大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森 体験記」

シナリオライター、大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森」の体験記まとめ
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大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:23日目。エキが? 開いたのか? シタリが頓狂な声をあげる。ええ。見てたから。カギサキが答え、男は眉をひそめじゃあ別人か、と呟いた。俺は言葉もなく彼女を見た。──どうやら、俺ははじめから彼女に監視されていたものらしい。

2012-12-03 19:02:32
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:24日目。2、3空き部屋がある。好きな部屋に入居していい。当面、食料は皆で供出した備蓄から出してやる。慣れたらそれなりの対価を払ってもらう。シタリがそう云い、レンズの向こうで目を細めた。是非もない。俺は肯いて礼を云った。

2012-12-04 02:00:49
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:25日目。部屋を選ぶためアパートの階段を上る。何? 俺の視線に気がつき、カギサキが視線を向けた。君は、はじめから俺を──。云いきる前に、二階の一番手前のドアが開いた。ちょうど良かった、この二人でここの住人は最後。少女が云った。

2012-12-04 19:00:30
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とびだせ どうぶつの森体験記:26日目。果たして現れたのは、ピッタリとした色違いのボーダーを着た痩せて背の高い二人の男だった。あらあら。まあまあ。センセイじゃない。センセイだわね。二人ユニゾンで驚いたように両手をあげる。

2012-12-05 02:01:07
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:27日目。違う。先刻のやりとりを繰り返す。あら。まあ。二人はバイノーラルに驚き、あげた手を揺らした。人違いなのね。ご免なさいね。私はパラノユニロウ。私はスキゾモノロウ。双子なのだと云う。なぜか名字は違うらしい。

2012-12-05 19:00:23
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:28日目。ユニでいいわ。モノでいいわ。双子そう云って身体をくねらせる。この二人は一緒に住んでいるので部屋は実質3つが空いているのだという。僅かに広い階下の管理人室がシタリ、二階の真ん中がカギサキ。

2012-12-06 02:01:00
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とびだせ どうぶつの森体験記:29日目。二階で唯一空いている奥の部屋を見る。前の住人がいたときのままなのだろう。殺風景だが最低限の家具は揃っていた。西が入り口で東が窓。南の壁を埋めた本棚だけが、先住者の個性の残滓を感じさせた。

2012-12-06 19:00:23
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とびだせ どうぶつの森体験記:30日目。どうせ他の部屋も特段に違いは無いだろう。そのままこの部屋を使わせてもらうことにする。そう告げると、双子がちらと視線を見合わせた。やっぱりね。そうなのね。二人が左右の耳朶へ顔を寄せ、息を吹きかけるようにしてステレオに囁いた。

2012-12-07 01:55:02
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とびだせ どうぶつの森体験記:31日目。だから何度違うと云えば──。振り返る。だが、双子はすでにそのまま進みドアの向こうへ姿を消していた。部屋のこと、シタリに報告してくるから。続いて少女も部屋をあとにする。窓の外の森にはオレンジの闇が落ちつつあった。

2012-12-07 19:01:06
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とびだせ どうぶつの森体験記:32日目。夜。ノックの音。みると入り口にシタリが立っていた。ほらよ。ドサリと床に食料が置かれる。果物や魚の干物などプリミティブなものが多い。この森じゃあどうしても調達手段が限られるんでな。贅沢を云う気はない。謝意を伝える。

2012-12-08 02:00:54
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とびだせ どうぶつの森体験記:33日目。しかしアンタ、よく生きてたな。シタリがそのまま玄関に座り込み、煙草を咥えた。だから俺は“センセイ”とやらじゃあ──。違うって。よくこの森をウロついて生きてたってこった。サングラスの表面にライターの炎が揺れた。ゆっくりと紫煙がのぼる。

2012-12-08 19:00:30
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とびだせ どうぶつの森体験記:34日目。どういう意味だ。そういう意味だよ。男が顎で食料を指す。なんで魚以外に“肉”が無いと思う? この森のどうぶつは……奴らは、いつも俺たちを見てやがるのさ。いつもな。独り言のようにシタリが呟く。それに奴らの肉は、どうにも──。

2012-12-09 02:00:16
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とびだせ どうぶつの森体験記:35日目。いや、ともあれだ。立ち上がってシタリが首を振る。少し南にいくと川がある。そこが境界線だ。長生きしたければそれより南へはいくな。わかったか。何故だ。尋ねた俺の目をシタリが凝[ジッ]とみる。

2012-12-10 19:00:44
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とびだせ どうぶつの森体験記:36日目。他人様に聞いて返ってくる程度の答えに何を期待してるんだ? 理由がなきゃ人は死なないとでも思うか? いいから、アンタは黙ってカギサキの尻でも追っかけときゃいい。双子はアレだし、俺はコレだ。お手つき無しでお買い得ときたモンだぜ。

2012-12-11 02:00:46
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とびだせ どうぶつの森体験記:37日目。シタリが自分の腿の付け根を叩いた。初めて気がつく。股関節を含む下半身の大部分が人工物でできている。両足とも義足なのだ。おかげでオレはこの森を駆けることもできねぇ。だから教えてやる。シタリの唇が歪む。

2012-12-11 19:00:33
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とびだせ どうぶつの森体験記:38日目。川もまた“壁”の一部と思え。オレが思うに、壁の役割は基本ふたつだ。何かを守る為か……何かを閉じ込める為か。そして開けさえしなきゃあ、どちらかはわからねぇ。となりゃあ、曖昧なままにしとくのが一番だろうがよ──。

2012-12-12 02:01:02
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とびだせ どうぶつの森体験記:39日目。このどうぶつの森じゃあ、特にな。シタリが部屋から出て行った後、彼が云い残した言葉の意味を考えた。開けさえしなきゃあ──。しかしそれを云うならここは壁の胎内だ。開けるまでもなく、パンドラの箱の中で重なった猫だ。

2012-12-12 19:00:49
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とびだせ どうぶつの森体験記:40日目。考えても仕方がなかった。夜の森からかすかに聞こえてくる囁きのようなざわめきを聞きながら、俺は目を閉じた。

2012-12-13 02:00:35
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とびだせ どうぶつの森体験記:41日目。シタリの望み通り、曖昧なままで数日の刻が流れた。彼らの生活はシンプルだ。主に川を中心に食料を確保し、残りの時間で好きな時を過ごす。重要度で云えば木の実や山菜の比重も大きい筈だったが、カギサキ以外は極力森を避けているようだった。

2012-12-13 19:00:35
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とびだせ どうぶつの森体験記:42日目。彼女だけは躊躇無く森へ入る。パーカーを目深にかぶり、大きなナイフを片手に森の奥へと分け入るその姿は、何かを致命的に間違えた赤ずきんか、或いは青い鳥を探す過程で片割れを失った少女のようにみえた。

2012-12-14 02:00:21
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とびだせ どうぶつの森体験記:43日目。なあに、あの娘が気になるの? アパート二階のデッキから森へ消えるカギサキの背を見送っていると、ボーダーの双子、パラノユニロウとスキゾモノロウが現れる。

2012-12-14 19:00:34
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とびだせ どうぶつの森体験記:44日目。あの娘、どんどん母親に似てきたわ。似てきたわね。母親? そう、識らないのよねアナタ。まあ、もしかしたらアナタの部屋に──写真の一枚もあるかもだけれど。あるかもだわね。眩しげに細めた、四つの瞳がこちらを見ながらそう云った。

2012-12-15 02:00:50
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:45日目。何か、このどうぶつの森の手がかりが掴めるかもしれない。川へ出かけるという双子の誘いを断り、部屋の中を調査してみることにする。

2012-12-17 02:00:48
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:46日目。西日を背に受け部屋の入り口をくぐる。すでに室内も、東の窓から漏れ入る陽でオレンジの色を増しつつあった。この分では双子もそうは魚を追えまい。今日はやけに影の脚が速い。

2012-12-17 19:00:58
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