大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森 体験記」

シナリオライター、大槻涼樹氏による「とびだせ どうぶつの森」の体験記まとめ
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大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:163日目。気にかかることは多いが、結論としては是非もない。踏み倒すのが前提のツケよりは安んじて承けられるという部分はある。よし、じゃ、ディールってことで。男が銀色の円筒を渡し両手を握ってきた。

2013-03-05 01:59:03
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:164日目。ああ、折角だからキミにも餞別をあげるよ、カギサキ。ともあれ取引は済んだ。早々に店を出ようとしたところで、男がカギサキを呼び止める。わ、私はまだ森を出るとは……。彼女が云い淀んだ。気後れを誘うのは本意ではない。そのまま先行して店をでる。

2013-03-05 19:01:27
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:165日目。玄関と部屋の間の、瓦礫でできた獣の巣穴のような風洞を抜け外にでる。それが四方を高い壁に遮られ、天元から落ち木々の間から忍び差すだけのこのどうぶつの森の僅かなものだとしても──陽光は気持ちがよかった。

2013-03-06 02:00:38
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:166日目。しばらく外で待っていると、やがてカギサキが出てきた。この巣穴のような店をでると同じ感慨を抱くものなのだろう。彼女もまた。額に掌をさし眩しげに陽光を仰ぎ見ている。

2013-03-06 19:01:01
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:167日目。それともあれは……何か、思いを巡らせている表情なのだろうか。お待たせ、行きましょう。カギサキが云った。餞別に何を渡されたのかは──聞けなかった。彼女は行きましょうと云ったのだ。今はそれで十分だった。

2013-03-07 02:00:16
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:168日目。ひたすらに──どうぶつの森を往く。深い森林は、驚くほど濡れている。枝葉が陽を遮り、落ちた葉や草木が吸湿する床材となって、じわりとした濡れ羽色の世界を形づくっている。足がとられ、歩きにくい。

2013-03-11 19:00:33
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とびだせ どうぶつの森体験記:169日目。そして意識してみれば、確かに森のあちこちにはあの夜、絶命したと思われるどうぶつの骸が転がっていた。大半は腹部に食害を受け──おそらく他のどうぶつの一部にすでに還元されており、今はより小さな……虫たちの楽園へと姿を変えつつあるようだった。

2013-03-12 02:05:31
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:170日目。それは彼らが、南の空を──あの“光の影”を見過ぎた結果なのだろうか。急ごう。ぼんやりと考え込んでいた俺を、カギサキが引き戻してくれた。歩き出す。川を越え、南の領域へと入る。太陽はすでに中天を過ぎ西へ傾きつつあった。確かに、急がねば。

2013-03-12 19:01:16
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とびだせ どうぶつの森体験記:171日目。そもそも、四方を囲む高い壁が中天を狭くしている。森の陽が落ちるのは疾[と]く、朝の光が立ち上がるのは遅い。だが、東の壁が落ち往く陽を反射し鈍く光っているうちに、壁の南西部へとたどり着くことができた。さらに壁に沿い東へと向かう。

2013-03-13 02:06:27
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とびだせ どうぶつの森体験記:172日目。南壁は、過去に見た北壁に比べ荒廃が進んでいた。あちこちに大きな亀裂がはしり、砕け落ちている部分がある。また壁だけではない。地形……あるいは森の様相にもどこか違和感があった。

2013-03-13 19:03:04
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とびだせ どうぶつの森体験記:173日目。樹が……なびいてる? カギサキが違和感の正体を口にした。云われて気がつく。目には入りつつも──認識していなかったのだ。だが一度意識してしまえば、周囲の草木が、花が、枝が、幹が。ごく僅かに傾向を持っているのが視えた。

2013-03-14 02:00:52
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とびだせ どうぶつの森体験記:174日目。それらが、東を──あの夜、まるでライトアップでもするように森を地平から照らしあげていた光の足元──まさしくこれから向かう先を中心に、そこから少しでも身を遠ざけようとでもするかのように、反っている。

2013-03-14 19:00:52
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とびだせ どうぶつの森体験記:175日目。陽光や風の影響かも……。カギサキが云った。いや、違う。一方から一方へ傾いでいるだけならその可能性もあった。だがこれは“放射状”にひろがっている。つまり、それが──収束する点がある。

2013-03-15 02:00:35
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:176日目。壁に沿って、道無き道を往く。やがて“それ”が見えてきた。無論、初めて来た場所だ。しかし木々はそこに向かって収束しており、またそれを置いてもそこが目的地であるという胸に迫る確信もあった。南壁に──巨大なトンネル様の穴が、開いているのだ。

2013-03-15 19:00:52
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とびだせ どうぶつの森体験記:177日目。幅だけでも数メートル、高さはそれに数倍する規模の巨大な亀裂。壁自体が分厚くまた位置が地上数メートルほどにあるので、ここからその穴の果ては見えない。だが、それが壁の向こうへと貫通していることに論や検証を待つ必要は無かった。

2013-03-16 02:00:19
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とびだせ どうぶつの森体験記:178日目。クラックが放射状に広がり、黒い太陽のようにぽっかりと開いた壁面の亀裂から、濃密なオレンジ色の光が溢れ出していた。逢魔の……。夕焼けの色。カギサキが不思議そうにその光を見ている。

2013-03-16 19:01:08
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とびだせ どうぶつの森体験記:179日目。周囲の高い壁が早々に陽光を遮るため、どうぶつの森に夕焼けはない。もしくは力がないと云うべきだろうか。四角い空だけがぼんやりと明るい黄昏が長く続き、やがて照り返しがかすかにその色を匂わせる。その程度のものだ。

2013-03-17 02:01:05
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とびだせ どうぶつの森体験記:180日目。行こう。カギサキをうながし、亀裂の縁を目指す。崩落した瓦礫があちこちに山を成しているため、危険だが登ること自体は不可能ではない。あと少しで壁の向こうが見える。そこでカギサキが足をとめた。

2013-03-18 19:04:16
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とびだせ どうぶつの森体験記:181日目。どうした? ここから先は、ひとりで行って。カギサキが云った。だが、もう日が暮れる。そうなれば危険だと云ったのは──。行けないの、多分。……やっぱり。少女が暗い瞳でかぶりを振る。

2013-03-19 01:58:46
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太陽が沈みつつあった。闇が降りつつあった。それなのに、赤光が増しつつあった。カギサキがおそらく、何かに思い至りつつあった。そして俺は、壁の向こうを目の前にして──なのに、何処にもたどり着けぬような気持ちを抱きつつあった。

2013-03-19 02:00:06
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とびだせ どうぶつの森体験記:182日目。やっぱり? どういうことだ。あともう少しだ。外に出られる。壁の。このどうぶつの森の──。手を伸ばし、カギサキの腕を掴む。抵抗。やめて。何故だ。森の外に出てしまいさえすれば、きっと君も……!

2013-03-19 19:00:59
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:183日目。だがそれは、おそらくひとりで往くのが怖いというだけのいじましい感情からの行動だった。最後の段をのぼりながら、肩の力だけで無理に彼女を引き上げる。抵抗しようと顔を背け、頭を垂れたカギサキが現れる。

2013-03-20 02:00:26
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:185日目。恐怖を交えた苦痛の表情。白い肌が、肩越しの光で濃い橙の色に染まる。彼女の頭がゆっくりと持ちあがる。その瞳がまず俺を認め、次いで右に流れて肩越しの光景へと……壁の外の景色へと向かう。

2013-03-21 19:01:23
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:186日目。何を見たのか。その目に理解の色が浮かんだ気がした。彼女が瞳を閉じる。すると目頭にゆっくりと大きな雫が膨らみ、頬を伝わり転げ、首筋を滑り落ちていった。赤の光を浴びてなお、さらに濃さを増したような──ダークチェリーの涙。

2013-03-22 02:01:03
大槻涼樹|ω・) オオツキスズキ @suzuki_o

とびだせ どうぶつの森体験記:187日目。カギサキ! 力を失い、岩場から身体ごと落下しそうになる彼女を必死でたぐり寄せる。センセイ……。意識が混濁しているのか、カギサキが俺をそう呼んだ。違う。それは俺ではない。

2013-03-22 19:00:41
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