第四話「護るべき笑顔は～ノー・ティアー！ノー・アゲイン！」#4 「パーシュード・フライト」

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2013年4月15(月)9:38。成田空港第2ターミナル前、タクシー乗車場。3人の男が乗車待ちの列に並んでいた。 1

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彼等こそは魔術師組織ＵＡＲが派遣した先遣隊である。彼等の使命は、先日、茨城で消息を絶った６人の仲間の調査と、次なる儀式の為の下準備である。実際に儀式を実行するのは後から来る１５人の仲間で、儀式の場所もほぼ決まっている。彼等の主目的は捜索の方だ。 2

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「しかし、ワイドリバー達は…本当に裏切ったのだろうか」男の一人が呟く。「裏切りか…」「考え難いことだが…だが極東の良く分からない野良魔術師にやられる、というのも考え難いな」二人の師に当たる三人目が答えた。「奴は優秀だ。そもそも儀式自体は成功しているのが解せない…」 3

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「可能性はいくつかある。まずは彼等が裏切っていた場合。儀式が成功している以上、妨害目当てではまずあり得ない…あるとすれば儀式の私物化だが、たった６人で如何にか出来る訳も無い」「つまり、協力者がいると？」「まだ何とも言えん…そこで残る可能性は大きく分けて２つ、だ」 4

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「まず、野良魔術師にやられた場合だが…この可能性は低い。管理者に気付かれずに彼等を倒すには、目立たない少人数のみで一瞬でやらねばならない。だが６人同時にしろ各個撃破にしろ有り得ないことだ。まして単騎で彼等を倒すなどＳランク越えでなければ出来まい」 5

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ワイドリバ－とクライムストーンは実力者として知られていた。この二人を含む六名がまさかＳ未満の一人に一方的に殺されたなど、三人とも思いもしなかった。「それ程の実力者がそう都合よく辺境にいる可能性は低い…」…そう都合よく辺境にいたなど知る由も無かった。 6

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「まさか…セフィロトに嗅ぎつけられたのでは？」「馬鹿な…だとしたら本部に査察の一つも入るだろう？」部下二人の憶測はある意味正しい。魔術師の国連、セフィロトは魔術の乱用の疑惑に対し査察を行う。ＵＡＲの行為は充分査察の対象である。彼等にとっては不本意ながら、その自覚はあった。 7

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だからこそ地元組織に隠れて儀式を行っていたのだ。「そして残る可能性だが…地元の管理者が何かをした可能性だ」「つまり、管理者の言う『ワイドリバー達が予定を早めて立った』という報告が嘘だと？」「ああ、その可能性が高いだろう」ここでタクシーが来た。三人は乗り込む。 8

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会話に夢中になっていなければ、彼等は気付けただろうか。そのタクシーが客待ちの順番に割って入ってきたことに。 9

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ミストルティン編第四話「護るべき笑顔は～ノー・ティアー！ノー・アゲイン！」#4 「パーシュード・フライト」

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9:40、タクシー内。成田から日館市は直線距離では１００ｋｍ程ではあるが、直通の交通機関は少ない。３時間ほどかかる高速バスくらいだ。電車を用いると一度東京方面に西進しなければならず、遠回りになる。バスでも基本的には同じだが、電車程の遠回りではなく、何より乗り換えが要らない。 10

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しかしバスは本数が少ない。電車の場合、複雑な乗換ルートは海外の人間には難しい。そこで費用は掛かるがタクシーが選択された。料金は３～４万は掛かるが、うまくいけばバスより早いし、密談向きである。こういうところにＵＡＲは金を惜しまない。飛行機もファーストクラスだった。 11

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無論、魔術を使えばもっと早い。飛行や走力加速を用いれば大抵の魔術師は時速１００キロ以上は出せる。ちなみに空間転移系の魔術は存在するが、個人レベルではおいそれと使えるものでは無い。いずれにせよ、魔術で接近すればまだ見ぬ『敵』に察知される恐れがあるので使えない。 12

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「それで、地元の管理者が…という可能性だが」車内にも拘らず三人のリーダー、残る二人の師が話し始める。日本語を使っていないから、と言う理由では無く、隠話の術式を使っているからである。運転手には無言に聞こえるだろう。暗示をかけても良いが間違うと事故を起こす危険もある。 13

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「一番ありそうなのは、我々の儀式に気付いたことで彼等の怒りを買いワイドリバー達を秘密裏に始末し、その上で我々にそれを隠しているということだ」「ですが、それで我々に何の抗議も査察も無いのが妙ですよね」「我々の力を警戒しているのでは？」部下たちが言う。 14

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「相手がただの地元組織なら、その可能性もあろうが…今回はセフィロトによる管理代行地域だ」本来の管理者が幼かったり、組織の勢力が急激に弱まる、あるいは傷病などで一時的に管理能力を失った場合、他所の組織に管理を供託することは良くある話だ。 15

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しかし身近に信頼できる多組織が無いことも少なくない。そう言った場合にセフィロトから人員が派遣されてくるのだ。外敵の排除や、土地の霊脈の管理、不動産運用など権限について相談した上で委託を受ける。新渡町もそのうちの一つだ。 16

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「しかし管理代行者が独断で余所者を粛清したとすれば、当然相手のことは精査するだろう。しかも我々は届出を出して潜入している。我々に辿り着いて然るべきだ」「となると、本来の管理者やセフィロトにも報告しますよね…ということは…」タクシーが国道を逸れて裏道に入る。 17

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「我々にセフィロトの査察が入らないとおかしい、と？」部下達の意見に師が頷く。「そうだ。無論、これからということも有り得るが…既に始まっているかも知れない」「「！？」」「特にこれから来る後発はともかく、我々は非正規のルートで新渡町に入るのだ…油断は出来ない」 18

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部下達が唾を飲み込む。「まあ、あそこの査察は迅速だ…動いたのなら既に本部に、公式に査察が入ってもおかしくは無い。恐らくは気付かれてはいないのだろう」「となると、ますます妙ですね？」「一体…何者なんでしょうか…？」タクシーが再び表通りに出た。 19

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「考えられるのは…本来の管理者か、その関係者が独断でリバー達を葬り、それを何故かセフィロトに報告していない…という辺りだろうが…」男は自分の発言にも関わらず疑わしげな表情である。「目的が分かりませんね…？」タクシーが左折のサインを出した。交差点はかなり先だ。 20

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「セフィロトが気付かなかった敵を自力で倒すことで、実力を示し、組織の再興を図る……いやないですね、ハハ」部下が自分の発言に苦笑いした。とにかくも彼等のみならずＵＡＲにとって不可解に過ぎる事案だった。「何にせよ、現地に行ってみなければ分かるまい…ん？」 21

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タクシーが路駐されていたトラックの前を左折した。左折路ではない。駐車場だ。中央にブルーシートが敷かれている。そしてシートの上を車体の半分が通過した辺りで、停車する。「おい、何だ！？休憩なら休憩で先に言え！」「まだチバ県内だろう！？」部下たちが叫ぶ。 22

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「いえ、ここで良いんですよ…地獄の一丁目はね」運転手は彼等の母国語でそういうと、無造作に扉を開けて素早く飛び降りた。『！？』リーダーが咄嗟に催眠で制止しようとするが効かない。（護符（アミュレットか！？））そこに更に驚愕すべき出来事が起こった。 23