PSYCHO-PASS×伊藤計劃「ハーモニー」2次創作「常守朱と御冷ミァハが出会ってしまったら」

タイトル通り。PSYCHO-PASS世界で、新米監視官常守朱とベテラン執行官にして「名前のない怪物」御冷ミァハがコンビを組んだらという合体事故の一端。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

それが私たちの……「猟犬」の仕事であり、ひいては彼女が憎悪してやまなかった世界の正しさを、証明するためであると信じて。

2013-01-05 06:28:39
現場猫教授 @Dr_crowfake

しかしまあ「この世の終わりに、たったひとり世界に立つこと」をヴィジョンとして思い描いてるヨハン・リーベルトの絶望に比べれば、御冷ミァハの絶望なんてたかが知れたもので、結局意思と手段の積算でしか人間は物事を成し得ないんだなって思わざるをえない。

2013-01-05 08:45:31
現場猫教授 @Dr_crowfake

俺の中のPSYCO-PASS×ハーモニー2次創作、チェチェンの地獄で自我に目覚め「赤いバラの屋敷」とキンダーハイム511で陶冶された狂気を抱きつつ日本に流れてきた御冷ミァハが「この世の終わりに、たったひとり世界に立つこと」を目的にテロるのを常守朱が止める展開になっており大変愉快。

2013-01-05 08:58:53
現場猫教授 @Dr_crowfake

「さあ、ここだよ、ここ」ミァハは常守に眉間を指さしていった。「あたしの中の地獄、いま世界に起こってる地獄を止めるには、ここを撃つしかないんだよ」「どういうことなの……」「人間の報酬系に関与し、地獄を生み出してるスイッチの中枢は、あたしの頭の中にあるんだ」ミァハは笑う。

2013-01-05 09:04:04
現場猫教授 @Dr_crowfake

「彼らの報酬系のスイッチは、あたしど強制的に同調させられてる。あたしが見てた地獄を、みんなが見てる。その結果がこの有様だよ。人間なんて、安いものだね。あたしが見てきた程度の地獄で、互いに殺し合うなんて」ミァハはクスクス笑い、タップを踏んだ。

2013-01-05 09:05:29
現場猫教授 @Dr_crowfake

「じゃあどうしてあたしたち監視官はそのスイッチを入れられてないの……」ミァハはタップを踏み終えると、真面目くさって云う。「それは、老人たちが混乱を制御するため。危機と狂気があるからこそ、シビュラの目は有効なんだって示すため。あたしも常守さんも、それに踊らされてたんだよ」

2013-01-05 09:07:50
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だったら! なぜそこまでわかってるなら、それを止めなかったの!」常守の問いに、ミァハは笑った。「ほら。「わかってほしい」「愛されたい」「ありのままの自分を晒したい」そういう恥知らずな欲望ってあるでしょ。それに、一時でも浸りたかっただけ」「そんな……」常守は絶句する。

2013-01-05 09:09:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「「老人たち」のお陰で、あたしは世界のすべての人々に、そんなプライベートな欲求を共有させることができたよ。でもそれがこの有様。あたしの見たものを見ただけで、殺しあう有様。人間って、あらかじめ地獄に落ちるように設計されてたんだね」ミァハは再びクスクス笑い。

2013-01-05 09:12:28
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だからさ。心底下らないと思ったわけ。この世界も、人間も、それによっかかってる自分自身も」そうつぶやく姿は恐ろしく孤独で「だからさあ。終わりにしたいなら、終わらしてくれない?」そのように常守に訴えかける姿は、まるで助けを呼ぶようだった。

2013-01-05 09:14:50
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしの脳に入ってる、報酬系のスイッチを切れば、この混乱は収まる。みんな、あたしの見た地獄から解放されて、普通の状態に戻る。世界中で起きてる今の地獄めいた混乱って、結局あたしの脳の報酬系の作用を上書きされたからにすぎないんだよ」ミァハは再び、今度は寂しそうに笑う。

2013-01-05 09:17:01
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だからさ。常守さん。終わらせて。世界は地獄だけじゃないんだって証明して。あたしの報酬系を上書きされた程度で混乱するような、そんな世界、あたしはいらない。あたしの思うがままに殺しあう世界なんて、安っぽすぎて手に入れるまでもない。そんな世界なんて、あたしは必要ない」

2013-01-05 09:19:33
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしが望んでたのは……人間が、最も気高い動機に基づいて殺し合いをして、その結果最後のひとりまで死に絶えた後に、その光景を見てゲラゲラ笑うことだったの。この程度の地獄じゃ全然足らない。ヘル・イズ・ノット・イナフよ。どこかのスパイさん風に云うならね」

2013-01-05 09:21:04
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だからさあ」ミァハは三度云う。「この下らない地獄を、消してくれない? あたしの脳ミソごと、TVのスイッチを消すようにさ」そして念を押す。「これは、常守さんだから頼めることなんだよ。あなたになら、あたし、この下らない地獄を消す価値があると思えたから、ここにいるんだよ」

2013-01-05 09:23:14
現場猫教授 @Dr_crowfake

「……」常守は押し黙り、やがてドミネーターをミァハに向けた。「犯罪指数閾値オーバー、デストロイモードです」ドミネーターはそう告げる。「ごめんなさい」引鉄を引く時、常守の口から出たのは意外な言葉だった。「ごめんなさい。世界はこんな安っぽい物じゃないって、見せてあげたかったのに」

2013-01-05 09:26:54
現場猫教授 @Dr_crowfake

「その言葉で十分だよ、常守朱さん。さよなら」その言葉を最後に、ミァハは分子分解された。紅いきりになった彼女を見つめながら、常守朱は涙を流していた。「教えてあげたかった……世界はこんな事ばかりじゃないって、一杯いいこともあるんだって……できなかった、できなかったよ……」

2013-01-05 09:29:06
現場猫教授 @Dr_crowfake

御冷ミァハの脳内報酬系とリンクされていたシビュラシステム管理下の市民は、ミァハの死とともに「正気」を取り戻した。それは自らの脳が他者から管理されるということの解放であったが、同時にシステムへの文脈的隷従への復帰でもあった。

2013-01-05 09:31:22
現場猫教授 @Dr_crowfake

シビュラシステムは御冷ミァハの叛乱を通じ、自らをより強く堅固なものとするためのノウハウを確立した。それはシステムの創設者にしてその頂点に立つ「老人たち」の支配と「安全という快楽」のさらなる強化でもあった。

2013-01-05 09:32:57
現場猫教授 @Dr_crowfake

そして常守朱は、今もなお監視官を務めている。重セラピーを必要とすると診断されるほどの精神的衝撃を受けながらも、彼女は立ち直り、そして「猟犬」の良き「飼い主」であろうとしている。それは彼女なりの、ミァハへの償いだった。世界はこんな事ばかりじゃないと、証明するためのものだった。

2013-01-05 09:34:48
現場猫教授 @Dr_crowfake

そして常守は目前に新任執行官を迎えている。自殺未遂及び自殺教唆、大量殺人計画……御冷ミァハと類似する経歴を持つ彼女に、常守は優しく微笑んだ。「これからよろしくね」少女は疑い深げに常守を見た。

2013-01-05 09:38:03
現場猫教授 @Dr_crowfake

しかし常守はその目を見据えて云う。「世界は、あなたが思ってるよりずっと優しいし面白いよ。だから、一緒に楽しみましょう。楽しめなかった人の分もあわせて」その視線は真剣であり、揺るぎないものだった。それを証明することこそ、彼女が自らに課した贖罪と義務であったからだ。

2013-01-05 09:39:43