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友野詳氏の「シャハルサーガ 第1部」 ストーリー版

友野詳(@gmtomono)氏によるルナル世界を舞台にした新作Twitterノベル「シャハルサーガ」のまとめです。 こちらは「採用された物語」だけを纏めて、ストーリーを追いやすくする事を目的としたリストです。 「採用されなかった選択肢」なども含めて全てを読まれたい方は、 http://togetter.com/li/435051 をご覧下さい。 第2部 全部入り:http://togetter.com/li/460078 続きを読む
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友野詳 @gmtomono

流砂船は、間近の浮上点から、地表へ出た。多くの客が重傷を負っていたが、死に至った者はなかった。「死ななかったのは……あいつが……瀕死の人に魔の因子を埋めこんで、仲間を作ろうとしたから。……いままでは殺していた。私がいるから……増やす気になった」 #シャハルサーガ (65)

2013-01-27 22:06:15
友野詳 @gmtomono

地表。流砂船を離れ、青い砂丘の上で、ユーディアは語っている。〈悪魔〉に命令した時と同じように、彼女の黄金色の瞳は、内側から強い光を放っていた。この美しい少女が、邪悪の使徒だというのか。状況が飲みこめない。「私は……作られた。……人間と……〈悪魔〉から」 #シャハルサーガ (66)

2013-01-27 22:06:41
友野詳 @gmtomono

「わかった? ……アリクに守ってもらう資格、ない。騙して、ごめんなさい」。ユーディアは、ゆっくりとアリクから離れてゆく。砂漠の向こうから騎兵団の砂煙が近づくのが見えた。「アリクと出会って……生きるって意味……理解できた。もう充分。……アリクは助かって」 #シャハルサーガ (67)

2013-01-27 22:07:38
友野詳 @gmtomono

彼女が〈悪魔〉だという告白を、どう受け止めればいいのか。永遠のような、この一日が脳裏で渦巻く。混乱したまま、アリクはユーディアをまっすぐに見つめ、手をさしのべた。だが、ユーディアは首をふるばかりだ。「アリク。……最後のお願い。……港へ行って」 #シャハルサーガ (68)

2013-01-27 22:07:48
友野詳 @gmtomono

「港へ。……おばさまが来るから。……何があったか伝えて。……そうすると約束して」「ユーディア! オレは……!」。アリクは言葉をつまらせた。おのが願いが何かを見失った一瞬、胸から奇妙な痺れが広がった。どこか蠱惑的なそれに飲まれ、アリクは意識を失った。 #シャハルサーガ (69)

2013-01-27 22:08:00
友野詳 @gmtomono

#SSG選択 意識を失ったのは、一瞬だった。ユーディアを守りきるのが、おのれの決意だ。痺れを受け入れ、解放する。「だめ! アリク! いけない!」。叫ぶユーディアを捕まえたアリクの手は、鉤爪をそなえ、獣毛に覆われていた。 #シャハルサーガ (70‐C)

2013-01-27 22:09:39

第10夜

友野詳 @gmtomono

異様な波動が全身に広がる。血の色をした怒りと、闇色の憎しみが、アリクを呑みこんでゆく。視野が極端に狭まっていった。敵、敵、敵。自分の決断を阻むものは、全て敵だ。変異する主人の姿に、アリクのマガナックが、羽をこすりあわせて音を立てた。嘆いているのだ。 #シャハルサーガ (71)

2013-02-03 22:59:20
友野詳 @gmtomono

「……お願い……戻って! 作られたものなのに……自由を求めたわたしが間違っていた……」。少女の声は、アリクの耳からはなれてゆく。耳は、どんどん高い位置になっていく。アリクの体格は倍ほどに膨れあがり、鎧のような獣毛に覆われ、剣のような鉤爪を備えた。 #シャハルサーガ (72)

2013-02-03 23:00:31
友野詳 @gmtomono

「……お願いよ……アリク」。少女が泣いている。彼女を泣かせたのは誰だ! アリクは激情に呑まれていった。ユーディアの向こうに騎兵たちが見えた。……ヤツらだ。ヤツらが泣かせた。泣かせた? 誰を? 何か小さなものが、自分にしがみついている。なんだ、これは? #シャハルサーガ (73)

2013-02-03 23:01:35
友野詳 @gmtomono

#SSG選択 しがみついている……小さなもの? そうだ。小さい。弱い。彼女を護る。そうしようと決めた。思い出す。血の色と闇が、心臓の奥へ押し戻されてゆく。しっかり抱き合い、立ち尽くすアリクとユーディアの周囲を、追っ手の騎兵たちが厳重に取り囲んだ。 #シャハルサーガ (74‐B)

2013-02-03 23:02:16

第11夜

友野詳 @gmtomono

青い砂漠を、ラクダの騎兵隊が行く。目指すのはカヤ=ランの砦。海のごとき青き砂漠に、島のごとく浮かぶ城。砦とは名ばかり。実は、帝国に反逆した重罪人が送られる牢獄である。見た目は海原に似ても砂漠は砂漠。無数の罪人の心を砕いた渇きの獄がカヤ=ラン砦だ。 #シャハルサーガ (75)

2013-02-08 23:08:54
友野詳 @gmtomono

そこを目指す騎兵隊は、円陣を組んでいる。外への守りではなく、内を封じる陣形である。中央は、三頭のラクダに引かれる砂ゾリ。包囲する双月教徒の騎兵たちは、その半数が、弩の狙いを、ピタリと砂ゾリに定めている。砂の細かい、この砂漠では、砂ゾリは多用される。 #シャハルサーガ (76)

2013-02-08 23:09:14
友野詳 @gmtomono

いま砂ゾリに載せられているのは重量物ではない。華奢な少女と痩身の少年、アリクとユーディアだ。一人用の寝台ほどの大きさだ。ふたりは、きつく抱き合った姿勢でまとめて縛りあげられている。帆布でくるまれ、太い鎖を幾重にも巻きつけられていた。身動きもとれない。 #シャハルサーガ (77)

2013-02-08 23:10:10
友野詳 @gmtomono

だが、それを非人道的な仕打ちとはいえない。まわりを囲む騎兵たちにしてみれば、この二人は、邪悪な歪みの月の使徒にすぎない。いつ、おぞましい怪物に変異して、襲いかかってくるかもしれないのだ。問答無用で殺されなかったこと、むしろ温情と喜ぶべきだろう。 #シャハルサーガ (78)

2013-02-08 23:10:41
友野詳 @gmtomono

分厚い布に隠されて、騎兵たちにはうかがい知れぬことではあるが、アリクとユーディアの顔に、邪悪の気配はない。恐怖もなければ、憎悪も怒りもない。互いの鼓動を、その耳にとらえて、ふしぎと安らいだ表情でいた。いや、ユーディアは、時に罪悪感を浮かべるのだけれど。 #シャハルサーガ (79)

2013-02-08 23:11:15
友野詳 @gmtomono

「私を救おうとして……あなたは胸を射抜かれた……だから」。ユーディアは、無我夢中で、手にしていた魔法の品を、アリクの傷口に押し当てた。自分が持っていたそれが、どういう由来のものか、ユーディアは知らなかった。ただそれが〈心臓〉と呼ばれるとの知識はあった。 #シャハルサーガ (80)

2013-02-08 23:11:44
友野詳 @gmtomono

〈心臓〉はアリクの胸に沈み、そして彼を蘇らせた。恐るべき魔獣として。魔獣は、追っ手を皆殺しにし、ユーディアを抱えて逃げた。(……オレはもう罪人だった……っていうことだな)と、アリクは思い、その言葉を、おのが腹のいちばん底へ沈めた。罪は、自分だけで負う。 #シャハルサーガ (81)

2013-02-08 23:12:04
友野詳 @gmtomono

ふたりは、無言でいだきあい続けた。その肉体に流れる血が、相互に通いあうのではないというほどに強く。決して引き離されまいと。この先、自分たちはどうなるのだろうと、考えはしなかった。無駄だからだ。アリクは、この世の闇月というカヤ=ラン砦の評判を聞いている。 #シャハルサーガ (82)

2013-02-08 23:12:26
友野詳 @gmtomono

帆布に遮られ、アリクたちにはわからなかったが、既にカヤ=ランの砦は間近だった。だが、それが見えると同時に、天に暗雲が広がった。ごくまれな天候が、いまこのような瞬間に訪れたのは、単なる偶然なのか? それとも、いずれかの月が大地に干渉したのだろうか? #シャハルサーガ (83)

2013-02-08 23:12:57
友野詳 @gmtomono

「あれは……?」「まさか、喰らい雲か!」「どうしてこんな時に」。騎兵たちが、あせって言葉をかわす。空のなかばを埋める暗雲。それが、数年に一度、飛翔する虫に変じて、海から海へと南北をわたる海棲甲殻類だと、この地に住むもの以外が信じられるものだろうか。 #シャハルサーガ (84)

2013-02-08 23:13:23
友野詳 @gmtomono

飛翔の力を得るため、途上で出くわすすべての生き物を喰らいつくす災厄の雲。騎兵たちの言葉が耳に届いて、砂漠に生きるアリクは、恐怖に身をこわばらせた。それを感じて、ユーディアは、けげんな表情になる。彼女は、砂漠について知識を持たないからだ。 #シャハルサーガ (85)

2013-02-08 23:13:51
友野詳 @gmtomono

ふたりで、空飛ぶ人食いエビの餌食になるのが運命か……とアリクが覚悟を決めた、その時だった。いきなり砂ゾリが止まった。重いソリをひきずるより、身軽になって逃げることを騎兵たちが選んだのだ。アリクとユーディアは、暗雲によって食われるだろうと決め込んで。 #シャハルサーガ (86)

2013-02-08 23:14:13
友野詳 @gmtomono

ほんの数瞬の後、すさまじい羽音が、二人を包みこんだ。がりがりと、小さな牙が帆布もソリも喰らってゆく。驚くべきことに、鎖もかじりちぎられた。だが、奇妙なことに、エビたちは、恐る恐るとしか、かじりついてこない。不思議なことだが、希望が湧いてきた! #シャハルサーガ (87)

2013-02-08 23:14:44
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