連作ツイノベ・「中国地方の魔法少女は――【第3章】」

「さぁて、今日も頑張るよー!」――まだまだ魔法も上手くない、ひよっこ魔法少女のつっきーですが、エゾや皆と頑張ります。ところがどっこい、世の中アクシデントは付きもので。つっきー、気持ちで負けません! 【プロローグ】 http://togetter.com/li/90917 【第1章】 http://togetter.com/li/107048 【第2章】 http://togetter.com/li/297049
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佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「おろ? つっきーじゃん。どしたん、今日は訓練休みじゃったろ?」突然の背後からの声にビクリと肩を震わせ慌てて振り返る。確かに手元の作業に没頭していたとは言え、気配も何も欠片程も感じなかった。エゾからのシグナルすらなかったし、相変わらず恐ろしい力量の茜さんである。 #twnovel

2012-12-23 23:43:07
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「おはようございます、茜さん」「うん、おはようつっきー。エゾっちもおはよ」「おはようございます」「うん、朝から元気でよろしい。んで? 何しょうるん?」茜さんの問いかけに、これです、と右手のレンチと左手の部品を見せる。「時間が出来たので自転車の整備をと思いまして」 #twnovel

2012-12-24 15:47:08
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

支部の地下(のはずだが、何度か妙なゲートくぐってる気がして確信はなし)、装備及び備品倉庫片隅の簡易整備場。愛機と工具、その他一式を持ち込んでの久しぶりの本格整備だ。何も日曜日の朝っぱらから油と金属の匂いに囲まれなくてもと言った所だが、それもまた良しということで。 #twnovel

2012-12-25 19:14:54
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

へー、と肩越しに覗きこんだ茜さんの動きがふいに止まる。「えっ、これ整備、なん……?」「? はい、整備ですけど」エゾと顔を見合わせ首を傾げる。何かおかしいだろうか? 「――つっきーはこれ元に戻せるん?」勿論ですよ、と即答して気付く。「あ、えっと、今日はですね――」 #twnovel

2012-12-26 20:20:54
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

えーっと、これはどう言ったらきちんと伝わるだろうか。「たまの機会なので本格的にやってるだけなんですけど――」振り返っていた身体を戻し茜さんが見ているものに視線を合わせる。目の前の光景を見直して冷静に思う。そりゃまぁこれを見て整備してるとは普通は思わないよね、と。 #twnovel

2012-12-27 23:05:02
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

整備場に広げたブルーシート。その中心で横になっているボクの愛機だが、その姿は言ってしまえば、そう――、無残なものだ。鈍く銀色を反射するフレームからはありとあらゆる部品が取り外され、自転車本来の機能など発揮するべきもなく、ただ薄くその身に赤茶けた錆を浮かべている。 #twnovel

2012-12-28 23:35:40
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

そのフレームを中心に、両の車輪やペダル、ハンドル、さらにはチェーンなどが元の位置関係をだいたい保った形で並ぶ。それら大きな部品の合間を埋めるように転がるのは、小さなボルトやワッシャー、ナットの類で、徹底的に分解され並べられたその様子は、確かに整備中とは思い難い。 #twnovel

2012-12-29 18:09:53
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

印象としてはいいとこ廃棄前の分別作業とか部品取りとか――「いえ、マスター、その発想が既に普通じゃないと思いますけど」「マジでっ?」今までにも何度かはここまでバラしたりもしているけれど、ロボ部か自動車部の部室前だったからこれを見て変に思う人っていなかったんだよね。 #twnovel

2012-12-30 15:55:18
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

ロボ部、自動車部の部員なら自分の自転車ぐらい自分で面倒見て当たり前。ん……? ていうか変に思うどころかみんな嬉々として手を出してたような――「さすがマスターのご学友ですね」いやまったく。『高専の常識、世間の非常識』とはよく言ったもんだよ。はっはっは――閑話休題。 #twnovel

2012-12-31 20:29:15
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「えっとですね、茜さん。整備には見えないかもしれないですけど、というか整備には見えないだろうなとは思うんですが、まぁ整備でして、ボクらは自転車程度完全にバラしても元に戻すぐらいお茶の子さいさいです」そうでなければロボットやゼロハンなんか相手にしてられないですし。 #twnovel

2013-01-01 15:55:06
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「へー、高専生ってすごいんな」アタシには無理じゃー、と摘み上げた部品を繁々と眺めながら呟く。「いえいえ、ここまでやる必要なんか滅多にないですし、日頃から手をかけておけば下手なパンクに煩わされることもないですよ」空気入れて油差して汚れ落として――ほんの一手間だ。 #twnovel

2013-01-02 22:18:33
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「いやいや、そうじゃのうてな――」空いた方の手を大きく違う違うと振ってくる。「そもそもアタシ自転車乗れんけぇ、手入れも修理も関係にゃあんよ」「えっ!? マジですか?」「うん、マジマジ、大マジ。ヘタにバイク使うぐらいだったら、自分の足つこうて駆けた方がはやぁけぇ」 #twnovel

2013-01-03 16:00:44
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「凄いですね――」はー、ともはや感嘆も溢れるばかりである。「つっきーじゃって鍛えりゃそんくらいはできるようになるって。アタシもつっきーくらいの歳ん時はまだ原付について行くんが精一杯じゃったし」その原付について行くという時点でかなりの無理難題な気がするんですけど。 #twnovel

2013-01-04 23:19:03
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「――まあボクにはこの子がいるんで」この子、と銀のフレームに手を添える。「まだ高専入ってからの付き合いですけど、おかげで今のところ遅刻とかもせずに済んでますし」添えた手をそっと這わせるようにフレームを撫で上げる。「この子がいれば行きたい所はだいたい行けますしね」 #twnovel

2013-01-05 21:44:10
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

――行きたい所が自転車二十分圏内に全てあるというのは、この場合逆にまずいのかもしれないが。青春を謳歌する花の高校生(※正確には高専生)だと言うのに、だ。「そう言やアタシも足のたう範囲にしか用事無かったような気がするな」「で、ですよね! それで普通ですよね!」 #twnovel

2013-01-06 22:18:08
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

ほっと胸を撫で下ろすも、束の間、「アタシ、家と道場と学校の往復しかしょうらんかったんじゃけど――これって普通なんかね?」思わず振り向き茜さんの顔を仰ぎ見るも、顎に手を添えたその表情はいたって真面目。これが加奈さんなら間違いなくボクをおちょくっているのだけど……。 #twnovel

2013-01-07 23:26:50
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

茜さんだもんなー、茜さんですもんね、どうしたもんかなとエゾと相談していると、「おおっ!」と唐突に、話題の当人が手を打ち合わせた。ビクリと身を震わすボクとエゾだったが、実は驚きよりも叩き合わされた手から零れた衝撃波によるところが大きい。あと人体にあるまじき爆発音。 #twnovel

2013-01-08 22:46:03
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「おわっ! ――って、あ、ごめんごめん」大丈夫? と目を丸くするボクらに茜さんが気付く。「あ、はい、大丈夫です。特に問題は」衝撃波が風を伴って走り抜けて行っただけ。エゾは全身の毛を膨らませてもっふりしてしまっているが、ボクは髪の毛が少し乱れた程度の被害しかない。 #twnovel

2013-01-09 17:27:01
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「びび、びっくりしましたよっ!!」短い両の前足で器用に毛並みを整えながらエゾが叫ぶように言う。あれ? エゾがこんな風に感情的になるのも珍しいなぁ。「や、ホント申し訳にゃあ。思い出すのに夢中でちょい気ぃ抜きすぎたわ」二人以外の気配もなかったけぇのー、と手を合わす。 #twnovel

2013-01-10 16:13:21
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

なんとまぁ……。気が抜けていると手を叩いただけであんなことになるのか、茜さんは……。「風呂とか浸かっとると立ち上がった水柱がよう天井で弾けたりするで」――もし茜さんと水場に入るようなことがあったら気を付けよう。水と一緒に吹き上げられるのはさすがに勘弁願いたい。 #twnovel

2013-01-11 18:00:13
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「それで何を思い出したんですか?」衝撃の余波で少し転がってしまった部品やスプレー缶を集めながら茜さんに問いかける。「あ、それな。そう言やぁ町の中見回ったり山の方も入ったりしてたん思いだしてな。妖物相手にしとった頃じゃけぇ、ちょうど高校生ん時だった思うんじゃけど」 #twnovel

2013-01-12 16:17:02
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

つまり茜さんは行動範囲広い、と。「――て、え? 妖物、ですか?」「うん。由良と一緒にな。町まで下りてくるんも時々おったし」「それはつまり、魔法少女として、ってことですよね?」「いや、アタシは魔法少女にはなっとらんし――ああ、でも由良は魔法少女じゃったなぁ」 #twnovel

2013-01-13 23:47:19
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

この際茜さんが魔法少女だったかどうかは置いておくとして、だ。「その町の中とか山の方の見回りって由良さんと一緒だったんですか?」「基本的には。場合によっちゃぁ別々んこともあったけど」成程。でも、だと言うことは結局――「参考にはならないんじゃないでしょうかマスター」 #twnovel

2013-01-14 21:49:18
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

一瞬の沈黙。「ぷっ」と堪え切れなかったらしく吹き出した茜さんはそのままお腹を抱えて笑い転げ出した。広い空間にはしばらく茜さんの笑い声だけが響き渡る。「はは、はー……ははっ、いや、そりゃまぁアタシじゃ参考にはならんじゃろうけど――」エゾっちちょっと素直過ぎるわー。 #twnovel

2013-01-15 22:51:57
佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

全くその通りだとボクは心中で同意する。正直なところ一瞬冷や汗も吹き出した。この使い魔には後でよくよく言って聞かせておかねばなるまい。そしてエゾの頭に手を伸ばした茜さん。きっと撫でているつもりなんだろうけれど、勢いが良すぎてもはや何かの刑か何かかと言った有り様だ。 #twnovel

2013-01-16 18:06:54
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