紡がれる想い～絆～2月9日ゆりあげ行方不明者捜索

はじめに

あれから23ヶ月。
東北にはまだ2698人の帰らぬ人がいます。
そしてその方々を待ち続ける人々、捜し続ける人も。

福島県南相馬市萱浜（かいはま）には、その帰らぬ人々を自分達の手で捜し続ける人たちがいます。
自衛隊の捜索ですら、どこよりも遅く来てどこよりも早く去ってしまった、その地に眠る人々を。
私達の活動のルーツであり、後に「福興浜団」と名を変え、今も行方不明の人々を捜し続けている南相馬市原町消防団です。

自分たちで捜すしかなかった…

40人以上の顔見知りの方をその方のご遺体であると認識出来た状態の時から、
お骨だけになってしまった今までの、帰らぬ人を待つには気の遠くなるような長い時間を。

一ヶ月後、そこに手を貸したのは「絆」の名のもとに集った有志たち。
後に「Nine」も加わりました。
団体名こそありますが、その仲間も含め普通の人の集まりです。

人は誰にも大切な人がいます。

当たり前にそばにいる
苦楽をともにし、支えあうパートナー
時にはぶつかり合いながらも、人生の多くの時間、喜怒哀楽をともに過ごした両親や友達、恋人
そして、どれほどの愛情を注いでも惜しくないわが子

その大切な人の存在も
笑いあえた日常さえも

突然奪われ、永遠に失われてしまった…

喪失の大きさは愛情の深さの裏返し

4人の家族をなくし、父親と当時3歳の息子さんが見つからない福興浜団の団長
震災数日後に発見した娘さんを抱いて
「ごめんね、ごめんね」
と謝りながら安置所へ運んだそうです。

「まさか消防団やってて、自分の娘を探すなんて思うか。８歳の娘の骨を見た時、情けないことにちゃんと拾えなかったよ。父親としてこれほど情けないことない」(ファインダー越しの3.11より)

どれほどの無念だったか、どれほど受け入れ難い現実だったか

なぜ助けることが出来なかったのか、という自責の念
あの場所はまだ捜せていない、という心残り
待っているに違いない、置き去りにはしないよ
せめて骨だけでも抱きしめて、お帰りなさいといってあげたい

そんな想いを抱き続けているご遺族もたくさんいます。
笑うことが出来るようになった今でも、心のどこかに。

まだ捜せていない場所があるのなら　心残りはさせたくない
波がいつかかえしてくれるのなら　同じ浜辺を何度でも共に歩きたい
一人でも多くの手で　一人でも多く家族のもとにかえしたい

もう、理不尽な後悔だけはさせたくない

私たちは人の心を置き去りにした形だけの復興など考えられません。

今回の捜索を行った地は、引き波被害がなかったという理由で、早々に捜索が打ち切られてしまった宮城県南部、そのうちでもまだ帰らぬ人が多い名取市の閖上です。名取市の41人の行方不明者のそのほとんどがここ閖上で。

二人の我が子をなくした福興浜団団長の「南相馬の子供たちー亡き娘の友達ーをディズニーランドで思いきり遊ばせよう」という企画に、心を動かされた被災地の方々がいました。
閖上で息子さんをなくした女性もその一人だったのでしょう。

「私も雅人とディズニーランドに行こう」

福興浜団に協力する団体、絆JAPANとNine、それに賛同する多くの人たちが閖上を意識するきっかけとなる言葉でした。

閖上にも同じ想いを抱えた方がいる…

その女性が、動いてはくれぬ行政にしびれをきらし「いつになったら捜してくれますか」とつぶやいた。

その声を聞き流すことは不可能でした。
行政で出来ないのなら自分たち有志で。

それが今回の捜索の始まりです。

閖上で捜索が行われることを耳にした福興浜団も協力を名乗り出ました。

萱浜から閖上へと紡がれてゆく想い
福興浜団の想いと行動、雅人くんの両親の帰らぬわが子への想い、そしてそれに手を貸す人たちによって。

このまとめは、閖上の女性の夫、雅人くんのお父さんの長い日々から始まります。

発災当初、他のご遺族と同様、来る日も来る日も家族を捜して歩いた。
そして新たな街作りが急がれる閖上で、同じ悲劇が繰り返されることのないよう行政に働きかける活動に尽力する日々。

その言葉から伝わってくるのは、わが子への消えることのない深い愛情と、あまりにも大きな喪失感。

2万の失われた命の
それぞれのご遺族に、それぞれの23ヶ月とそれぞれの想いがあります。

そのうちの一つの家族の軌跡

後半は捜索の参加者とそれを応援する声です。

小さな声を発する人がいて
それを聞いて受け止める人がいて
受け止めた人のその声を聞いて

ともに活動をしてきた仲間が
「STEP」の皆が
個人の有志たちが
地元の方が
他の地で被災された方が
他の遺族の方々が

約100人の力が
2月9日、閖上に集まりました。

そしてその声を聞いて応援の言葉を届ける人たち
祈る人たち

捜索には多くの人手と忍耐強い継続が必要です。

ここに集まった声を聞いて、さらにその声を受け止めてくれる人が増えるよう

すべての人に「お帰りなさい」が言える日が来ることを願って。

祈りをこめて。

「3.11から1ヶ月の記憶」より

震災直後の様子について、雅人くんのお父さんがご自身のブログで「3.11から1ヶ月の記憶」として書かれています。ここでは一部だけ引用（"太字部分"）し、紹介させていただきます。

3月11日　当日、２日目　の概要

地震発生直後、実家にいる雅人くんについて大丈夫と聞いていただけに、
避難しているにちがいないと

"無事を信じて張り紙をして探しに行く。
　「大好きな雅人へ
　　ちょっと出かけてるので、中で待っててね。
　　大好きなママと、とうちゃんより」"

震災前、津波があれほどの被害を出すと想像できた人はほとんどいないでしょう

大きな不安を抱きながらも、どこかに避難しているはず。
必死でそう言い聞かせながら

でも見つからない

周辺の避難所、
張り出される避難者名簿、
到着するマイクロバス、ミニバンから出てくる救助された人達

どこにもいない

３日目　の概要

実家があったはずの場所の、想像を絶する被害状況
そこに家族がいたかもしれない

”閖上を歩き始める
　変わり過ぎている景色にまた涙が止まらない
　嗚咽しながら歩く

　何もないよ
　何もないよ
　何もないよ
　何もないよ
　何もないよ
　言葉がこれしか思いつかない
　何がどうなればこうなるのか、全然全然全然わからない
　理解できない
　頭が痛い
　涙が止まらない”

霞の目の駐屯地

”足取りはありませんでした。
　これでほとんどの望みが断たれた。”

”増田体育館に遺体安置所が出来たことを
　知ったので、登録に行こうと僕から話を切り出しました。
　もしも亡くなっていた場合、ずっと遺体が並んだままでは可哀想で
　早く見つけてあげたいと言って説得しました。”

3月15日　震災5日目　より

"避難者リストは何べん見ても載っていませんでした。
　今日の目的は遺体安置所に初めて訪れることでした。"

"鼓動がだんだん速くなり、恐さと緊張で気持ち悪くなってきたけれど
　意を決してマスクをして入っていきました。妻たちは外で待機です。
　初めてということで説明をされましたが、憶えられませんでした。
　見渡すと、ボーリングレーンの上に棺がいっぱい並んでいました。
　100以上の棺が。"

"棺に窓がついていてそこから覗き込んで確認する。
　上、頭の方から覗き込むと反対に見えるので、
　足の方から一歩、二歩前に進んで身を乗り出して覗きます。
　怖くて怖くて仕方がありません。"

"棺前に着衣と所持品が入ったビニール袋がありましたが、
　どす黒い泥がへばり付いていて見てもわかりません。
　何十体の遺体を見ても、覗き込むことが怖いです。
　所々の棺前で身内の方々が泣き崩れています。"

震災13日目～、3月24日以降　より

"空港ボールに着き、またつらい、怖い、しんどい確認をしました。
　最初は確認した後、どっと疲れるんですが居なかった安堵がありました。
　それが少しずつ居てほしかった　こんな気持ちが芽生えてきました。
　1：99の気持ちが日を追って確認してくうちに、
　2：8、3：7になっていきました。
　いつごろからか、どの時点でとは思い出せません。
　このような日々がしばらく続いていきました。"