斉藤清二先生による連続ツイート「心理臨床における事例研究法理論の再構築のための予備的考察」
⑮このような場合、ある方法をよりよいものに改善するために最も有効な研究法は、「効果研究」ではなく、質的改善のための探索的研究であり、私はそのような目的の研究を「質的改善研究:quality improvement research」と呼ぶことを提案したい。
2012-11-24 21:28:13⑯質的改善研究の目的は、「すでに行われている、あるいは行われることになる実践」をより質の高いものにするための実践知(practical knowledge)を創生、あるいは発見し、それをできる限り明示化して集積し・伝達することである。
2012-11-24 21:30:07⑰質的改善研究は、未だ効果があるかどうかが分かっていない介入法の効果を検証するための研究ではないし、自分の方法が他人の方法よりも優れているということを主張することを目的とする研究でもない。
2012-11-24 21:32:07⑱そうではなくて、質的改善研究とは、心理療法のプロセスを丁寧に行うと同時にデータを収集し、そのデータの分析を通じて、新しい実践に役立つ「知」を創生し、明示化し、伝達し、他者と共有することによって、その領域での実践知を豊かにするための研究である。
2012-11-24 21:33:23⑲そう考えると、臨床現場での心理療法に関連した研究の目的の大部分は、こういった質的改善研究であると言えることが分かる。現在までの、臨床研究における混乱は、実践現場での研究は効果研究でなければならないという誤解による部分が大きいと思う。
2012-11-24 21:34:49⑳もちろん、効果研究は重要な臨床研究の一つである。しかしそれは、臨床研究の全てではないし、質的改善研究とは全く目的の異なる、異なったパラダイムに属する研究なのである。・・ここでいったん休憩します。
2012-11-24 21:35:51①心理療法あるいは心理臨床の領域において、事例研究は最も重要な研究方法であるとされてきた。しかし、事例研究がなぜ実践研究として有用であるかということは、必ずしも自明のことではない。
2012-11-24 21:49:20②事例研究の目的は必ずしも一つに明確化できるものではないが、ある特定の心理療法の実践を通じて詳細な質的データ(あるいは量的データ)を収集し、その記述と分析を通じて、新しい実践知の創出と継承、あるいは共有を目指すことで臨床に貢献するものとして定式化できると私は考えている。
2012-11-24 21:51:12③近年、医学を初めとする臨床領域において事例研究の価値が低下した一因は、事例研究の目的があたかも効果研究であるかのように誤解されたことが大きいと思われる。ある特定の心理療法の治療例についての事例研究は、その心理療法の有効性を”一般的に”証明するため効果研究にはなりえない。
2012-11-24 21:52:35④例え心理療法的介入の前後で何らかの客観的な効果指標を設定して評価したとしても、その効果がその心理療法自体による効果であるのか、それ以外の要因の影響であるのか、自然経過であるのかについての判別することは不可能である。
2012-11-24 21:53:54⑤さらに一例だけの経験を全ての症例に一般化することは論理的にできず、統計検定による検証の素材としては、事例研究は最も不適切なものである。それを無理に主張しようとすれば、それは全く論理性を欠く、質の低い研究とみなされてしまうことになる。
2012-11-24 21:54:41⑥もちろん、色々な議論はあると思うが、心理臨床領域における事例研究の多くは、効果研究ではなく質的改善研究であるということを明確に認識することは重要であると思われる。・・以上で連続ツイートを終わります。
2012-11-24 21:56:37斎藤清二先生の一連のツイートを拝読し、今まさに質的な事例研究が必要なのはCBTの領域だと思い至りましたが、じゃあ、どうすればいいんだろうという具体的考えは未だ全く出てこない、というまことに情けない脳内状況です。かたじけない・・・@ SaitoSeiji
2012-11-24 22:13:44