レプリカ・ミッシング・リンク #8
ニンジャフードが焼け落ち、パンデモニウムの目が恐怖に見開かれる!逆にニンジャスレイヤーの両目は無慈悲なる愉悦に輝く!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!……サ、サヨナ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」 70
2012-12-19 01:58:38「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「サツバツ!」ナラク・ニンジャは小跳躍し、四連続回転の勢いを乗せたボレーキックを側頭部に!「グワーッ!」パンデモニウムの首が蹴り飛ばされスシ・レーンのスシ皿に乗った!「サヨナラ!」爆発四散! 71
2012-12-19 02:05:57何度ワザアリを取ろうともイポンを取らねば即ち死ぬ……神秘的なジュー・ジツの教え通りの結末であった。しかしアマクダリ中枢へ至る情報源はまたも失われてしまったのだ。フジキドは片目にナラクの光を宿したまま、チャドー呼吸とともに歩み、自省する。己自身も暗い闇へと堕ちる寸前であった。 72
2012-12-19 02:18:24「……ハァーッ、ハァーッ……」ユンコはジャンクドロイドを引っ張りながら、辛うじて廃墟スシ・バーを脱出し、立体駐車場へと逃げ出していた。「エネルギバーがだいぶ低いですよ」とAIカエルが注意喚起。「分かってるって……」地鳴りのような音とともに、ビル自体が激しく振動し始めた。 72
2012-12-19 02:21:17トロ成分も不足し始めた。「完璧なリソース配分なんて、ちょっと、無理だったみたい……」固いコンクリートの上にへたりこんだユンコは、またあのエンジン音を聞いた。そちらを見る。片目を赤く輝かせたニンジャが、1330ccの武装バイクに跨がって暗いスシ・バーから飛び出すのが見えた。 73
2012-12-19 02:26:12ロックオンマーク出現。否定。ユンコはヒッチハイクめいて手を掲げる。満身創痍のニンジャはフジキド・ケンジの瞳に戻り、走行ルートを変更した。アマクダリ武装ヘリがバイクジャンプでも届かぬ距離まで飛び去ってゆく。2体のオイランドロイドを拾い上げると、彼は崩れ行くハカバから脱出した。 74
2012-12-19 02:32:13ズンズンズンズズズンズンズンズズ!ライブハウスにサイバーテクノが響く。ステージ上で平行LAN直結した「電気信号」のメンバーは、首をロボットめいて規則的に左右に向け、さらにL字形にした両腕をロボットめいて規則的に上下に振っていた。その危険な同期ダンスにフロアは沸き返っている。 76
2012-12-19 02:42:32ズンズンズンズズズンズンズンズズ!BPMが加速し、同期ダンスも加速する。ドドコンドドコンドドコンビーン。「スゴイ!」「新曲重点な!」危険なロボットダンスを踊るサイバーゴスたちが熱狂する。「電子的デジャブ!ゴースト!お前はまた何処かに消えた!」ヘイトディスチャージャーが歌う。 77
2012-12-19 02:48:04「電子ノイズによる冤罪!沸き上がる怒り!激しい怒り!スパーク!火花が散るとお前はいない!突然変異的マシーンの脳内UNIXが生み出したゴースト!社会という名の演算装置に現れたノイズ!ハイ!お前はまた何処かに消えた!生き写しのレプリカ!レプリカ!レプリカ!ミッシング!リンク!」 78
2012-12-19 02:55:39「ワオオオオオーッ!」「ワオオオオオオーッ!」ホールの熱狂は最高潮に達していた。フードを目深にかぶり、最後列の壁を背にそれを聴く女。彼女は誰にも気づかれることなく、出口に向かった。ここはもう自分のいるべき場所ではない。だが敬意を払うべき場所。自分を支えてくれた場所。 79
2012-12-19 03:02:51彼女は細く白い足で階段を上り、ネオンサインが火花を散らすエントランスに達する。「ダッセ!」「サイバーゴス、ダッセ!」ライブハウスの前を通り過ぎるカラテ・ジョックスが、ブラックベルトと最新鋭サイバーサングラスをこれ見よがしにアッピールしつつ、笑いながら通り過ぎていった。 80
2012-12-19 03:07:25フードを目深に被った少女は、些細な怒りに囚われて拳を握る。すぐにそれは制御される。バオオオオオン!黒いバイクがエンジン音を上げて、彼女を迎えた。ロードキル・デトネイター。それに乗るライダースーツを纏った金髪コーカソイドの女性が、サイバーサングラス越しに彼女を見てうなずいた。 81
2012-12-19 03:12:41フードの端からLANケーブル髪を微かに覗かせながら、ユンコはナンシーの操るロードキルの後部座席に乗った。2人を乗せたバイクは夜のネオサイタマをしめやかに走り出す。「ハッキングは終わり。指名手配の事なんて、すぐに押し流されるわよ」ナンシーが言った「半年もすれば誰も覚えてない」 82
2012-12-19 03:18:17「考えたけど」ユンコは言った「ハッカーなんて、どうかな?記憶チップから再生されたドロイドで、しかもハッカーなんて……ねえ?かなりカワイイじゃない?」メンテナンス代、スシ代、その他諸々を賄わねば生きてはゆけないのだ。「興味深いわ」ロードキルは右へ、左へ、鈍い車たちを追い抜く。 83
2012-12-19 03:26:54「エンジニアは……多分無理だよね」ユンコは言う「大学からファッキン・ドロップアウトしちゃったから」「企業に入らなくたって、何とかなるかも知れないわよ」「そうかな」「多分ね、分からないけど。試してみたら」「試してみようかな」ロードキルは速度を上げる。ネオンサインが流れてゆく。 84
2012-12-19 03:31:13ユンコの胸には、父親から貰ったロケット素子はもう無かった。地下秘密ラボのUNIXに挿入されたまま、爆発に巻き込まれて消滅したのだ。答えは結局のところ、すぐ近くにあった。あの素子に全てのデータが収められており、即座に特許登録ができる状態だった。望むならば権利者の名前とともに。 85
2012-12-19 03:36:21ハイテック市場は徐々に落ち着きを取り戻していた。むしろ失望により低迷している。スズキ・マトリックス理論は基礎理論にすぎず、即座に脳記憶チップからの安定した蘇生技術が確立される見込みはゼロであることが明らかになったからだ。モーターカワイイはある種のロストテクノロジーとなった。 86
2012-12-19 03:42:33少しの沈黙の後でナンシーが言った。「……まあ、そうね、暫くは一緒にいるといいわ。アジトの護衛役が欲しかったし、あなたには色々と興味があるのよ」「興味?」「そう、ジャーナリスト的な興味がね。まだまだ謎は解かれていない」 86
2012-12-19 03:45:10「例えば?」「眠っている間にどんな夢を見ていたのか、とかかしら……それとも、あなたが見るIRCコトダマ空間はどんな風景なのか…」「コトダマ空間?」「そうね、アジトで話しましょ。ゆっくりシャワーでも浴びてから……ね。そう、私も少し嬉しいのよ。この世界って、男ばっかりだから」 87
2012-12-19 03:49:39長い長い戦いを終えて少し緊張がほぐれたのか、ナンシーの背を抱きながら、ユンコは静かに……少し長い眠りについた。ロードキル・デトネイターは夜のネオサイタマに吸い込まれてゆき、見えなくなった……。 88
2012-12-19 03:54:04