suiteのリレー小説

群馬県のさりげなくハイセンスな女の子ユニット「suite」の二人が交代しながら執筆するリレー小説をトゥギャってみました。
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えいちゃん (suite) @taro_suite

告知★ suiteのリレー小説はじめます!  お互い 内容は秘密にして, 勝手気儘に綴っていきます* たろ(@taro_suite) → あみ(@ami_suite) の順番で 書いていきます* よろしくお願いします(^^)/

2013-01-26 15:17:39
えいちゃん (suite) @taro_suite

眠い。とにかく眠たい。 早く家に帰りたいのに, どんなに考えても 自分の家がどこだったか 思い出すことができない。 しかたないので, どこか眠れる場所を探して, 街をふらふらと歩きはじめた。

2013-01-26 15:20:56
あみ @ami_suite

人混みで膨らんだ交差点、わたしの名前が聞こえてくる。誰かが呼んでいる。それでもわたしは歩くことをやめない。帰らなくては。どこへ? どこか。還る場所を探す、眠たくてふらついた足どり。今日はお月さまが綺麗だ。

2013-01-26 15:33:49
えいちゃん (suite) @taro_suite

人混みの中、月を見上げながら進んだ。眠たくて足取りは右左、うまく歩けない。そのうちにサラリーマンとぶつかってしまった。ああ、すいません、と謝ろうとしたけれど、口から出るのは「ぐう」といういびきの音ばかりだった。 サラリーマンは やれやれ、という顔をして、人混みの中に戻っていった。

2013-01-27 16:26:59
あみ @ami_suite

もしかしたら。わたしはすでに眠っていて、こうして足跡をこぼしているのは夢の中なのかもしれない。ふと足元に目を向けると、名刺が一枚、靴の下に潜り込んでいた。あのサラリーマンだろう、少し青みがかった上質な紙に、小さめの、しかしバランスのとれた配置で印刷された文字。「眠り屋 ゆきはし」

2013-01-27 23:10:55
えいちゃん (suite) @taro_suite

はて、眠り屋とは、 わたしは考える。「眠り屋」という名前なのだから、 朝までぐっすり!が売り文句の、まくらやふとんのお店なのかな、それとも良い夢が見られる場所を提供してくれるお店なのかしら。「眠り屋ゆきはし」の文字の下に、簡単すぎとも言える簡単な地図が載っていた。

2013-01-30 00:19:07
あみ @ami_suite

この地図を頼りに歩き出そうか。彼はわたしに道しるべを示したのだ。月明かりが目的地を浮かび上がらせ、わたしの足は吸い寄せられるように動き始めた。誰も知らない道、まぶしいネオンをくぐり抜けた先、黒猫が横切る路地裏。その簡単な地図が不思議なほど精巧に見えた。

2013-01-30 23:43:49
えいちゃん (suite) @taro_suite

黒猫に続いて角を曲がると、やっとひとりが通れるくらいの一本道に辿り着いた。建物と建物の隙間にあるので、道、と呼んでいいのかわからないけれど。入口には「ようこそ眠り屋商店街」と書かれた看板と、小さいけれど、よくある商店街と同じように、きちんとアーケードがされていた。

2013-02-03 17:57:57
あみ @ami_suite

「ねえお月さま、あのときわたしは妖精になったような気分だったわ。」ー 本当に、こんな場所が存在するなんて。引き返せない、そう直感した。彼はきっと、このどこかにいる。早く、眠りにつきたい。彼を探そう。どの店も同じ光り方をしている。夜の闇を照らすように、明るく光っている。

2013-02-03 21:23:42
えいちゃん (suite) @taro_suite

どの店も同じように光っていて、看板が出ていなかった。私は早く眠りたくて、いちばん近くにあった店の引き戸をひいた。入ってみると、女将さんのような人が玄関より一段高くなった所に小さく座っていて、「眠り屋まるかたに、ようこそいらっしゃいました。」と深々とお辞儀をされた。

2013-02-04 13:31:33
あみ @ami_suite

「今日は空気がとても澄んでいるでしょう、こういう日はお客が少ないんですよ。珍しいのよ、あなたみたいな方」 彼女は、さあこちらへと言って、わたしを奥の部屋へ案内しようとした。ここも眠り屋なのか。外観とは違い、中は薄暗く、仄かに灯る橙のランプが、かろうじて足元を照らしている。

2013-02-06 15:30:49
えいちゃん (suite) @taro_suite

眠れるならばゆきはしでなくても、まるかたでもどこでも良いはずなのに、どうしてもその廊下を歩く気にならなかった。ぼんやりと立ち尽くしていると、女将さんは「その服装は眠るには向いてませんね、代わりの服をお持ちします。」と言って、薄暗い廊下の先をぱたぱたと駆けていき、見えなくなった。

2013-02-13 02:59:04
あみ @ami_suite

着られません、わたし。絹の、するすると皮膚を滑る感覚、細胞のひとつひとつが丁寧に撫でられているようで、好きじゃない。まるかたさん(名前ではないのでしょうか)、わたし、その服は着ません、あの部屋にも入りません。引き戸に手をかける、飛び出して、走る、走る。方向なんて知らない。

2013-02-14 23:56:56
えいちゃん (suite) @taro_suite

長いこと走ったのかもしれないし、長いこと走ってなかったのかもしれない、とにかく、足がもつれて私は倒れこんだ。倒れたとき、ああ そうか、私は眠かったんだ、と思った。仰向けの姿勢で空を見る。いま何時なんだろう。交差点で見上げたときと何も変わらない満月が、アーケード越しに浮かんでいた。

2013-02-21 16:29:32
あみ @ami_suite

ここはどこなのだろう。目を閉じると、頭の下の芝生がまぶたの裏に映り、緑の海が広がった。引き返せないと感じたけれど、本当にそのとおりだった。商店街はあんなによく見えるのに、誰も気づかない。それはきっと、誰かの夢の中だから。そしてこの場所も、わたし自身も。

2013-02-24 19:02:09
えいちゃん (suite) @taro_suite

「よく眠れたようですね。」 突然の声に驚いて目を開くと、頭の上から男性がこちらをのぞきこんでいた。知らない男性、ではなかった。交差点でぶつかった、あのサラリーマンだった。あなたが来ると思ったら、私はなんだか眠れなくてね、とサラリーマンはふふ、と笑った。

2013-03-11 22:58:00
あみ @ami_suite

誰かの夢の中で、あなたとわたしは起きていて、あなたはわたしを見つけ出す。わたしはあなたを知らないけれど、あなたはわたしを知っていた。名刺を落としたあの時から。始まっていた。薄笑みに滲む、眠り屋の秘密。知りたくはないのか、わたし。後戻りできないことなど、わかっているのだ、わたし。

2013-03-12 19:25:10
えいちゃん (suite) @taro_suite

誰かの夢の中でも、それでも、 眠り屋に、眠り屋に行きたいんです。サラリーマンははじめからわかっていたかのように頷いて、私に手をのばす。ああ、そうだ、私は思い出す。私は眠い。とにかく眠たいのだ。

2013-03-14 21:51:46
あみ @ami_suite

彼の手をとる。重なった指の間を、夜風がすり抜けていく。月の光が彼の表情をはっきりと照らし出し、一瞬、その瞳の中で、静かに眠るわたし自身を見たような気がした。芝生を踏みしめると心地よい音がして、彼の手は暖かかった。満たされたわたしのまぶたは、そして、眠り屋の窓になった。【完】

2013-03-15 00:19:30
あみ @ami_suite

ついに完結! (しかし眠り屋とは何だったのだろう..)

2013-03-15 00:24:12