ヨウカイスレイヤー第五話より「フラワリング・サツバツ・ナイト」#3

第五話「フラワリング・サツバツ・ナイト」 ファンタズマゴリア・ケイム・フロム・ジゴク #1:http://togetter.com/li/352567 バット・フー・イズ・ザ・イービル・ヨウカイ #1:http://togetter.com/li/361069 続きを読む
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YOUKAISLAYER @YKSLYR

第五話「フラワリング・サツバツ・ナイト」より「フラワリング・サツバツ・ナイト」#3

2012-12-24 22:02:08
YOUKAISLAYER @YKSLYR

ヨウカイの山と正反対の場所に位置する、見捨てられた禁断の地、無名丘。この広大で太陽の畑に近い丘に住む者は無く、花屋を営む物好きな人間さえ寄り付くことはない。異常繁殖し他種を駆逐したオーガニック・スズランの放つ毒がこの地を訪れる者たちを責め苛むのだ。1

2012-12-24 22:04:22
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だが、今の季節は春。任意の季節に花を咲かすことの可能なバイオスズランではなく、初夏に咲くオーガニック・スズランがこの時期に咲いているのは奇妙だ。だが人々はこの地の異常さを特別問題視することはない。2

2012-12-24 22:06:13
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ナツメ、ヒース、茜、カリン、クレマチス、ミクリ、メリッサ、菘、シャガ、マチン、榊、アカギ……季節、場所、種類問わず花がゲンソウキョウ中に咲き乱れていた。中でも群を抜いて多く生えてきたのはヒガンバナである。当然ながらこれもこの季節に咲く花ではない。3

2012-12-24 22:06:32
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ここ最近の騒ぎが自然の権化たるヨウセイによって起こされていること、そしてこの数日間タカギ・マリサの行方が知れぬことを重く見たハクレイ・レイムことヨウカイスレイヤーはこの花異変を含む一連の現象を異変と認め、この異変の主を倒すために立ち上がった。4

2012-12-24 22:07:55
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ヨウカイスレイヤーは手当たり次第に、特に過去に異変を起こした者達のもとを訪れインタビューを行ったが、全員が知らないの一点張りであった。寧ろほとんどの者達がこの異変をさも当然の現象であるかのような振る舞いをしており、それは強力なヨウカイであればあるほど顕著な反応であった。5

2012-12-24 22:09:40
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そんな異変と無関心なうちの一人がイザヨイ・サクヤだ。レミリアの忠実なるサクヤは……実際は彼女が実権を握っているようなものであるが……レミリアの障害となり得るもののみを自発的に消す。つまるところ今回の異変を放置しても問題ないと判断したということだ。6

2012-12-24 22:12:43
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先日の戦闘により満身創痍に近かったサクヤの体は、失われた血中ダンマク量を取り戻すヤゴコロ製薬の薬により驚異的な速さで回復した。マリサが嗜むキノコに含まれるZBRや、バリキドリンクを始めとするヨロシサン製薬の商品とは違い、麻薬的成分が一切ない合法な薬である。7

2012-12-24 22:13:35
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先の異変で敵であったこともあり警戒心を持っていたが、友人であるアリスに彼女らが信頼に足りる者達であること、それらの薬が実際有効であることを説かれ服用に至っている。彼女はケースから別のタブレットを取り出し飲み込んだ。これは最大血中ダンマク量を高める薬であり、これもまた合法である。8

2012-12-24 22:14:04
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「このようなものに頼らねばならなくなるとは思いませんでしたわ」サクヤは独り言めいてつぶやく。「毒には毒を以ってすべし、昔からそう言うのよ」スズランのヨウセイが現れ、サクヤの独り言に答えた。「貴方は誰?」「それは私ではないわ」「面白い冗談ね」「面白い?それこそ冗談だわ」9

2012-12-24 22:14:43
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ヨウセイは身を翻し、飛び去ろうとした。サクヤが後を追う。「毒のヨウセイか何かかしら。うちのメイドヨウセイよりは使えそうね、知能も上等」サクヤは空間を拡張し、オーガニック・スズランの花を踏みつぶさぬよう歩く。それにしても単調な景色だ。10

2012-12-24 22:16:23
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視界は次第に紫がかった色に染まりゆく。それに伴い目の前にいるはずのヨウセイの姿が霞んでゆく。「イヤーッ!」サクヤはナイフを闇雲に振り回す。「イヤーッ!」振り回す。「イヤーッ!」ナイフを投擲!切り取られた紫色の空間がゴトリと落ち、視界が開けた。11

2012-12-24 22:17:01
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切り取られた空間の向こうでは、普通のヨウセイより一回り以上小さいヨウセイがその場で8の字を描いて小さく旋回している。目線を下に移すとそこには一体の人形がうつ伏せに横たわっており、毒霧めいた紫色の空気を吐き出していた。「捨てられた人形?……ッ!イヤーッ!」KABOOOOOM!12

2012-12-24 22:18:16
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人形に触れようとした瞬間、突如人形が内側から爆発!サクヤは咄嗟の判断でバク宙を決めギリギリで回避!タツジン!「イヤーッ!」着地と同時にナイフを投擲する!「イヤーッ!」霧の向こうから声とともに飛来するのはナイフだ!サクヤはサイドステップでこれを躱す……躱せぬ!「イヤーッ!」13

2012-12-24 22:18:59
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軌道を曲げ迫り来るナイフの速度が急激に遅くなる。感覚時間が引き伸ばされ、サクヤだけが時に順応する。彼女は潜り抜けるようにナイフをグレイズ回避。振り返る。ナイフは既に消滅している。新たにナイフを二本投擲する。時間が元に戻る!「イヤーッ!」霧が盾めいて集まりナイフが受けられた!14

2012-12-24 22:20:14
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周りの霧が全てその盾に凝集し、視界が開ける。集まった紫色の塊は花火めいて発散し、中から先ほど爆発した人形と同じ影が現れた。「貴方は……イザヨイ・サクヤ=サン、ね。ドーモ、メディスン・メランコリーです」「ドーモ、メディスン=サン。初めまして、イザヨイ・サクヤです」15

2012-12-24 22:21:33
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「どうして私の名前を?」「こんな辺鄙なところまで来て、自殺志願か何かでしょう?」「このスズランならいい薬が作れそうだわ」「毒薬なら作り放題よ」意味のない会話が繰り広げられる。「人殺しのためのお茶なんて、ふざけた奴もいるのね」「世の中には毒のあるお茶の方が喜ぶ者も居るのです」16

2012-12-24 22:23:00
YOUKAISLAYER @YKSLYR

メディスンが一歩後ずさり、サクヤを見上げる。彼女は実際サクヤの半分と少し程度の身長しかなかった。「貴方は何者なの?」「こちらが先に聞いたと記憶しておりますわ」「こっちが先に名乗ったはずよ」「私は毒物に興味のある普通の人間。何もおかしなところはありますまい」17

2012-12-24 22:23:30
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「欺瞞に過ぎないわね」メディスンは片目を細めた。人形が知性を持ち喋ることさえ特筆すべき奇怪な現象ではあるが、メディスンの行動や仕草は人形のそれとは明らかにかけ離れている。これはいかなる事か?答えは明白であろう。スズランの放つ毒が彼女に知性と生命を与えた以外考えられまい。18

2012-12-24 22:24:34
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「私は人間に捨てられた人形。所謂ツクモガミとかいうやつよ」メディスンは極めて人間めいた口の動きと共に答えた。「……質問に答えてくれない?」「既に答えたわ?何を言わせるの」「そのひとつ前」「答える必要は無いわ」跳躍的会話!読者諸氏はついてこられているだろうか?19

2012-12-24 22:25:56
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「そう」サクヤがナイフを一本、わざとらしく落とした。「酷いのね、人間って」「私が特殊なだけですわ」「他人に優しくしていないとインガオホーを受けるわよ?」「貴方が言えたことで?」「私は人形には優しいの」コトダマ・ダンマクとも言えようか、両者は言葉を投げつけあう。20

2012-12-24 22:26:56
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「それで?あなたの目的が知りたいわ。わざわざその子を使ってまで私をおびき寄せたからには理由があるのでしょう?」サクヤはカプセルを噛み砕く。麻薬的快感は無いが、血中ダンマク濃度が飛躍的に上昇しているのを感じた。「それは当然」メディスンを取り巻くアトモスフィアが渦巻く。21

2012-12-24 22:27:52
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「裁く為よ」メディスンを包む紫色のポイズン・オーラが風に揺らめき、巨大なドラゴンの形を形成した。「貴方は気が付いていない。最も恐ろしい毒というものはゆっくりと体を蝕む毒だということに。いつから貴方はここにいる?どれだけ空気を吸い込んだのかしら?」メディスンが嘲るように言った。22

2012-12-24 22:28:16
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「成る程」サクヤは手先の微かな震えを感じた。薬の副作用でないことは明らかだ。「試されているわけですか」「呑気ね」「器用なのよ」サクヤは作り笑いを浮かべる。「シテンノは罪を許さない。人間の貴方には、個人的にも許すわけにはいかない!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」二人が跳んだ。23

2012-12-24 22:29:22