土壌沈着が起こったと考えられる3月15日からの外部被ばく量を評価。

・特に高い汚染が確認された双葉町山田と浪江赤宇木での土壌汚染濃度 [kBq/m2] は

【双葉町山田】 Te-129m:800, Te-129:460, I-131:125000, Te-132:75300, I-132:69800, Cs-134:9780, Cs-136:210, Cs-137:10100, Ba-140:ND, La-140:184
【浪江赤宇木】 Te-129m:2970, Te-129:1800, I-131:23200, Te-132:16100, I-132:14000, Cs-134:1940, Cs-136:395, Cs-137:2210, Ba-140:91, La-140:116
 ※ 論文には全調査地点での土壌汚染濃度が示されている

・検証のため、土壌汚染濃度から推定された空間線量率 [μSv/h] を、土壌採取位置の近隣で得られた測定値(モニタリングポスト値を含む)[μSv/h] と比較した。例えば、3月15日の90日後では次の通りになる:

 ※「推定値」,「測定値」の順。括弧内は「推定値/測定値」で、論文には示されていない
【双葉町山田】 98, なし, -
【浪江赤宇木】 20, 18.2 (1.1)
【飯舘村蕨平】 17, 15.3 (1.1)
【浪江津島】 4.8, 7.4 (0.6)
【都路中学校】 0.8, 1.0 (0.8)
【常葉中学校】 0.28, 0.4 (0.7)
【葛尾中学校】 2.3, 2.3 (1.0)
【川内小学校】 0.49, 0.5 (0.98)
【福島市新浜公園】 3.8, 2.3 (1.7)
【郡山市大島東公園】 1.0, 1.2:高さ50cmでの値 (0.8)
【三春町】 0.74, 0.5 (1.5)
【南相馬】 0.39, 0.5 (0.8)
【いわき中央IC】 0.03, 0.3 (0.1)
【末続駅】 0.27, 0.2 (1.4)
【屹兎屋山】 なし

 ※ 幾つかの地点で「推定値/測定値」が 1 を下まわっており、特に「いわき中央IC」では外部被ばく量を大きく過小評価している可能性がある

・推定された外部被ばく量 [mSv](3月15日からの3ヶ月間と1年間)は以下の通り:

 ※「3ヶ月間・遮蔽なし」, 「1年間・遮蔽なし」,「1年間・遮蔽あり」の順
 ※「遮蔽なし」の値を 0.6 倍すると「遮蔽あり」の値になる
【双葉町山田】 290, 1000, 600
【浪江赤宇木】 57, 210, 126
【飯舘村蕨平】 42, 170, 102
【浪江津島】 15, 51, 31
【都路中学校】 2.9, 8.7, 5.2
【常葉中学校】 0.9, 3.0, 1.8
【葛尾中学校】 6.7, 25, 15
【川内小学校】 1.3, 5.0, 3
【福島市新浜公園】 10, 40, 24
【郡山市大島東公園】 2.3, 10, 6
【三春町】 1.9, 7.7, 4.6
【南相馬】 1.3, 4.2, 3.5
【いわき中央IC】 0.17, 0.31, 0.19
【末続駅】 1.1, 2.8, 1.7
【屹兎屋山】 1.3, 4.9, 2.9

・福島第一原発近傍の高線量地域においては、慎重な復旧対策と持続的・集中的な沈着濃度サーベイが必要である。
 

■ Atmospheric radionuclides transported to Fukuoka, Japan remote from the Fukushima Dai-ichi nuclear power complex following the nuclear accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002116

・九州大のグループによる。福岡(福島第一原発から約 1000 km)での大気サンプリング結果。

・2つのガスサンプラーを用い、以下の2種類の測定を行った:

 (1) 粒子状の核種の測定(3月15日~4月9日)
 (2) ガス状と粒子状の核種の同時測定(4月6日~5月2日)

・福島原発由来の核種が初めて検出されたのは3月17日。粒子状の I-131 を 0.036 mBq/m3 検出。

・粒子状核種の検出値が最大となったのは4月6日で、その時の大気中濃度 [mBq/m3] は I-131:5.07, Cs-134:4.04, Cs-137:4.12。その後は急速に減少し、4月26日以降は検出限界以下となった。

・I-131 は粒子状とガス状の両方で検出された。粒子・ガスともに検出があった時のガス比率は I-131 総量の 30~67% だった。

・検出された大気中核種を吸い込んだときの被ばく量は無視できるほど小さく、健康影響は考えられない。
 ※ ただし、論文には被ばく量の推定値は示されていない
 

■ Monitoring of aerosols in Tsukuba after Fukushima Nuclear Power Plant incident in 2011
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002505

・産総研の金井豊氏による。つくば市(福島第一原発から約 170 km)での大気サンプリング結果。

・測定開始は事故の20日後である3月31日。測定対象は粒子状の核種のみ。主な検出物は Ag-110m, Te-129m, I-131, Te-132, Cs-134, Cs-137, Cs-136, Nb-95。
 放射能比 Cs-134/Cs-137 は約 1 で、おおよそ半減期から予測される通りに減少していった。

・過去の測定結果との比較から、大気から検出された Cs-137 のうち、原発事故前からのものの再浮遊分は 1% 以下と推定される。
 

■ Prediction of groundwater contamination with 137Cs and 131I from the Fukushima nuclear accident in the Kanto district
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002918

・北大、京大原子炉研、住鉱資源開発株式会社による。土壌に降下した Cs-137 と I-131 による地下水汚染の可能性についての検討。
 対象地域は関東。検討に用いた土壌と雨水は、茨城県守谷市で採取したもの。

・本論文の目的は
 (1) 雨水中の Cs と I が土壌に捕捉される(雨水から除去される)過程を観察する
 (2) 将来、汚染地域で地下水の放射能汚染が起こりうるかどうかを予測する

・福島原発事故により、I-131,Cs-134,Cs-137 を含む種々の放射性核種が大気中に放出された。文科省の報告によると、原発近傍では Cs 合計で 30 MBq/m2 もの土壌汚染が確認されている。

・事故後の関東では3月15-16日と21-22日に降雨があり、これが水道水の放射能汚染を引き起こした。

・茨城県守谷市にて雨水(3月31日)と土壌(3月30-31日)を採取。土壌は2つの住宅庭園からのもので、31日の降雨の前と後に採取した。採取深さは 1 cm。

・採取した全ての試料から I と Cs が検出された:

雨水 [Bq/L] I-131:66, Cs-134:28, Cs-137:31
土壌 [kBq/kg dw] I-131:7.32-13.4, Cs-134:1.01-2.86, Cs-137:0.72-3.25
 ※ 土壌は深さ 1 cmまでのものであることに注意。5 cmまで採取した場合と比べ、値が高く出る

降雨の前後で土壌中の濃度に大きな差は見られなかった。

・採取した雨水を用いて土壌カラム実験を行い、雨水中の放射性核種が土壌中でどのように振舞うかを検討した。
 実験に用いた2つのカラム(土壌を入れる容器)は直径 20 mm、高さ 50 mmの筒状で、下部には排水口が付いている。

・2つのカラムにはそれぞれ5層と4層の土壌要素(I-131 や Cs-137 で汚染されていないもの)を詰め込んだ。各層の成分は、上から順に

【カラムA】 砂:3.2g|ピートモス:0.33g|砂:4.0g|ココナッツチャコール:1.0g|砂:5.0g
【カラムB】 土:4.7g|砂:3.2g|竹チャコール:1.3g|砂:3.2g

これらのカラムに上から 50 ml(流量 0.7 ml/分)の汚染雨水を注いだ後、84 mlの超純水で洗浄。その後、それぞれの層の I と Cs を測定した。

・カラムAの結果
 雨水中の Cs-137 の約 93% が最上層の砂に捕捉された(他の層ではND)。また、I-131 はピートモスに約 3.7%、ココナッツチャコールに約 39% が捕捉された(他の層ではND)。
 排水口から流れ出た排液からは約 1.8 Bqの I-131 が検出されたが、Cs-137 はNDだった。

・カラムBの結果
 Cs-137 の約 81%、I-131 の約 31% が最上層の土に捕捉された(他の層ではND)。
 排液からは約 1.5 Bqの I-131 が検出されたが、Cs-137 はNDだった。

・上記の実験に加え、汚染雨水とカラム排液のそれぞれにアニオン交換樹脂を加え、30分間放置するという実験を行った。アニオン交換樹脂により液中の I-131 の何割かが捕集されたが、それぞれの例での捕集率は次の通りだった:

汚染雨水 約100%
カラムA排液 約94%
カラムB排液 約70%

・これらの実験結果より、I-131 については次のことが言える:
 土による捕捉率が低く、アニオン交換樹脂による捕集率が高いことから、雨水中の I-131 は大部分がアニオン交換性の化学種(131IO3- や 131I-)であると考えられる。
 また、カラムB排液での捕集率が比較的低いことから、I-131 の一部がカラムB最上層の土に含まれる有機物と結合し、非交換性に変わったことが考えられる。

・Cs-137 はほぼ 100% が砂と土に捕捉された。このことから、土壌中での Cs-137 の移動速度は極めて小さいと推察される。
 1980-90年代に長崎市西山で行われた調査では、Cs-137 の移動速度は土壌中の水の速度の 1/2500 程度と推計されている。これが関東ローム層でも成り立つとすると、関東ローム層での水の速度が約 1.5 m/年であることから、Cs-137 の移動速度は約「0.6 mm/年」と見込まれる。
 これは 300 年間(Cs-137 の半減期の 10 倍の時間)に 18 cmだけ沈み込む速度である。これより、雨で土壌に沈着した Cs-137 が地下水汚染を起こすとは考えにくい。

・ここで得られた Cs-137 の移動速度は、過去に報告されている Pu-239+240 や Sr-90 の移動速度より小さい。

 ※ 実際、被爆地(長崎)等での調査では、Pu や Sr の一部が Cs よりもずっと深くにまで浸透していることが確認されており、低濃度ではあるものの、地下水から検出された例もある。これは、Pu や Sr の一部に土壌中での移動性が高い成分があるためと考えられている:

  長崎原爆による Pu フォールアウトの環境中での分布と挙動
  http://hlweb.rri.kyoto-u.ac.jp/shibata-lab/DS02/Final_pdf/Mahara.pdf
 ※ 上記資料の第一著者は、本論文の第二著者でもある

・土壌中での Cs-137 の移動速度が小さいことから、除染をしないかぎり Cs-137 からの外部被ばくを避けることは難しい。
 

■ Radiation measurements in the Chiba Metropolitan Area and radiological aspects of fallout from the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plants accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002657

・日本分析センターのグループによる。示されるデータの多くはセンターHPで公表済み:

  日本分析センター「福島第一原子力発電所 事故関連」
  http://www.jcac.or.jp/fukushima.html

・千葉市での空間線量率、大気、降下物、水道水の調査結果のまとめ及び考察と、被ばく量の推定。

・日本分析センターでは3月14日に日毎の測定を開始。3月15日には福島原発由来の核種を初めて検出。主な検出核種は I-131, I-132, I-133, Cs-134, Cs-136, Cs-137, Te-132。

・ヨウ素とセシウムの最大検出濃度は

大気 [Bq/m3] I-131:47, Cs-134:6.1, Cs-137:7.5
降下物 [Bq/m2] I-131:17000, Cs-134:2900, Cs-137:2900
水道水 [Bq/L] I-131:43, Cs-134:2.1, Cs-137:2.2

・大気中のヨウ素については、ガス状と粒子状の両方を測定。ヨウ素の総量に対するガス状ヨウ素の割合は 0.52~0.71。

・大気サンプリングと降下物測定の結果から、ヨウ素とセシウムの沈着速度を推定:

沈着速度 [m/s] I:0.001-0.002, Cs:0.002-0.003 (降雨なし時)
沈着速度 [m/s] I:0.004-0.03, Cs:0.01-0.14 (降雨時)

・上述した各種の測定結果から、千葉市での外部・内部被ばく量を推計(ともに、一日中屋外で過ごした場合を仮定):

外部被ばく [μSv] 135 (3/15-4/14), 101 (4/15-5/14) (自然放射線を含む)
 (事故前のバックグラウンドは約 0.03 μSv/h、事故のしばらく後では約 0.13 μSv/h)

内部被ばく [μSv] 118 (1歳未満), 152 (2-7歳), 81.5 (18歳以上) (3/15からの2ヶ月間)
 (大気の吸入と水道水の摂取を考慮)
 

■ Atmospheric radionuclides from the Fukushima Dai-ichi nuclear reactor accident observed in Vietnam
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X1100292X

・ベトナムからの報告。海外からの論文については以下を参照:
  《論文集》 海外で検出された福島第一原発由来の放射性物質 http://togetter.com/li/305184
 

■ Depth distribution of 137Cs, 134Cs, and 131I in soil profile after Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant Accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002426

・筑波大のグループによる。この調査については、他の調査の結果までを含めた詳し過ぎる日本語資料がある:

  放射性物質の包括的移行状況調査 (PDF)
  http://bit.ly/SjGgmt , http://bit.ly/SjGgmu

・川俣町山木屋(福島第一原発から北西 40 km)にて耕土を採取し、沈着した Cs の深さ方向の分布を解析評価。

・土壌の採取日は4月28日。事故時からこの日までの総雨量は 89 mm。採取した土は家庭菜園のもので、2010年11月以来、耕されていない。

・土壌の深さ 1cm までに Cs の 63%、I の 54% が、2cm までに Cs の 86%、I の 79% が、5cm までに Cs の 96%、I の 100% がとどまっていた。

・この調査から得られた relaxation mass depth (※) [kg/m2] は Cs:9.1, I:10.4。これは1987年のチェルノブイリ近傍(耕土で Cs:5.6-9.1)やスウェーデン(牧草地・草地で Cs:4.6-4.9)での値より大きく、同年のドイツ(草原で Cs:10-10.3)よりは小さい。
 ※ 放射性核種の浸透深さを示す指数で、値が大きいほど土壌の深くにまで浸透していることを意味する

・今回と過去のデータを統合し、回帰分析すると、土壌の粘土含有量が高い方が浸透深さが大きくなるという結果が得られた。ただし、粘土含有量が初期の浸透深さに与える影響を明らかにするには、さらなる調査が必要である。
 

■ Translocation of radiocesium from stems and leaves of plants and the effect on radiocesium concentrations in newly emerged plant tissues
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002396

・放医研と東京ニュークリアサービス株式会社による。植物の茎・葉から新芽・若葉・果実へのセシウム移行に関する調査。

・2011年5月、厚労省が暫定規制値 500 Bq/kgを越えるセシウム汚染を受けた茶葉の発見を報告。この茶葉は福島第一原発から 300 km以上も離れた場所のもので、原発事故後の4月初旬から中旬にかけて生え、5月初旬に収穫されたものだった。

・放医研(福島第一原発から 220 km)では、各種の植物について、新しい植物組織(新芽・若葉・果実)へのセシウム移行メカニズムを解明するための調査を実施。4月下旬から5月初旬にかけ、研究所内や近隣から植物を収集。

・調査対象とした植物は14種で、それらは
 (1) 葉状植物
 (2) 事故前からの旧葉が無い木本植物
 (3) 事故前に生えた旧葉が残った木本植物
に分類できる。これらの植物の葉と茎、実(ビワのみ)のセシウム濃度を測定した。

・新組織の汚染度が最も高かったのは (3)、次いで (2)。このことから、旧葉から新葉にセシウムが移行したことが考えられる。ただし、新葉の汚染度は旧葉よりも低かった。

・椿やアラリアの葉は汚染度が比較的低かった。これらの葉は表面にろう分を含んでおり、それがセシウムの吸収を抑えたと考えられる。

・葉状植物 (1) の汚染度は最も低かったが、これは調査対象とした葉状植物の多くが事故後に生えたもので、セシウムの直接沈着を受けなかったことが原因と考えられる。

・木の茎からもセシウムが検出されているため、今後も新組織へのセシウム移行が続く可能性がある。
 

■ Radiological impact in Korea following the Fukushima nuclear accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002645

・韓国からの報告。海外からの論文については以下を参照:
  《論文集》 海外で検出された福島第一原発由来の放射性物質 http://togetter.com/li/305184
 

■ Food safety regulations: what we learned from the Fukushima nuclear accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11001962

・電中研 放射線安全研究センターによる。この論文には、ほぼ同内容の日本語版(無料)がある:

  福島原子力発電所事故での食品安全規制の課題と改善策
  http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/L11001.html

・福島原発事故後の食品安全規制の経緯と、そこから学んだことについての報告、そして、「段階的参考レベル」の提案。

・3月17日、厚労省は食品と飲用水の暫定規制値を決定。4月5日には魚介類のヨウ素にも同様の暫定規制値を適用。

  放射能汚染された食品の取り扱いについて
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf
  魚介類中の放射性ヨウ素に関する暫定規制値の取扱いについて
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017z1u-att/2r98520000017z7d.pdf

 これらの暫定規制値は、預託実効線量が 5 mSv/年、甲状腺の預託等価線量が 50 mSv/年を越えないように設定された。また、これらの値は主要核種(I-131, Cs-134,137)に対する他の核種の比率を仮定して求められた。そのため、多くのサーベイでは主要核種についてのみ調査がなされた。

 ※ 暫定規制値の算出法については:
  防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について,保健物理(2000年)
  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/35/4/35_4_449/_article/-char/ja/

 なお、暫定規制値の水を飲用以外に用いた場合の被ばく量は極小さいと推計されている:
 (a) 入浴による皮膚からの吸収: 約 40 nSv/日
 (b) 台所や風呂からの蒸気の吸入: 約 600 nSv/日

・福島県では3月16日に水道水中の I-131 が 100 Bq/kg を越え、3月20日には最大 965 Bq/kg に達した。そのため、飯舘村では3月21日から、他の市町や近隣都県でもその翌日以降から水道水の摂取制限が開始された。

  水道水における放射性物質対策 中間取りまとめ
  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001g9fq-att/2r9852000001g9jp.pdf

・原乳からは、福島県で3月16日に 1190 Bq/kg、19日に茨城県で 1700 Bq/kg の I-131 を検出。野菜では、ほうれん草が茨城県で3月18日に、福島県で3月21日に暫定規制値を超過。その後、多くの野菜や海産物から暫定規制値を越えるヨウ素とセシウムが検出された。
 事故後初期における主な食材からの最大検出濃度は:

【福島県】
 原乳 [Bq/kg] I-131:5300, Cs合計:20 (3/20)
 ほうれん草 [Bq/kg ww] I-131:19,000, Cs合計:40,000 (3/21)
 くきたち菜 [Bq/kg ww] I-131:15,000, Cs合計:82,000 (3/21)
 しのぶふゆ菜 [Bq/kg ww] I-131:22,000, Cs合計:28,000 (3/21)
 小女子 [Bq/kg ww] I-131:12,000, Cs合計:12,500 (4/13)
【茨城県】
 原乳 [Bq/kg] I-131:1700, Cs合計:64 (3/19)
 ほうれん草 [Bq/kg ww] I-131:54,100, Cs合計:1,931 (3/18)
 パセリ [Bq/kg ww] I-131:12,000, Cs合計:2,110 (3/21)
 小女子 [Bq/kg ww] I-131:4,080, Cs合計:447 (4/13)
 茶葉 [Bq/kg ww] I-131:ND, Cs合計:1,030 (5/18)
【栃木】
 ほうれん草 [Bq/kg ww] I-131:5700, Cs合計:770 (3/19)
 春菊 [Bq/kg ww] I-131:4,340, Cs合計:153 (3/24)
 茶葉 [Bq/kg ww] I-131:ND, Cs合計:890 (5/17)

・農水省は4月14日、牛に与える粗飼料についての暫定許容値を決定。

  原子力発電所事故を踏まえた粗飼料中の放射性物質の暫定許容値の設定等について
  http://www.maff.go.jp/j/syouan/pdf/5-10.pdf

この論文の投稿時(2011年6月13日)には、暫定規制値を超える食用肉はまだ見つかっていない。

 ※ 同年7月に牛肉で発見された。また、当該農家の稲わらからも高濃度の Cs が検出された:
  牛肉・稲わらからの暫定規制値等を超えるセシウムの検出について
  http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/gyuniku_kaigi/pdf/siryo_1.pdf
 ※ また、米で暫定規制値を超えるものが発見されるのは、11月になってから:
  暫定規制値を超えた放射性セシウムが検出された玄米について
  http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/suidenhatasaku_231116.pdf

・3月17日に設定された暫定規制値は網羅的なものではなく、一部の食材のみを対象としていた。そのため、対象外の食材で汚染が確認されるたびに新しい規制値を追加する必要があった(例:魚介類)。このような後付の修正は、規制値を決める際に用いた論理を破綻させうる。

・福島県では遅くとも3月16日には水道水と原乳で暫定規制値を越えていた。しかし、それらに対して摂取もしくは出荷制限が掛けられるまでには、少なくとも5~6日を要した。将来の同種の事故においては、規制値の公布やモニタリングは迅速に(放射性核種の放出が始まる前でも)行うべきである。

・今回の事故では、異なる経路からの被ばくそれぞれについての対策が独立して行われた。しかし、防護対策の立案においては、複数の経路(土壌、再浮遊物、食品など)からの被ばくの合計を考慮することが重要である。

・飲用水と乳製品の規制値は、乳児(100 Bq/kg)と他の年齢層(300 Bq/kg)で異なる値に設定されたが、その論理は不明瞭なものであった。また、暫定規制値の公布後からしばらく、飲用水などの買い占めが起こった。

・緊急被ばく状況から現存被ばく状況までを3つのフェーズに分ける「段階的参考レベル」方式を提案する。これは全ての年齢、食品、核種に適用できるものである。

【フェーズ1】 緊急被ばく状況から現存被ばく状況初期までの期間
 期間は週単位: 今回の事故で、暫定規制値を越える検出があってから全ての規制が開始されるまでに25日程度かかったこと、水道水から規制値以上のヨウ素が検出された日数が最大13日だったことを考慮。
 食品摂取に関する参考レベル: 預託実効線量 10 mSv/年 程度(IAEA OIL6に準拠)
  ※ OIL6については
  http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf
【フェーズ2】 現存被ばく状況の中間時期
 期間は月単位: 今回の事故で、暫定規制値を越える検出が最低3ヶ月間続いたことを考慮。
 食品摂取に関する参考レベル: 預託実効線量 5 mSv/年 程度
【フェーズ3】 現存被ばく状況の終盤時期
 期間は年単位: 原発近くで現存被ばく状況が終わるまで。
 食品摂取に関する参考レベル: 預託実効線量 1 mSv/年 程度
 

■ Distribution of oceanic 137Cs from the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant simulated numerically by a regional ocean model
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002463

・電中研 環境科学研究所、気象研究所、上智大による。この論文には補足情報を加えた日本語版(無料)がある:

  福島第一原子力発電所から漏洩した137Csの海洋拡散シミュレーション
  http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/V11002.html

・セシウムの海洋放出に関するシミュレーション研究。測定データについての考察と数値シミュレーションにより、セシウムの放出過程と放出量、放出後の短期挙動を推定。用いた測定データは、東京電力と文科省による福島原発近傍でのもの。

・海洋への放出には2つの主要な経路が考えられる。1つは汚染水の直接放出、もう1つは大気に放出された汚染物質の海面への降下。
 ここで対象にした海域では、海水中の Cs-137 の大部分は直接放出からくるものと考えられるため、シミュレーションでは大気からの降下は無視した。

・これまでに観測もしくは実施された主な直接放出とその推定放出量については、以下のように報告されている:

 (1) 4月1-6日 2号機取水口近くのピットから I-131,Cs-134,137 合計 4.7 PBq、Cs-137 は 0.94 PBq
 (2) 4月4日-10日 低レベル汚染水の計画的放水により合計 42 GBq
 (3) 5月10日2:00-11日19:00 3号機取水口付近から合計 20 TBq

これらのうち、計画的放水 (2) の放出量は他と比べて極めて小さいため、シミュレーションでは無視した。
 最も大きい放出は2号機取水口近くからのもの (1) であるが、報告されている放出総量には大きな不確かさがある。そのため、本論文では海水の測定データと数値シミュレーションを併用し、放出総量の再推定を行った。

・3月21日に開始された海水調査の測定データによると、5・6号機放水口と南放水口での Cs-137 濃度は 3月21~31日に 1,000 Bq/L から 10,000 Bq/L にまで上昇し、4月6日には最大 68,000 Bq/L に達した。
 凝固剤の注入によって2号機からの直接放出が止められた4月6日 (※) 以降、Cs-137 濃度は減少傾向となったが、4月終盤から5月終りまでは 100 Bq/L 程度が維持され、大きな減少は見られなかった。

 ※ 2号機からの汚染水放出の停止を報じた東電プレスリリース:
  福島第一原子力発電所2号機取水口付近からの放射性物質を含む液体の海への流出の停止確認について(続報)
  http://www.tepco.co.jp/cc/press/11040603-j.html

・測定データの I-131/Cs-137 比について考察し、直接放出が有ったと考えられる期間を再推定した。
 I-131 と Cs-137 では大気から海面への「沈着しやすさ」が異なることが知られている。このことから、海水中の I-131/Cs-137 比を分析することで、「大気からの降下が主だった期間」と「直接放出が主だった期間」を判別できると考えられる。
 以上のような考察から、汚染水の直接放出は主に3月26日から4月6日に起こったと推定された。ただし、5月終りまで 100 Bq/L 程度の汚染が維持されたことから、4月6日以降も多少の放出は続いていたと考えられる。
 さらに、福島県沖で検出された Cs-137 の大半は汚染水の直接放出によるものと推察される。

・単位放出を仮定したシミュレーションの結果と測定データを比較し、Cs-137 の放出率 [Bq/日](3月26日~5月31日)と放出総量 [Bq] を推定した。
 放出率は最大 220 TBq/日(3月26日~4月6日)、放出総量は 3.5±0.7 PBq と推定された。

・推定された放出率を用いて福島原発近海での海洋シミュレーションを行い、潮流による Cs-137 の対流・拡散過程を推測した。結果は次の通り:

 (1) 放出された Cs-137 は 100 kmスケールの「中規模渦」に乗って「海岸沿い」及び「外洋」に進み、4月13日までには 100 Bq/L を超える濃度のまま茨城県沖と 30 km沖に到達する。
 (2) その後は千葉県沖や宮城県沖にまで拡がり、5月中は黒潮に乗って東に運ばれる。
 (3) 潮流による対流・拡散により、外洋での Cs-137 濃度は5月中には 10 Bq/L を下まわる。

・過去の事例と比較すると、Cs-137 の検出濃度や海洋への放出総量については次のことが言える:
 最大検出濃度(68,000 Bq/L)はセラフィールド再処理工場から放出されたもの(アイリッシュ海で 200 Bq/L)と比べて遙かに高い。
 放出総量(3.5±0.7 PBq)は大気圏内核実験(北太平洋だけで 290 PBq 程度)と比べると小さい。
 

■ Long-term simulations of the 137Cs dispersion from the Fukushima accident in the world ocean
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002967

・JAEAとコメニウス大(スロバキア)による。この論文には、ほぼ同内容の日本語資料(無料)がある:

  太平洋における放射能濃度分布のシミュレーションについて
  http://www.jaea.go.jp/fukushima/pdf/gijutukaisetu/kaisetu04/kaisetu04.pdf
  (海水中のセシウム137の濃度分布アニメーション)
  http://www.jaea.go.jp/fukushima/pdf/gijutukaisetu/kaisetu04/kaisetu04-ani.htm

・福島第一原発から放出された Cs の太平洋遠洋およびインド洋遠洋での拡散状況を、海洋シミュレーションにより予測。遠洋での Cs 最大濃度と、Cs を取り込んだ魚介類の汚染度、さらに、その魚介類を人が摂取した場合の被ばく量を推計。
 ※ 本論文で示される予測値はすべて『遠洋』でのものであることに注意されたい

・シミュレーションで用いられた解析コードは、著者らにより開発された LAMER(ラ・メール:仏語で海)。

 ※ LAMER については:
  LAMER:海洋環境放射能による長期的地球規模リスク評価モデル
  http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Data-Code-2007-024.pdf

・2011年3月11日、巨大地震により誘発された 14 mを超える巨大津波が福島第一原発を襲った。冷却機能を失った3つの原子炉からは深刻な量の放射性物質が放出され、陸と海が汚染された。

・シミュレーションでは、海洋汚染の経路として
 (1) 放射能汚染された水の海への直接放出
 (2) 大気に放出された汚染物質の海面への降下
を考慮した。また、Cs の放出量については、Kawamura らによる推計値を用いた:

海への直接放出 [PBq] Cs-134:5, Cs-137:4
大気からの降下 [PBq] Cs-134:6, Cs-137:5

 ※ Kawamura らの論文は:
  Preliminary Numerical Experiments on Oceanic Dispersion of 131I and 137Cs Discharged into the Ocean because of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Disaster
  http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/18811248.2011.9711826

・太平洋遠洋での表層水(水深 0-100 m)の Cs-137 濃度は、2012年には最大 21 Bq/m3 程度になると推計された。これは1960年代初頭に観測されたもの(最大 30 Bq/m3 程度)と同等な量である。
 その後、Cs の最大濃度は急激に減少し、2021年には 1 Bq/m3 を下回ると推測される。

・表層水中の Cs-137 は事故後 4-5 年でアメリカ西岸に到達すると推測される。ただし、その時の濃度は 3 Bq/m3 未満にまで低下していると考えられる。

・中層水(水深 300-400 m)と深層水(水深 900-1000 m)の Cs 濃度は徐々に上昇し、それぞれ約10年後と約30年後には表層水と同等の濃度になると推測される。

・太平洋外洋でとれた海産物を人が摂取したときの内部被ばく量を推計した。推計に用いたパラメータは次の通り:

海水のCs濃度 [Bq/m3] Cs-137:21, Cs-134:25.2
  (シミュレーションの最大値を利用。Cs-134/Cs-137 = 1.2 を仮定)
魚介類摂取量 [g/日] 魚:64, エビカニ:5.4, イカタコ:5.5, 貝類:3.5, 海藻:10
濃縮係数 魚:100, エビカニ:50, イカタコ:9, 貝類:60, 海藻:50 (Cs-137、Cs-134 とも)
実効線量係数 [Sv/Bq] Cs-137:1.3×10^-8, Cs-134:1.9×10^-8
 ※ 論文には明記されていないが、実効線量係数の値から判断するに、「成人」を対象にした評価と思われる

・上記の魚介類を1年間、毎日摂取した場合の被ばく量は

預託実効線量 [μSv] Cs-137:0.73, Cs-134:0.93, 合計:1.66

なお、この被ばく量評価の不確かさは ±50% 程度と推測される。

・上記の被ばく量評価は「遠洋」の魚介類を対象にしたものだが、福島原発沿岸部の魚介類を対象にした場合には、被ばく量は遥かに高くなりうる。
 

■ 134Cs and 137Cs activities in coastal seawater along Northern Sanriku and Tsugaru Strait, northeastern Japan, after Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X11002347

・金沢大 低レベル放射能実験施設と日本海洋科学振興財団による。北三陸と津軽海峡(福島第一原発から 250-450 km)での海水モニタリング結果。

・調査期間は2011年5-6月。北三陸から津軽海峡までの防波堤10か所で表層水を採取。サンプル数は計29。
 三陸沖は、津軽海峡を通ってくる津軽暖流、北海道側からくる親潮、西日本側からくる黒潮が交わる、複雑な流れを持つ海域である。

・海水サンプルからの検出濃度は

表層水 [mBq/L] Cs-134:0.5-1.4, Cs-137:1.9-3.3 (下北半島北端)
表層水 [mBq/L] Cs-134:0.4-2.8, Cs-137:2.1-3.9 (それ以南)

 同地域での事故前の測定結果は

表層水 [mBq/L] Cs-134:ND, Cs-137:1.4-1.8 (下北半島北端 2009-2010年)
表層水 [mBq/L] Cs-134:ND(<0.8), Cs-137:0.8-2.3 (それ以南 2009年)

・今回の調査で検出された Cs-137 の濃度は、事故直前の年より 1.5-2.5 倍ほど大きく、10-15年前のレベルと同等である。

・下北半島北端は日本海からの強い潮流(津軽暖流)が流れ込む場所であるが、はっきりと Cs-134 が検出された。また、北三陸での検出濃度は、下北半島北端や日本海北東部 (※) での検出濃度とほぼ同等であった。
 これらのことから、セシウム濃度の上昇は汚染水の対流によってではなく、大気からの降下が主因となって引き起こされたと考えられる。
 ※ 同著者らによる測定結果がある

・幾つかの調査地点では、Cs-134濃度が 25-45%/月、Cs-137濃度が 5-30%/月の割合で減少していった。これは主に、沖合や海の深部への拡散、そして、海底への沈着によるものと思われる。
 一方、初期の濃度が低く、その後の濃度低減率も小さい地点があった。このような差異は、場所ごとのセシウム降下量や潮流の違いを反映しているものと思われる。

・河川水の混入が少ないと考えられる、塩分濃度の比較的高いサンプルのみを選び、回帰分析した結果、放射能比 Cs-134/Cs-137 は 0.98 だった。これは福島第一原発からの放出量比 Cs-134/Cs-137 = 約 1 と一致する。
 

〆 くわえて
 やや残念なことに、この特集号には「高汚染地域での初期内部被ばく」を扱った論文が無い。しかし、同誌(Journal of Environmental Radioactivity)の2012年8月号には、以下の非常に重要な論文が掲載されている:

■ Radiation doses among residents living 37 km northwest of the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X12000598

この論文については以下のまとめを参照されたい:

  飯舘村と川俣町の住民15人の外部被ばく・内部被ばく調査 鎌田七男・広島大名誉教授ら
  http://togetter.com/li/300220