北海上の不思議架空国家ビーバーランドの沿革について

北海上に独立国家を設定すればどうなるかという思考実験的な何か。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

ビーバーランドは北海中央部にある大きめの島ビーバー島に存在する独立国家である。現在はEU及びNATOに所属しているが、その歴史は苦難の歴史であった。ビーバー島は優れた漁場であるため、周辺諸民族の侵略を度々受け、そのたびに屈せざるを得なかったのである。

2013-01-15 14:45:06
現場猫教授 @Dr_crowfake

デンマーク人やノルウェー人のブリテン島侵略の拠点として、時代が下ると英蘭の海上覇権の要地として、そして七年戦争からナポレオン戦争に至る時代においては英国の欧州への影響力展開のための拠点として散々に他国に踏みにじられた。さしもの温厚なビーバーランド人も、いいかげんにしろと怒った。

2013-01-15 14:48:34
現場猫教授 @Dr_crowfake

「千年、我が民族はひたすらに他国に踏みにじられるだけの存在であった。だが、そのようなことが許されるのだろうか。我々ビーバーは、ビーバーの国家を持たなければならない。さもなくば、大国に自由も権利も踏みにじられたままになるだろう」ビーバーランド建国の父の言葉である。

2013-01-15 14:51:09
現場猫教授 @Dr_crowfake

ナポレオン戦争時に英国の保護下に入っていたビーバーランドは建国の父たちのもと、完全な独立と中立化を目指して独立闘争に邁進した。その手段は無抵抗不服従である。無論、戦略上の要地であるビーバーランドは英国にとって必要であり、運動は弾圧を受けた。しかし彼らは耐え抜き、独立を手に入れた。

2013-01-15 14:53:39
現場猫教授 @Dr_crowfake

というのも、ビーバーランドは鱈の豊富な漁場であり、そこでの全面的サボタージュが起これば、英国に食糧難が発生するのは明白であったからである。また、欧州がナポレオン戦争で疲弊していたこと、英国の覇権をよしとしない墺露などの大国を始めとする周辺諸国が圧力をかけたことも影響していた。

2013-01-15 14:55:42
現場猫教授 @Dr_crowfake

結果、ビーバーランドは英国の経済的保護国としてではあるが、独立を勝ち取ることができた。ビーバーたちは喜んだ。苦節千年、ようやく民族国家を手に入れたのである。しかし公用語は英国であり、経済的にも英国に大きく手綱を握られた状態であった。ここからビーバーたちの外交的苦闘が始まる。

2013-01-15 14:57:22
現場猫教授 @Dr_crowfake

おりしもウィーン体制崩壊後、欧州では緊張が高まりつつあった。ビーバーランドの財布を握っている英国は、会議外交でそれをコントロールしようとしていたが、結果的にそれは破綻し、統一ドイツの誕生を許してしまう。そして新興国であるドイツもまた、ビーバーランドに野心をむき出しにしていた。

2013-01-15 14:59:27
現場猫教授 @Dr_crowfake

ビスマルク退場後、ウィルヘルム2世はビーバーランドに「攻守同盟を結ばないか」という提案をしてきた。英国海軍に対する格好の前線基地を手に入れるためである。一方英国もビーバーランドへの軍駐留権を要求してきた。国論は分裂したが、とにかくどの大国にも付きたくないという意見が大勢を占めた。

2013-01-15 15:01:41
現場猫教授 @Dr_crowfake

ビーバーランドは「北海は平和の海であるべきだと思いませんか?」と、英独両国に互いのビーバーランドに対する提案をリークしながら「君たちがもし戦争になっても自分は中立を守るからかんべんしてくれ」と必死の融和外交を行った。その結果、かろうじて中立は保たれたが、自主国防の必要が増した。

2013-01-15 15:03:32
現場猫教授 @Dr_crowfake

とはいえ、現在でも人口1千万にも足りぬビーバーランドである。英独のようなスーパーパワーが本気になれば、あっという間に踏みにじられるのは自明の理だった。そこでビーバーランドは似たような情勢にあるスウェーデンやオランダなどと非同盟中小国間での関係を強化し、独自防衛力の構築を模索した。

2013-01-15 15:05:46
現場猫教授 @Dr_crowfake

むろん最悪全土占領、「不服従戦略」による抵抗は目算に入れていたものの、ある程度の防衛力を持つことはビーバーランドにとって極めて重要な課題として浮上したのだ。

2013-01-15 15:07:01
現場猫教授 @Dr_crowfake

ビーバーランドが重視したのは海軍、そして飛行機の発明後は空軍だった。沿岸防衛に足りる海軍の構築はビーバーランド住民にとってはひどい負担だったが、国民は「もう誰にも土下座したくない」という一心でこれを整備した。結果、WW1には海防戦艦4隻を始めとする国力不相応の海軍が成立する。

2013-01-15 15:10:55
現場猫教授 @Dr_crowfake

これらの建造は主に英独両国によって行われた。英独両国は目障りな海域に中立国がそれなりの軍備を持つことに苛立っていたが、いざとなればこちら側に付けさせることができるのではないかという期待を込めて彼らに軍事援助を行ったわけだ。

2013-01-15 15:12:27
現場猫教授 @Dr_crowfake

幸い、食料自給率はそれなりに高かったので、沿岸海軍が周囲の制海権を喪失しても、本土侵攻さえされなければなんとかなる目算はあった。しかし、海防戦艦4隻程度の防御力で英独両海軍相手に勝てるなどというおめでたい発想は彼らにはなかった。攻めると嫌な損害が出るぞと牽制する程度である。

2013-01-15 15:15:46
現場猫教授 @Dr_crowfake

ビーバーランドは第1次世界大戦において、否応もなく「親協商中立国」の立場を取らされた。グランドフリートに周りを囲まれており、通商線が遮断されれば亡国の国難にさらされることもさることながら、ドイツの野蛮極まりない中小国侵略を目の当たりにしたからである。

2013-01-15 15:21:43
現場猫教授 @Dr_crowfake

ビーバーランドは自主的に北海での海軍行動能力上昇に力を入れた。そこで着目されたのが航空機である。黎明期の航空機は大戦により一気に進歩し、艦隊の目になるのみならず、末期には対艦攻撃能力まで手に入れたのだ。ビーバーランドはこの新兵器に魅了され、恐怖した。

2013-01-15 15:24:20
現場猫教授 @Dr_crowfake

「英独両国がこの新兵器をビーバーランドに向けてきたら、今の装備ではどうにもならない!」ビーバーランドの観戦武官が1918年に送ってきた「カイザー攻勢」と「最終攻勢」のリポートを読んで、ビーバーランド軍首脳は航空兵装及び運用の大幅な改善を目指すことになる。

2013-01-15 15:26:16
現場猫教授 @Dr_crowfake

大戦後、ビーバーランドでは海軍増強と航空機の戦力化が急速に進められた。ともに、英国から離れ、新興の産業大国として存在感を増していた米国からの技術移転や輸入を経てである。その結果、彼らの装備体系はその後の米軍の影響を受けつつも独自の方向性を持つものになっていく。

2013-01-15 15:31:49
現場猫教授 @Dr_crowfake

また、ビーバーランドでは1920年代に油田が発見され、外貨獲得とそれによる産業近代化が進んだ。しかしそれはビーバーランドが列強にとって価値ある餌であることを強調した。それゆえ、彼らは当時最も強大な隣国であった英国と融和しつつ、仏独の後ろ盾を得て牽制外交を行うこととなる。

2013-01-15 15:35:15
現場猫教授 @Dr_crowfake

1929年の世界大恐慌はビーバーランドへの投資をも停滞させ、ビーバーランドは事実上スターリング・ブロックへの加入を余儀なくされたが、それでもなお英国の属国となるのではなく独自の産業資本蓄積と国防力強化に力を入れた。時に大戦前夜、ナチスの台頭下、国民を守る軍備が必要だったからだ。

2013-01-15 15:38:00
現場猫教授 @Dr_crowfake

しかし彼らは大国のお先棒を担ぐつもりなど当然なかった。実質的に英国の影響圏下にあるとはいえ、英国のいいなりになってANZACのような目に合うのは御免こうむる、かといってベルギーのように踏みにじられるのもたまったものではない。これは建国以来の信念であった。

2013-01-15 15:39:41
現場猫教授 @Dr_crowfake

また、彼らを影響圏下に置いている英国の優柔不断な態度も、ビーバーランド人の英国への不信を駆り立てるに相応のものだった。「彼らはチェコを見放したではないか! ビーバーランドを見放すなど訳もない!」今から考えると理不尽な発想だったが、それだけの不信感をビーバーランド人は抱いていた。

2013-01-15 15:41:44
現場猫教授 @Dr_crowfake

このような政治・経済的背景をもとに、1935年には各種航空企業を合体させたビーバーランド国営航空機会社(NACBL)が誕生し、1937年には防空戦闘機を大量生産する「スキームB」計画が発動する。軍靴の足音は怯えやすいビーバーランド人をしていち早く軍拡に走らせたのだ。

2013-01-15 15:44:40
現場猫教授 @Dr_crowfake

また、ビーバーランド海軍工廠も大幅拡張され、沿岸防備・対潜艦艇の生産を拡充するとともに、ドイツのポケット戦艦対策として、アメリカに30cm砲搭載高速大型巡洋艦の発注を行うこととなる。そして陸軍もまた、国民総蜂起による民間防衛ドクトリンに加え、先端装備である戦車の開発に乗り出した。

2013-01-15 15:47:58
現場猫教授 @Dr_crowfake

この結果、ビーバーランドは第2次大戦前夜に、カーチスP-35、ボールトンポールデファイアントなど(主に輸入・ライセンス生産品)で武装した百機の防空軍と、1隻の30cm砲搭載大型巡洋艦、4隻の前弩級海防戦艦を中心とする海軍、そして10万の陸軍を持つハリネズミ国家に成長した。

2013-01-15 15:53:37