- uzo_inuoka
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○月○日 雨。私は旅に出る。人生で初めての旅だ。旅立ちに至るまでの道程に比べ旅そのものは短いものとなるだろう。旅の門出を祝うかのように降るこの雨も、時期に止む。扉を開ける腕にも力が入る。さぁ行こう、待ち人の元へ。
2012-11-26 01:44:48○月×日 道行く人たちから投げかけられる視線が痛く、緊張する。私は自分の肩を抱くようにして足早に宿に駆け込んだ。旅人という存在に不慣れな街なのだろうか。今、薄明かりのもとでこれを書いている。私が目指す目的地は前人未踏だと地元の酒場の主人が口にしていたのを思い出した。
2012-11-27 01:30:42○月△日 街の外れの森に入る。奥に進むにつれて汗ばむくらいの暑さになった。最深部で洞窟を見つけた。入口は腰を屈めないと入れないくらい狭く、見落としてしまうところだった。一歩踏みこむと途端に闇に包まれる。松明の明かりを頼りに奥へと進む。ここで間違いない。
2012-11-28 00:15:22○月□日 低い姿勢で歩き続けたせいで、腰が痛い。さらに奥へ進むと広い空間に出た。痛めた腰をさすりながらさらに奥へ進む。そこでついに待ち人に逢った!しかし私たちが互いに手を取り合った瞬間、洞窟内に地響きが轟き、その振動で出口が塞がれたのだ。なんということだ、私たちは閉じ込められた!
2012-11-29 01:47:49○月◇日 閉じ込められて3日が経った。私たちは依然として解決法を見つけられないままである。待ち人である女性に何度勇気づけられたことか、我ながら不甲斐ない。幸いにもこの空間には地下水が流れこんできている。私が彼女を守らねばならない。
2012-11-30 06:38:51○月▲日 耳元で響く水音で目を覚ました。地下水がうまく排水されなくなっているようだ。沈水するようなら対策を練らなければ。追い打ちをかけるように心身の疲弊で嘔吐するようになった。体が食事を受け付けない。彼女の体が無事ならそれでいいのだが。
2012-12-04 01:16:10○月▽日 時間の感覚を失った。多分今日は▽日だろう。壁は何度蹴っても壊れず、少なからず諦念を持ち始めている。彼女とも親密になっているのは怪我の功名というべきか。地下水に見たこともない魚がいて、どうにか食いつないでいる。外は雷雨のようだ。洞窟内まで響いてくる。
2012-12-02 16:56:59▼月○日 あれからますます水かさが増し、膝にまで浸水している。水の届かない奥へ行こうと彼女に言おうとしたその時。轟音とともに壁が崩れ、大量の水が流れ込んできた!たちまち水は天井にまで達し……壁の崩れる音がした。必死の抵抗も徒労に終わり、私たちは流された。身体中に激痛が走る。
2012-12-16 00:11:39波濤の中で彼女の叫ぶ声がする。 ──どうして私を連れ出すの── “世界”を知ってほしいから。 ──怖いよ、外に出たくない── 怖がらないで、一緒に行こう。 ──私達の脱出を待つ人はいるの── みんな、私達が出てくるのを待ち望んでいるんだよ。 ──私は── 出口だ、呼吸を整えて。
2012-12-16 00:13:48▼月×日 視界が開けて強い光に照らされる。 どれほどこの時を待っていたのだろう。 ついにやり遂げたのだ。 彼女と抱き合い生還を祝う。ともに大きな怪我もせずかすり傷程度で済んだ。 見渡す限りの青空、どこまでも広がる世界に私達の喜びの声が「おぎゃあおぎゃあ」と響いて……
2012-12-16 00:14:03