法医菌類学~きのこは犯罪捜査に有用なのか?

「死体から生えるきのこ」は犯罪捜査に有用なのか?@Ats_Nakajimaさんによる専門的見地からのツイートをまとめました。
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Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

「死体の上にきのこが生える」ということはよく知られており、科学的にもそのような性質を持つきのこの存在は実証されているが(アンモニア菌)、それが「犯罪捜査に用いられている」というのは俗説ではあるまいか?調べられた限りのことをここに書いてみる。

2013-01-29 16:16:14
Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

Hebeloma syrjenseというきのこ(ナガエノスギタケに近縁)は、米国では"corpse finder(死体を見つけるもの)"のあだ名でよばれており、法医学的に用いられるという。これは有名な話だが、その直接の証拠はないと指摘されている (Bunyard, 2003)。

2013-01-29 16:19:22
Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

Wikipediaの"Hebeloma syrjense"のページには、テネシーの「遺体農場 (body farm)」(ヒトの遺体の分解を研究している、実在する施設)で、このきのこが遺体から生えた、とあり、ニコラス・マネーの著書が引用されているが、これは誤りである。

2013-01-29 16:22:14
Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

マネーは「遺体農場で記録された菌のリストは興味深いだろう」として、このきのこが生えることを推測しているだけである(そんなリストがあるなら僕も見てみたい)。では、"corpse finder"のあだ名がどこに遡れるか、というと、ゲイリー・リンコフという人の1981年の図鑑らしい。

2013-01-29 16:25:57
Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

この図鑑の中で、リンコフがまさにそのことを述べているそうだ(google booksで見られないので未確認)。結局はこの証言の信用性に左右されるだろう。科学的にヒトの遺体ときのこの関係を調べた例は、やはり今のところないようだ (Sagara et al., 2008)。

2013-01-29 16:33:15
Atsushi Nakajima @Ats_Nakajima

法医菌類学の論文は今のところ僅かだが、「きのこ(カビ)が犯罪捜査に有用だ」という主張には懸念や批判も多い(Carter & Tibbett, 2003に関する論争やHitosugi et al., 2006に関する論争)。遺体分解における菌類相の基礎研究がもっと必要だろう。

2013-01-29 16:40:32