天国よりも野蛮～軍人と暗殺者　前日譚

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep まあとりあえず、後藤さんにこっそり頼んでこういうこと止めてもらう様にするよ。俺の心臓に悪い。そうせえ、と爺さんは頷いた。ワシの心臓にも悪い。あ、爺さん。そこに死体あるから誰かに頼んで片付けさせて。庭に転がってる暗殺者の成れの果てを指差すと爺さんは顔を顰めた。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 相変わらず手際が悪い戦い方をする。すいませんね、修行が足りなくて。全く、煙草一本吸いに出れねえよ。今度はどこからじゃ。髪の色からして、あちらさんのかな。昨夜も寝てるとこ来られたし、寝不足だよ全く。どうせしっかり食べてから殺したんじゃろう。それ位いいだろ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 俺の言葉に爺さんは苦笑する。ほどほどにせえよ。へいへい。さて、あの昼行灯にどうやって伝えよう。こないだ貰ったキャバ嬢の自叙伝使うか。意外と泣けたと感想を加えた上で。今頃千石は家に着いただろうか。あの気障な男のことだ、薔薇の花束でも買って帰ってるだろう。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 家に帰ったら戦地から直帰した当の本人はソファで軍服のまま寝ている。荷物は玄関に放り出されたまま。かろうじて携帯だけテーブルに投げ出されてる。ぐったりした寝顔。蓮見は馬鹿だが指揮官としては優秀だ。今回の奴は指揮官として馬鹿だったのだろう。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 俺の足音に、不機嫌そうに呻きくれはは目を開けた。お帰りなさい。ただいま。仕事、どうだった？大丈夫。そう、お疲れ様。何で戦地から帰ってきた方が労わるのか。普通逆だ。あら、綺麗。俺の腕に抱えられている薔薇の花束を見てくれはは呟く。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 渡してやると白い肌が赤い薔薇に埋もれる。お疲れ。ありがと。ふと足を見ると、包帯が巻かれてる。相変わらず不器用な巻き方。これ、巻いたことになってないよ？指摘するとうるさい、と不機嫌そうに呟かれた。昔から不器用だね。止血の役割は果たしてるしいいじゃない。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep ぐちゃぐちゃな巻き方をされた包帯を解いていく。痛かった？別に。泣かなかった？こんなことで泣かない。…色々見たり聞こえたりは？…何も。じゃあ何故戦地には不釣合いな音楽プレーヤーを手放さない？訊きたいところを堪える。こんな力いらないと泣いて抱きついてたくせに。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 子供の頃から他の人が見えないものが見えて聞こえないものが聞こえた。両親に気味悪がられ、疎まれた。元々、子育てに向いていない人達だったのだろう。子供という存在を持て余していたところに訳の分からないことを口走られて困ったのではないかと、今なら思える。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep けれど、幼い私は一番身近な大人である両親に分かって欲しくて何度も訴えた。あの人達は訳が分からなかったろう。溝は深まるばかりだった。しばらくして戦争が激化し、軍人募集の条件が前より緩くなり待遇も良くなった。家を出るには一番手っ取り早い。私の軍人になった理由だ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 意外だったのは渡がついてきてくれたこと。それから自分に銃や剣の才能があったこと。そして、士官学校で何故か仲良くなったのが、軍神の孫で、軍人になりたくないと言う変わり者だったこと。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 子供の頃から両親にすら遠ざけられていた私の傍にいたのはこの幼馴染みだけだった。女癖の悪いこの男を蓮見や立石さんは呆れているが残念ながらあの頃の孤独を癒してもらった恩はその程度で消えない。たとえ、告白とか手を繋ぐとかいう段取りをすっ飛ばして押し倒されたとしても。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep こんな力いらない。泣いて抱きついて、何度困らせたことだろう。ごめんな、俺にも聞こえないし見えないけど、お前が嘘ついてるって俺は思ってないから。信じてるから。たった一人の味方は、こんな力を勝手に与えた神様じゃなくて自分を無条件に信じてくれる幼馴染み。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 今はほとんど何も聞こえないし、見えない。大人になったからなのか人殺しの軍人になったからなのか、理由は分からない。それでも戦地に赴き刀を振るうと戦いの喧騒とは別の何かが聞こえてくる時がある。それは酷く煩わしく心を苛立たせる。そんな時は音楽プレーヤーでやり過ごす。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep それは渡には気付かれてるけど何も言われない。考えてみたら、戦場は死が常に隣にある。神社とは正反対ではあるけれどある意味では神様の近くなのかもしれない。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 一方で敵の動きや、天候の変化が唐突に察せられる時もある。蓮見は最初驚いていたが理由は聞かずに信じてくれた。鳥羽ちゃん凄い勘。助かる。それだけ。おかしいと思わないの？何で？お前がこんなとこで嘘つくわけねえもん。蓮見はけれども、私の勘に最初から頼らない。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 私から言えば信じてそれに合った行動を取るけれど、自分からは訊いてこない。蓮見はしっかりと線引きをする男だ。軍神の孫と謳われ、欲しくもない力を与えられ、軍人になりたくないとぼやく蓮見の気持ちは少し分かる気がする。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 人と違うものを最初から持っている、それは持たない者からすれば羨ましいことなのかもしれない。けれど持つ者は、代償に孤独と役割を与えられる。苦しみや孤独を、それでも蓮見は誰にも分けず、見せない。馬鹿蓮見。渡はいつも言う。周りがどんな気持ちで見てると思ってるんだ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep また傷沢山増やしてきたな。汚れた包帯はいつの間にか全て解かれてる。前行った時の傷もまだ治りきってないのに。足の傷を笑いながら渡は触る。まだ痛いのよやめて。文句を言うとにやりと笑われて、傷口を舐められた。痛いって言ってるでしょう。消毒だよ、我慢して。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep そんなとこ怪我してない。えーそんなことない、こないだここ切ってた。温い舌が足をゆっくりと走る。力が抜ける。ねえ、疲れてるのよ。そう。お腹も空いたわ。シチュー出来てるから後で一緒に食べよう。軍服のボタンを外され、スカートのジッパーはいつの間にか下げられてる。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 相変わらず手馴れてる。この一月、何人の女をここに連れ込んだのやら。シチューって、いつ作ったの。ん？昨日。そろそろ帰ってくるかなって思ったし野菜使いきりたかったし。上着を剥ぎ取られシャツのボタンも外される。てっきり別の女の子にご馳走する為に作ってるのかと思った。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep さすがにくれはさんが命がけで頑張ってる時にそこまではしない。…それ以外のことはしたのね？…んーどうだったかなぁ。追及は唇を塞がれ、封じ込められた。お前が今日帰ってこなかったら、馬鹿蓮見と食べてたよ。何なら立石の爺様も呼んで。…貴方達三人でクリームシチュー？

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep うん、なかなかシュールだよね。言われて思わず苦笑する。見れないのが残念な貴重な光景。こんなとこまで怪我して。腕や脇腹の傷は目敏く見つけられ、消毒だと舐められる。だから、沁みるのよ…っ…嘘だ、今のは傷跡だもん。しかも半年前の。悪魔の様な笑顔。腹立たしい。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 麻酔なしでも平然と縫合に耐える女が俺に傷口を舐められただけで悲鳴を上げる。それを悦ぶ俺は大概趣味が悪い。ねえ、ベッドに連れてって。えー面倒。久し振りにまともな寝床で横になりたいの。…じゃあ、問題。俺は何本薔薇を買ってきたでしょう？…どうでもいいわ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 愉悦に堕ちかけてるアーモンドの瞳が忌々しげに光る。穢れた神様の娘。せっかく買ってきたのにそれはないだろ。…たくさん。俺は本数を訊いてるんですよくれはさん。煩わしそうに呟く。どーせ１００本とかでしょう。どーせって酷いね。でも外れ。正解は１０１本。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep …それって犬の数じゃない。いや、１本オマケしてくれたの、たまたま。下着だけ身に着けている幼馴染みを抱き上げ、ベッドに連れて行く。ああ、また軽くなって。俺好みの巨乳にいつなってくれるんだこいつ。