大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森 体験記」

シナリオライター、大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森」の体験記まとめ
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大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:188日目。──センセイ。4年前、おそらくは今の俺に先行してこのルートを通り、どうぶつの森からひとり飛び出した男。もしくはその前……11年前に現れ、同じように出て行った男によく似た男。

2013-03-23 02:00:57
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:189日目。あるいは俺も、その物語の列に加わるのだろうか。同じように北から現れ、南から出ていった男として。シタリや双子の……2、3の人の内だけに伝わり、やがて消えるどうしようもなく小さな物語に。

2013-03-23 19:01:07
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:190日目。だが……それらはあくまで別の男の話でしかない。そこに意味性を見いだすことは俺にはできない。消える定めの小さな物語など、それぞれの人間がそれぞれの人生に抱えるだけで充分ではないか。

2013-03-24 02:00:28
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:191日目。カギサキが手をのばす。センセイ、わたし……。いいから口をきくな。身体を休ませろ。まず夜を越える。お前が落ち着いたら壁を越え、森を越える。そして最後には物語を越える。

2013-03-25 19:01:18
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:192日目。もの……がたり? ああ。なぜ俺がこの森を出て行くんだと思う? それは──この森には人間が少なすぎるからだ。君を入れ、あのオマナッドを入れ、俺自身を入れたところで6人。やがて滅ぶしか無い数だ。

2013-03-26 02:11:34
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とびだせ どうぶつの森体験記:193日目。この森の──……どうぶつの森の最悪は、そこだ。人間の不在に尽きる。人間の少なさに尽きるんだ。何故なら人間の恐ろしさは数の多さに尽きる。人間の強さは“多数”であることの避け得ぬ結果としての“多様性”に最終的な因が尽きるからだ。

2013-03-26 19:00:32
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:194日目。とびだせ どうぶつの森体験記:19日目。オマナッドの云った通りだ。どうぶつは現在[いま]しか持たない。短い過去と、現在があるだけ。だから物語を持たない。目の前で連続しないことには理解が及ばない。どうぶつは──子を愛しても孫は愛せない。

2013-03-27 02:00:13
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:195日目。それでは種が保たぬので人も含め、どうぶつは大雑把に群れという単位を愛するよう出来ている。結果として種は存続するが、それは“未来を愛する”ことと同義ではない。俺たちは外に出て、他の人間を探さなければ──。

2013-03-27 19:01:11
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とびだせ どうぶつの森体験記:196日目。フフ、“センセイ”の授業……。カギサキが弱々しく手をあげた。でもセンセイ……やっぱり私、ダメだった。耳鳴りがひどいの。目を閉じる。昔、云ったよね。なぜ私たちがわざわざ森の中で暮らしているのか。

2013-03-28 02:00:52
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とびだせ どうぶつの森体験記:197日目。何故だ。訊ねる。それは“センセイ”だ。俺は聞いていない。彼女が首を振る。北壁の駅、東の壁、西の壁……。どれも近づけばこうなった。南の壁[ここ]も……やっぱり。多分、そういうルール。

2013-03-28 19:00:27
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とびだせ どうぶつの森体験記:198日目。“ルール”? カギサキが頷いた。私もシタリも双子も、多分オマナッドも……。みんな。だから、私以外は近づかなかった。私も、こんなに長い時間壁のそばにいたこと、ない。多分、限界が……。

2013-03-29 02:00:40
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とびだせ どうぶつの森体験記:199日目。慄然と来た道を振り返る。彼女の言葉が事実なら、ここへ引っ張り上げた行為、それ自体が彼女を害することに等しい。地上までは4、5メートルといったところだが、なにぶん足場が悪い。彼女を連れ、戻れるものだろうか。

2013-03-29 19:02:27
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とびだせ どうぶつの森体験記:200日目。戻ったところで、森のなかで夜を、どうぶつたちを退けられるだろうか。背後から射す夕日色の光も、ゆっくりと消えかけている。とにかく、まずは彼女を……。だが立ち上がろうとする俺を、彼女が首を振り制した。……いって、センセイ。

2013-03-30 02:02:10
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とびだせ どうぶつの森体験記:201日目。私は置いていって。あのときセンセイは……私の罪を持っていってくれた。だから私は罰を受けることもなく、なのに同時に、罪を犯してまで欲しかったものを失って……。ただ生きるしかなくなってしまった。目尻から血を流し、カギサキが呟く。

2013-03-30 19:01:13
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とびだせ どうぶつの森体験記:202日目。私はただあの日……センセイを少しだけ独り占めにしたくて。本当に出来心で。ただ、南の光を見た時みたいに、具合が悪くなるだけだろうって。北の空を……。お母さんに、北の空の、光を……。

2013-03-31 02:00:52
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とびだせ どうぶつの森体験記:203日目。“カギサキはまだ14、5で母親は32、3。若くて姉妹みてぇな──”“──の夜に北の空を見あげてはいけない。──に窓の外を見てはいけない。私は間違っていた。私は”“女だけが死んだ。黒焦げで……目鼻口、耳。ドタマの穴全部から火を噴いて──”

2013-04-01 19:01:26
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とびだせ どうぶつの森体験記:204日目。まさか……。──森の何処かでどうぶつが吠えた。夜を告げる怨嗟の声。俺は初めて南壁の亀裂の奥を振り返った。カギサキは……。最後の西日が、ガラス様に熔けた亀裂の奥の壁に反射して輝いていた。カギサキが──。

2013-04-02 01:59:39
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とびだせ どうぶつの森体験記:205日目。そう。西日、なのだ。穴は、真っ直ぐには南へ抜けていなかった。──当然だ。夕日が南から射す訳がない。南壁の崩れは、20メートルほど奥のその天然の反射板から右斜め上方へ向かって抜けているようだった。

2013-04-02 19:00:45
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:183日目。だがそれは、おそらくひとりで往くのが怖いというだけのいじましい感情からの行動だった。最後の段をのぼりながら、肩の力だけで無理に彼女を引き上げる。抵抗しようと顔を背け、頭を垂れたカギサキが現れる。

2013-03-20 02:00:26
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:206日目。おそらく“センセイ”は、ただ南へ消えた訳ではなく。カギサキの母の死の真相を抱えたまま……それを壁向こうへ葬り去ろうとしたのだろう。だが、それでカギサキが幸せになれる訳がない。彼女は……ずっと、罰を望んでいたのだ。

2013-04-03 02:00:47
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