北海上の不思議架空国家ビーバーランドの沿革について

北海上に独立国家を設定すればどうなるかという思考実験的な何か。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

しかしその装備を持ってなお、ビーバーランドは不安を隠しきれなかった。英独戦争の要地たるビーバーランドがいずれかの手によって先制攻撃されるのではないかと常に恐れていた。そのため、彼らは自国が局外中立であることを喧伝し、より一層武装を固めることとした。特に空軍分野でそれは顕著だった。

2013-01-15 15:56:04
現場猫教授 @Dr_crowfake

NACBLはビーバーランド政府が1939年に発令した「スキームL」計画に従い、旧来の装備を一新する自国産独自兵器の開発に着手した。密かに産業スパイが盗んできたネイピア・セイバーエンジンの設計図を下にして作られた2000HP級エンジンを搭載した迎撃戦闘機と雷撃機の開発である。

2013-01-15 15:58:31
現場猫教授 @Dr_crowfake

ただ、セイバーエンジンはビーバーランドの技術・工業水準的にはアレではないかという慎重意見も出たので、同じく産業スパイが盗んできたロールスロイス・マーリンエンジンを搭載した軽迎撃戦闘機も同時に開発された。他にも作りたいものはいっぱいあったが、NACBLの能力ではそれが限界だった。

2013-01-15 16:02:03
現場猫教授 @Dr_crowfake

案の定、セイバーエンジンのコピー版は初期不良を起こしまくり、開発が難航した。しかしマーリンエンジン搭載型の軽迎撃戦闘機は、順調に開発が進み、かなり優秀な性能を示した。しかしこの際かなりスピットファイアの設計を参考にしたため、後日スーパーマリン社から訴訟を起こされている。

2013-01-15 16:06:42
現場猫教授 @Dr_crowfake

また、セイバー、マーリン両エンジンについても、ネイピアを買収したイングリッシュ・エレクトロニクス及びロールスロイス両者にライセンス料を払うことになってしまった。

2013-01-15 16:07:43
現場猫教授 @Dr_crowfake

とまれ、スキームL計画によりビーバーランド空軍はその装備を一新し、ヴェーゼル演習直前にはスピットファイアとも互角に戦える優秀戦闘機を一握りながら備えた新鋭空軍に生まれ変わりつつあった。また、海軍もしきりに周辺海域での警戒を行い、ビーバーランドの武装中立をアピールした。

2013-01-15 16:13:15
現場猫教授 @Dr_crowfake

このような国を、ノルウェーのようにやすやすと侵略できはしない。ビーヴァーランド外交官の必死の活動もあって、彼らはなんとか大戦の前半をやり過ごすことに成功した。しかし目の前でノルウェーとオランダがやられたのを見ていては、安穏としているわけにはいかない。より強い自衛力が必要だった。

2013-01-15 16:15:08
現場猫教授 @Dr_crowfake

そこでビーヴァーランド空軍はセイバー搭載型戦闘機の開発を進めるとともに、同じような苦境に立たされていたスウェーデンと交流を深め、ライセンスや生産管理などの技術共有化を図った。その結果、スウェーデンが進めていたJ21開発計画からヒントを得た推進式戦闘機の開発に着手することとなる。

2013-01-15 16:26:04
現場猫教授 @Dr_crowfake

ようやく問題を解決したセイバーエンジンを推進式に搭載したこの機体は、サーブJ21を超える時速700km超を発揮できる上にボフォース20mm砲を2門搭載できる重戦であり、あらゆる爆撃機に対して圧倒的な能力を誇り防空の要とされた。また、搭載重量も大きく、戦闘爆撃機としても期待された。

2013-01-15 16:29:32
現場猫教授 @Dr_crowfake

そしてセイバー実用化に成功したビーバーランドは、ようやく敵潜水艦駆逐のための対艦攻撃機の開発にもめどをつけたのである。1940年から延々続いていたセイバーエンジン双発の長距離対艦攻撃機は、43年に初飛行、44年に実戦配備された。しかしその頃には、すでに戦争は終わろうとしていた。

2013-01-15 16:34:07
現場猫教授 @Dr_crowfake

この間、ビーバーランドに対する英国の圧力は凄まじいものがあった。ドイツ艦隊の主要な出撃口である北海を扼しながら、なぜこちら側にたって参戦しないのかと。しかしビーバーランドはその要求を頑としてはねつけ続けた。国家総力戦に巻き込まれるくらいなら総力で抗うという矛盾を乗りこなしたのだ。

2013-01-15 16:38:38
現場猫教授 @Dr_crowfake

とはいえ、その代償は大きかった。空軍は領空侵犯機を容赦なく迎撃し、ビーバーランド船籍の船を沈めるUボートを攻撃し、海軍はアメリカ製大型巡洋艦のみならず近代化されポケット戦艦化した4隻の海防戦艦まで繰り出して領海を守り続けた。

2013-01-15 16:43:14
現場猫教授 @Dr_crowfake

しかし、犠牲者も出たこの「宣戦布告なき戦争」は、連合国には評価されなかった。むしろ利敵国家として白い目で見られ、長らく悪感情を抱かれ続けたのだ。しかしビーバーランド人は、自らの独立を守り少ない犠牲で済んだことを喜んでいた。周囲の悪感情など、独立護持のためなら仕方ないと感じていた。

2013-01-15 16:46:16
現場猫教授 @Dr_crowfake

大戦中、ビーバーランドは独立と中立を守りつつ、軍需景気による経済成長を遂げてみせた。特に軍需産業部門・重工業部門での発達がめざましく、大戦後は独自の兵器産業能力を完全に獲得するに至るとともに、戦略資源輸出で荒稼ぎした。しかしそれによる産業構造変化が、中立政策放棄へとつながった。

2013-01-15 16:50:17
現場猫教授 @Dr_crowfake

冷戦構造の完成による米英影響力の増大、国内産業の工業化に伴う食料自給率の低下と、それによるアメリカへの食料依存、そして国際金融の発達による産業のグローバル化が、彼らの中立政策を根本から揺るがし、最終的にEU加盟に至らしめたのだ。

2013-01-15 16:54:39
現場猫教授 @Dr_crowfake

しかしビーバーランドは現在でも存続している。そしてビーバーランド人は概ね幸せそうにしている。リーマンショック以降の金融危機にあたっても「金は巣に貯めこむもの」と高い貯蓄率を誇り堅実な投資しかしなかったビーバーランド人及び金融界は、比較的恐慌にも強い体質を持っていたのだ。

2013-01-15 16:57:42
現場猫教授 @Dr_crowfake

「統一欧州の下のビーバーランドをどう思いますか?」とビーバーランド人に聞くと、大抵こういう答えが返ってくる。「ビーバーランドはビーバーランドさ」と。統一欧州でも不羈独立の心を忘れず、いかなる時にも郷土愛を忘れず、それを守るためならなんでもやるのが、彼らビーバーランド人である。

2013-01-15 17:00:29