大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森 体験記」

大槻涼樹｜ω･) ｵｵﾂｷｽｽﾞｷ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記：01日目。まず、俺が降り立った村は四方を平坦で高いコンクリの壁に囲まれている。空が狭く、暗い。西日が東の壁を染め、すぐにも闇に沈もうとする森を濃淡の強いオレンジに染める。まるでダムの底だ。見かけるどうぶつたちの顔色は一様に暗い。

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とびだせ どうぶつの森体験記：02日目。村の唯一の外界との接点である北壁の駅が封鎖された。扉が閉まり、駅は高い壁の向こう側に消えた。振り返る。天を衝くかのような壁、壁、壁。そのふもと、山間の盆地のようないじましい平野はすべてが森に覆われている。

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とびだせ どうぶつの森体験記：03日目。そもそも、俺にはこの村の外の記憶がない。

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とびだせ どうぶつの森体験記：04日目。ひと気の無い商店を発見。日付の記載すらない食料や埃をかぶった雑貨を漁る。レジに金を置いたが、そのレジの金自体が手つかずで放置されていたので、なけなしの誠意が伝わる可能性はおそらく低い。

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とびだせ どうぶつの森体験記：05日目。放置された民家を発見。倉庫から小型のテントを発見する。傍には錆びつき腐食の進んだバイクが、波打ち際の深海魚のようにいびつに横たわっていた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：06日目。まがりなりにも食料や装備が整ったので、障害の少ない北の壁にそって歩いてみることにした。北壁のおそらく真ん中にある駅につづいていた門を出立し、東の壁まではおよそ1時間半。

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とびだせ どうぶつの森体験記：07日目。途中の障害を考えておよそ距離は5～6キロといったところか。つまりこの村は全長10～12キロ程度の正方形の壁に囲まれていることになる。果たして、村と云えるのかどうかは別として。

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とびだせ どうぶつの森体験記：08日目。時折視界に入るどうぶつたちは、距離をおき遠巻きに俺を見守るのみだ。おそらく食欲からではない、不気味な熱量をたたえた上目づかいの瞳、瞳、瞳。のみならず、不自然な静寂が森を支配している。何か、武器が欲しい。

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とびだせ どうぶつの森体験記：09日目。数日前に発見した、北の壁近くの民家を中心に少しずつ踏破の範囲を広げる。北西部にある獣道をたどっていると、急に森がひらけ小さな窪地にでた。そこで、遺棄された交番を発見する。

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とびだせ どうぶつの森体験記：10日目。小さな二階建ての交番だ。上階は宿直室になっていたのだろう。残念ながら武器の類は見つからなかった。ただ、拘置用の地下室を発見する。

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とびだせ どうぶつの森体験記：11日目。急な木造の階段が闇の向こうへと消えている。明かりがない。二階に一泊し翌朝、手頃な棒にシャツを巻き、オイルをかけ火をつけ俺は地下へと潜った。

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とびだせ どうぶつの森体験記：12日目。地下はただの空室だった。ただし、血錆びた太い鎖と手錠の落ちている牢屋のなかで一帖の手帳をみつけた。誰かの、手記だ。

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とびだせ どうぶつの森体験記：13日目。一日がはやい。今夜も交番の二階の宿直室に泊まることにする。地下は厳重に閉めた。放っておくと、そこから黴びた闇が洩れ出てきそうで恐ろしかったのだ。手慰みに、頼りないマッチの明かりの下で手帳を開いた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：交番の手記。『私は間違っていた。どうぶつの森をとびだしてはいけない。私は間違っていた。南の壁に近づいてはならない。──の夜に北の空を見あげてはいけない。──に窓の外を見てはいけない。私は間違っていた。私は』

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“どうぶつの森をとびだしてはいけない。”

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とびだせ どうぶつの森体験記：14日目。他にめぼしい情報はなかった。最後のページのその走り書かれた一節だけが浮いていた。ふと、窓の外へ目をむける。何かがみえた気がした。どうぶつの、ひらいた瞳孔のような何か。食欲とは異なる熱量をたたえた何か、冥い……。

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とびだせ どうぶつの森体験記：15日目。頼りない木ぎれを握り、外へ飛び出す。だがそこにはもう何もいなかった。あるいは最初からいなかったのか。北壁をみあげる。何もない。月夜に空を大きく切り取り、なお黒く浮かぶその巨大な壁だけが俺をみおろしていた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：16日目。星空を見あげる時、通常ひとは中空の闇に輝きが浮かんでいると思うのだろう。だが必ずしもそうではない。“星の光をさえぎる何か”が、その空隙の正体かも識れないではないか。ましてや、空が狭いこの“どうぶつの森”では──。

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とびだせ どうぶつの森体験記：17日目。朝。信憑性のほどは判らないが、危険が示唆された以上無策で南へ向かうべきではなかった。一度北に戻るべきかと思案していたその時、森の向こうから彼女が現れた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：18日目。少女はカギサキと名乗った。変名なのか本名なのか上の名なのか下の名なのか、あるいは頭の軽い親から不如意につけられた輝かしいフルネームなのかは教えてくれなかった。変わってる。そう云うと彼女はただ小さく肩をすくめた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：19日目。なんでも東に小さな集落があり、数名が暮らしているのだという。外の人は数年ぶり。と云う口ぶりからすると彼女は中の人なのか。その“外の人”は？ 聞くとカギサキは押し黙り、じっと俺の目をみて彼方を指さした。南。なるほど。

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とびだせ どうぶつの森体験記：20日目。突然、森が途絶え小さな空き地にでた。時代と、それ以外の全部に取り残されたような、二階建て6室程度のアパートが建っている。あらかじめ限界集落を約束されたような佇まいだ。

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とびだせ どうぶつの森体験記：21日目。カギサキに呼ばれ、アパートから出てきたチンピラ風の男はシタリと名乗った。それが変名なのか本名なのか名字なのか下の名なのかは判別しがたかった。グラデーションのかかったレイバンの下で、猜疑心の強そうな目がしばたたいていた。

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とびだせ どうぶつの森体験記：22日目。あんた……センセイじゃないのかい？ センセイ？ ああ、センセイだろ、あんた。この森を出ようとして、南に……。一体、どうやって帰っ。──違う。俺が答える前にカギサキが答えた。この人はエキから来たの。