大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森 体験記」

シナリオライター、大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森」の体験記まとめ
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大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:47日目。改めて室内を物色する。キッチンやベッド、机の周囲には特になにも見あたらなかった。その他、サニタリーの類は共用なので部屋の外にある。あと目に付くものといえば──本棚か。

2012-12-18 02:01:03
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:49日目。南の壁をびっしりと埋めた本棚を調べる。背表紙から伺う限り内容は多岐に渡っている。実用性の疑わしい本草学の書籍や、得体のしれない民俗学の本。かと思えば楽譜、箱に収められた手書きの写本、世界靴下大図鑑の第35巻のみなど。

2012-12-18 19:01:08
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:50日目。並びもバラバラで、何処から手をつけていいのかもわからない。ただ、古い紙の手触りと匂いには何かしら心安らぐものがあった。紙魚を払いながら、ル・コントスの奇態な図鑑に目を通す。

2012-12-19 02:00:56
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:51日目。パチリ。不意に部屋の明かりがついた。夜は明かりを絶やさないで。云ったでしょ。顔をあげるとカギサキが俺を見おろし立っていた。気がつくと日は落ち、窓の外の森を闇が覆っていた。いつのまにか夜になっていたのだ。その景色もすぐにカーテンで隔絶される。

2012-12-19 20:00:58
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:52日目。夕刻のうちからカーテンをひき、明かりをつけろ。それは彼女から強い念押しとともに科せられたルールのひとつだった。どうぶつよけか何かの意味があるのかと思ったが、シタリや双子が同じ制約の下で生活している様子はなかった。

2012-12-20 02:00:30
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とびだせ どうぶつの森体験記:53日目。そして仮にどうぶつよけであったとしたなら、カーテンでそれを閉ざすことには意味が無い。あるいはそこに何か、俺にはわからない整合性が存在するのだろうか。

2012-12-20 19:01:20
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:54日目。とにかくもう遅いわ。寝なさい。彼女が云った。住人の生活リズムはかなりの朝型に寄っている。それに慣れつつあるのか、云われてみればうっすらと睡魔が忍び寄りつつあった。

2012-12-21 02:00:22
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とびだせ どうぶつの森体験記:55日目。何を調べてるの。去りがけに彼女が振り向き、本棚にちらと視線を走らせる。双子の話をする勇気は無かった。このどうぶつの森に関して、なにか情報がないかどうか探していた。そう説明する。

2012-12-21 19:01:26
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:56日目。そう。彼女が云い、去った。わずかな逡巡を感じた気がしたが、気のせいかもしれなかった。本棚を見る視線にも何かを感じたが──それも、気のせいかもしれなかった。

2012-12-22 02:01:08
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:57日目。結局室内の、あるいは本棚の精査は不完全に終わった。一方、翌朝から食糧確保などの手伝いをカギサキやシタリから要請されることが増え、調べ物にあてられる個人の時間も減っていった。まるで……それ自体が目的であるように。

2012-12-22 19:01:01
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とびだせ どうぶつの森体験記:58日目。忙しくも穏やかな日々が続いた。それを平穏ととるか、ターミナルケアのようだと考えるかは、人それぞれの感性の問題なのだろう。状況に大きな変化が起こったのは──それから、10日ほど経過した後のことだった。

2012-12-23 02:01:07
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とびだせ どうぶつの森体験記:59日目。朝から住人たちの様子に落ち着きが無い日だった。シタリが云うには、今夜は“どうぶつが騒ぐ夜”であるらしい。今日は部屋を出ずに過ごすか、遅くとも夕刻までにはアパートへと戻り、夜は絶対に外へ出ぬようにと強く念を押される。

2012-12-24 19:00:58
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とびだせ どうぶつの森体験記:60日目。何故、どうぶつたちが騒ぐのか。また騒いだところで危険があるようにも思えない。詳細を訊ねる。そりゃ、おめぇ──。答えかけたシタリが表情を固くし、開きかけた唇を引き結んだ。振り向くと、階段から降りてくる少女の姿が見えた。──カギサキだ。

2012-12-25 02:00:40
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とびだせ どうぶつの森体験記:61日目。シタリ。カギサキが口を開く。あなたは脚が悪いんだから、早めに部屋に入ってなさいな。お、おう。親子ほども差があろう少女に云い諭され、男は鳥のようにゆらゆらと前後に首を揺らした。

2012-12-25 19:02:15
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とびだせ どうぶつの森体験記:62日目。オレはただ、コイツに……。あなたが差し出る必要はないわ、シタリ。カギサキが冷たく云い放つ。男は何か云いたげだったが、やがてその眼を逸らしてきびすを返して部屋へ戻っていった。さあ、あなたも。少女が階上を指した。外出は諦めた方がよさそうだった。

2012-12-26 02:00:21
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とびだせ どうぶつの森体験記:63日目。外出は諦め、室内で過ごす。窓からのぞく外の風景は特に日々と変わりない。ただ、確かにいつもなら辺りをウロウロしているどうぶつたちの姿が、今日は一匹も見当たらないようだった。

2012-12-26 19:00:53
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とびだせ どうぶつの森体験記:64日目。戻り際、カギサキから渡された本日分の食糧を摂り、次いで本棚から適当な本を手に取る。埴谷雄高の『死靈』。第一章、癲狂院にて。まあいい、壁に囲まれたこの状況には似合いのタイトルかもしれなかった。

2012-12-27 02:00:18
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とびだせ どうぶつの森体験記:65日目。物語とも思想書ともつかぬ書を読み進み、状況を忘れかけた頃だった。深[シン]とした静寂を破り、窓の外から遠い会話のような微かなざわめきが聞こえてきた。腕の時計に目を落とす。いつの間にか、針は長短共に頂点をまわっていた。

2012-12-27 19:01:04
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

同時に、窓の反対側のドアがけたたましい音をたて開く。驚いて振り向くと、視野を覆うようにパーカーのフードを下ろし、両手で頭を抱えた少女が室内に飛び込んできた。カギサキだ。

2012-12-28 02:00:20
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

間髪をいれず後ろ手にドアを施錠し、チェーンをかける。鍵は閉めて。こうして誰かを入れない為ではなく、自分が迂闊に外へ出ないように。少女が云う。

2012-12-28 02:05:48
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

窓の向こう、背後ではどうぶつたちのものと思われる、人語にも似たざわめきが大きくなりつつあった。喧噪のような、嗚咽のような、哄笑のような、雨音のような。

2012-12-28 02:10:24
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

カーテンに手をかければ、その正体はすぐにもわかる。だが、背中にそんなおぞましい囁きを負いつつ、俺はカギサキの視線を振り切って窓へ向き直ることが出来なかった。──彼女が、自らの服に両手をかけ、制止する間も無く衣擦れの音を立て始めたからだ。

2012-12-28 02:15:42
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

得体の識れぬざわめきの中、下着姿の少女のその言葉だけが明瞭と耳に届いた。明かりは──消さないで。絶対に。

2012-12-28 02:20:50
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:66日目、了。→To Be Continued. Next 2013/01/03

2012-12-28 02:21:52
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:67日目。半裸の少女が眼前で脚をとめた。あなたも脱げば。挑むような鳶色の瞳には、しかし好意や欲動が浮かんでいるようには見えなかった。何故だ。男の人がそれに理由なんか要るの? 要る人間には要るんだ、要らない人間には要らないけれど。ふうん。

2013-01-03 19:00:37
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