自作小説第五章:S.N.2

自作小説第五章です。第四章→http://togetter.com/li/418312
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川口 慧太 @eulen_zoids

《足もとには赤い血。俺が切り裂いた奴の血と。奴らに砕かれた味方の血。 「ご苦労」 黒髭は多分そう言ったのだろう。そこに表情はない。目は見開かれている。黒髭も、部下も。くいいるように見ているのだ。血を。 まだ何か黒髭は言っていたのかもしれない。》#S.N.2

2012-12-27 22:11:57
川口 慧太 @eulen_zoids

《知らない。俺は聞き終わる前に駆けだしていたから。 「戯言言ってんじゃ…ねぇッ!」 妙にきれいに並んだ部下敵の集団へ、雷光を振り下ろした。それは落下し、焼く為に、 「弔いの邪魔をするな」 え? 腹から、いや、背中からかもしれないけど、鈍い音と、衝撃を感じた。》#S.N.2

2012-12-27 22:17:51
川口 慧太 @eulen_zoids

《それも二度。そこからの浮遊感。そこからの跳ねる感覚。自分が。 「狭山君!」 来栖さんの声がする。どこから。わからない。視界が赤くて、頭が振動して、認識できないのだ。体は既に止まっているはずなのに。 ろくに頭が回らない。急激だ。なぜ俺は跳ねた?突っ込んだはずだろう?》#S.N.2

2012-12-27 22:22:53
川口 慧太 @eulen_zoids

《そして今度は後ろに下がっていく感覚。引きずられているような。 震動に刺激されてだんだん意識と視界がクリアになっていく。まだ赤みがかっているが。 最初に目に入ってきたのは足だ。細く、見覚えのある、女性のもの。俺の前を阻むようにすっと立つ、来栖さんの。》#S.N.2

2012-12-29 00:44:21
川口 慧太 @eulen_zoids

《その向こうに、さっき襲いかかったはずの黒髭たち。うっすらと理解ののち戦慄する―俺は弾き飛ばされ、来栖さんに守られているようだ。無様に。 「ぐっ…」 呻きながら体を起こす。節々が痛む。局所的に激痛。折れているのかもしれない。 「弱いな」 黒髭の声がする。》#S.N.2

2012-12-29 00:52:15
川口 慧太 @eulen_zoids

《「thirdsとはこの程度か。同志が倒されたのは不意をつかれたからのようだ。これでは彼も浮かばれない」 淡々とした口調。それがさらに癇に障る。 「下でとった女もこんな雑魚だったのだろう」 「とった…!?」 驚いたように声を出したのは来栖さんだ。》#S.N.2

2012-12-29 00:58:08
川口 慧太 @eulen_zoids

《「一階で既に別の同志がthirdsの女とsecondsの男を捕えた。だから言ったのだ。勝てると」 痛みは俺を抑えなかった。 無理矢理に立ち上がる。体を裂くような痛みだ。かまわずに仁王立ち。そして突撃した。こんどこそ稲妻を叩き付けるために。 もはや言葉はなかった。》#S.N.2

2012-12-29 01:02:28
川口 慧太 @eulen_zoids

《否ーでもー正確にはー言葉を発せなくなった。 まるで無駄のない滑らかな腕の動きにより、俺の首は黒髭に掴まれた。 息が気管から抜ける。まるで断末魔のようだ。どうにか腕と鞭を振ろうとする。しかし力が入れられない。首から下が自分と分離してしまったようだ。》#S.N.2

2012-12-29 21:08:38
川口 慧太 @eulen_zoids

《「弱い」 再度、告げられる同じ言葉。俺の体は持ち上げられている。宣告を受ける罪人のように。 「貴様らはまったくもって、弱い」 淡々と、しかしはっきりと聞こえる言葉だ。意識が薄れていくのを感じる。 わずかに目を動かして周りを見た。黒髭の部下はいつの間にか跪いている。》#S.N.2

2012-12-29 21:14:48
川口 慧太 @eulen_zoids

《儀式に臨んでいるかのようだ。 俺は、贄か。 「貴様らは我々に押しつぶされる。あっさりと。なぜ『69』は貴様らに拘ったのか」 そして腕に力が込められて。いよいよ遠く。 「戯言、言わないでくれる?」 今のは? 来栖さん? 即時。 横から飛来してきたものがある。 衝撃。》#S.N.2

2012-12-29 21:20:07
川口 慧太 @eulen_zoids

《まさに飛んできたのだ。衝撃が。 それは黒髭に弾丸のように襲いかかり、横っ飛びに吹き飛ばした。 手が離れる。俺の首から。なにもできず落下する。それなりに高い位置より。地面に叩きつけられることを覚悟した。 しかし、何かが支えた。 固い、しかし柔らかい。相反する感覚。》#S.N.2

2012-12-29 21:23:51
川口 慧太 @eulen_zoids

《まるで、鍛えられた人間の腕で抱きかかえられているかのようだ。 下を見る。はたして、そこには金属色のものがあった。思わず息をのむ。開かれた金属色の手のひら。 それがいきなり動いた。 俺は完全に気を呑まれていたので掴まれてしまった。握りこむかのように。そして振動。》#S.N.2

2012-12-31 17:41:11
川口 慧太 @eulen_zoids

《急速な後退だ。自分の視界と体が。 一気に距離が開く。なぜこのようなことが。その意味は即時にして理解する。数秒前まで俺がいた場所。そこに黒髭の部下が一斉に襲い掛かり、床に穴をあけていた。殴打によって。 「ごめんなさい、ごめんなさい。最初からこうしていればよかった…」》#S.N.2

2012-12-31 17:44:32
川口 慧太 @eulen_zoids

《また来栖さんだ。この人の声はいつも見えないところから降ってくる。 これは謝罪だろうか。それとも哀訴だろうか。急にそんな思考がわいた。 首を回し探そうとした。来栖さんの姿を。その答えを知ろうと、無意識に。そこへやってくる空気音。 「うわっ!」 見つける間なく転落。》#S.N.2

2012-12-31 17:48:15
川口 慧太 @eulen_zoids

《投げ出された?周りに金属手はない。浮き上がり壁にぶつかって停止した。 そこに至り、全貌は見える。 「…それはなんだ」 土煙の中から立ち上る姿と声。黒髭のものだ。あんな勢いで吹き飛ばされたのに傷一つ負っていない。 「わたしの、secondsとしての力」 冷たい返答。》#S.N.1

2012-12-31 17:51:59
川口 慧太 @eulen_zoids

《そこに存在していたものを、俺は理解できなかった。 ひと、ではなく、ものを。 ひとは理解できた。来栖さんだ。俺の、俺たちthirdsの上司、来栖遥香主任教官だ。 美しい相貌には、何かを決断したかのような色がある。きっと結ばれた口と、にらみつけるような眼。》#S.N.2

2013-01-01 20:48:47
川口 慧太 @eulen_zoids

《後ろから横顔でもわかる、燃えるような意志。 理解できなかったのは、その背に現れていたものだった。 両肩口から伸びる、鋼鉄の二本の腕。 背中から生えているといってもよい。来栖さんの制服、その背面に穴が開いて、無造作に生えて、なんというか、つながっているのだ。》#S.N.2

2013-01-01 20:57:13
川口 慧太 @eulen_zoids

《目を奪うのは巨大さでもある。それぞれがほとんど大人一人分ほどの大きさ、そしてドラム缶のような太さなのだ。怪物の腕と称すべき代物だった。鈍色の。 「く、来栖さん、それは」 自分の口から茫然が言葉となって漏れ出た。脳裏では理性の痕跡が教えている。先ほど救われた腕だと。》#S.N.2

2013-01-01 21:14:06
川口 慧太 @eulen_zoids

《「わたし」 返答。即座かつ明朗に。目はもはや俺に向けられない。普通にある方の腕を組み、射るように黒髭を注視している。 対象たる黒髭は、驚くほど動じていない。 「お前の力か。それで我々を打ち倒すつもりなのか?」 風景でも眺めるかのような脱力した姿勢でそう問うてきた。》#S.N.2

2013-01-01 21:15:08
川口 慧太 @eulen_zoids

《「倒すんじゃない。破壊する」 冷え切った声だ。いつもとは違う。何かが消えている。 来栖さんが、たとえ怒っている時でも、いつもにじませていた何かが、今はなかった。 「わたしはあなたたちを壊す。思い切り。殺された部下たちのために。これ以上殺させないために」》#S.N.2

2013-01-09 22:39:16
川口 慧太 @eulen_zoids

《「壊す、とな」 呟いて、なんと、黒髭は、笑った。にやりと。場違いだ。嘲りのつもりだろうか。 「壊すというのは良い。よかろう。壊してみせてくれ。我々の積み上げてきた諸々を全て粉々にしてみせてくれ」 声の調子まで変わっているような印象を覚えた。そして感じるものがある。》#S.N.2

2013-01-09 22:44:08
川口 慧太 @eulen_zoids

《ぞわり。 神経が。肌が。毛の一本一本が。 ささくれだつ。 初めて経験する感覚だ。推測。圧縮知識が囁く。殺気というものだ。これが。 気づけば少しずつ動いている。黒髭部下がしずしずと隊列を変えている。一様にそろっていく姿勢は、黒髭と同じものだ。 危険だ。 察知した。》#S.N.2

2013-01-09 22:47:56
川口 慧太 @eulen_zoids

《反射的に立ち上がろうとして、失敗に終わる。 激痛が行動を阻害したのだった。 「来栖さん…!」 俺は呻くように呼んだ。そのくせ言葉は続けられなかった。 なんでそんなことをしてしまったのだろう。目的もなく他人に関わろうとするなんて。まるで無意味だ。 ああーやっぱり。》#S.N.2

2013-01-09 22:51:52
川口 慧太 @eulen_zoids

《今日は全てが、無茶苦茶だ。 乱暴な気鬱に囚われそうになった俺を。 「あまりしゃべらない方がいいよ、狭山君」 来栖さんの返答が引き止めた。 そしてようやく、その顔がこちらを向く。 「ついでに、あまりわたしを見ないようにして」 見慣れた、でも少し悲しげな、笑顔だった。》#S.N.2

2013-01-09 22:56:57