山本七平botまとめ/【傾斜生産の教訓】/エネルギー不足は「傾斜生産」の故知に習え/~イスラム伝統社会の破壊を防ぐ「省エネ」~

山本七平著『「常識」の研究』/傾斜生産の教訓/179頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【傾斜生産の教訓】80年代がいかにあるべきかという問題は、様々の面から既に論じつくされたように思われるが、ここでもう一度エネルギー問題を取り上げたい。 まず、日本が近代国家として発展していくに際して、終始一貫日本を苦しめ続けたのが「エネルギー不足」であった。<『「常識」の研究』

2012-12-19 00:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

②それは単に戦時中の「石油の一滴は血の一滴」の時代だけでなく、戦前においても戦争直後においても同じであった。 われわれは恐らく、世界で唯一の本炭自動車や薪自動車を造った民族なのである。

2012-12-19 01:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

③さらに戦争直後の傾斜生産の時代の記録を見ると、日本の復興においてエネルギーがどれだけ大きな陰路であったかがわかる。 傾斜生産といっても多くの人は既に忘れているであろうが、これは掘り出された石炭をすべて鉄鋼に投入し、それによって得た鋼材をすべて炭坑にまわすという方式である。

2012-12-19 01:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

④何しろ当時日本にあったエネルギー源は貧弱きわまる国内炭鉱だけであったが、鋼材の不足でその開発すら思うにまかせなかった。 無理もない。 鉄鋼の生産量はわずか55万トン、これは戦前(昭和9―11年)平均の実に十分の一である。

2012-12-19 02:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤掘り出された石炭は鉄鋼にまわし、出来た鉄鋼は炭坑にまわすという以外に方法がなかった。 だが考えようによってはこれは大変な政策である。 もしこれを完全に実施すれば、それが軌道に乗って石炭が増産されてくるまでは、国民は無エネルギー状態にならざるを得ないわけである。

2012-12-19 02:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥だがこの苦しい政策が、日本が壊滅から立ちあがる第一歩であったことは忘れるべきではないであろう。 そしてこの状態が一変したのが昭和31年で、この年から日本は、未だかつて経験したことがないようなエネルギー過剰時代に入る――といってもそれが本格化したのは35年ごろだが。

2012-12-19 03:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦だが、そのエネルギー過剰時代は、ある意味では終わりをつげたと思われる。 日本は再びエネルギー不足に悩む時代、ないしは絶えずエネルギーを気にしなければならぬ時代、簡単にいえば省エネ時代に入ったわけである。

2012-12-19 03:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧だがここでもう一度確認しておくべきことは、それが絶対に未曾有の体験でなく、もっとひどい破滅的な終戦直後をわれわれは傾斜生産で切り抜けてきたという歴史的体験をもっているということである。 だが体験は生かされなければ意味はないであろう。

2012-12-19 04:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨現在もしこの傾斜生産の故知にならうならば、われわれはあらゆる方法でエネルギーを節約し、その節約したエネルギーを新規エネルギーの開発と省エネルギー技術の開発に投入し、それによってさらに節約されたエネルギーを同様に再投入していくという方法で、この状態を切り抜けるべきであろう。

2012-12-19 04:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そして、それに成功してはじめて日本は、確固たるエネルギー的基礎の上に立った堅実な繁栄が保障されるはずである。 ではこのことが、産油国にとって不利になるであろうか。 決してそうではないのである。

2012-12-19 05:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪この際に考えるべきことは輸入先の実情である。 というのは日本の「津波のような輸出」はしばしば問題を生ずるが、同じような石油の大輸入が産油国に問題を生じてもまた当然なのである。

2012-12-19 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫日本のみならず先進国はこの点の認識が足りず、産油国の輸出増進はその国にプラスすると安直に信じ切っていた点に問題があろう。我々が一転してエネルギー過剰時代に入った事は、中束の産油国が、産油国と呼ばれる以前の慢性的な外貨不足状態から一挙に外貨過剰状態に入ったという事である。

2012-12-19 06:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬日本もエネルギー過剰14年間の経済成長時代には社会に様々の問題を生じたが、それはエネルギ―不足時代の再来と共に、ほぼ自動的に消失している。だが産油国における問題の発生は日本の比ではなく、それは伝統的な社会構造の崩壊をもたらすような一種の「革命」であった事は否定できないのである。

2012-12-19 06:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭伝統的社会においては、その国の社会構造とそこに住む人びとの精神構造は密着不離の状態にあり、従って社会構造の急激な変化や崩壊に人びとが精神的に対応できないという状態を惹起する。

2012-12-19 07:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮これは日本のように変化に対して柔軟に対応できる柔構造の国や、自ら変革を求めるアメリカのような国とは、その基準が全く違うということなのである。

2012-12-19 07:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯イランの状態を不思議とか不気味とかいい、ホメイニ師を気違い扱いにする人もいるが、私の知るイスラム教徒は十人が十人、「近代化」という言葉に対して「コーランに全てが記されているのだから、我々には近代化など必要ではない」と即座に応える。 心に留めておくべきことであろう。

2012-12-19 08:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰革命とか改革とか進歩・解放とかいう無邪気な信仰は、少なくとも中東を見る場合には棄てるべきである。

2012-12-19 08:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱いわば、輸出において「秩序ある輸出」が要請されるように、中東からの石油輸入はその国の社会構造を崩壊させるような結果にならない「秩序ある輸入」が要請されるのである。 それは中東の平和、ひいては世界の平和の基である。

2012-12-19 09:27:58