- 0UUfE9LPAQ
- 3146
- 4
- 0
- 0
【町】がある。 法律上の要件を満たした上での呼称ではなく、あくまで【住人】たちがそう呼んでいるだけだ。 村というほど寂れておらず、市というほど栄えてはいない。 いかなる行政が敷かれているのか。 一定期間ごとに納めねばならない税金はどこに流れ、なにに使われているのか。
2013-02-15 22:27:57そもそも、この【町】はいったいどこにあるのか。 地図には載っていない。 GPSを用いても、発見されることはない。 電話やインターネットで、外の世界と連絡を取ることさえできない。 答えを知る者は、一人もいない。 いるのかもしれないが、少なくとも【住人】にはいない。
2013-02-15 22:28:20当然、怪訝に思う者はいる。 実態を調べようとする者もいる。 【町】に流れ着いてばかりの【漂流者】は、そのほとんどが【町】の正体を掴もうと躍起になる。 しかし――ことごとく、ほどなくしてその意欲を失ってしまうのだ。
2013-02-15 22:28:33だいたいが三日もすれば。 もっても、せいぜい一週間。 そこを越えたとしても、一ヶ月。 たったそれだけの期間が過ぎれば、【漂流者】は【住人】となってしまう。
2013-02-15 22:28:54【町】は【漂流者】にとっては【奇界】であるが、【住人】にとっては【楽園】なのだ。 住みよく、過ごしやすい。 【楽園】の住人が、【楽園】の裏側なぞ見たがるはずがない。 ゆえに、【町】に適合すれば、すぐに正体を掴む気などなくなってしまう。
2013-02-15 22:29:10――――そして適合する資質のないものは、そもそもほとんど流れ着かない。 これは、そんな【住人】にとっての【楽園】の話。 【非住人】にとっての【掃き溜め】の話。 『幸せな町』
2013-02-15 22:29:27GJ師範(@fRBHCfnGJI ):【解放者(リリーサー)】。 【町】を【楽園】と思っていない唯一の【住人】。 【非住人】のように【掃き溜め】と思っているのでもなく、ただ普通の町と思って過ごしている。
2013-02-15 22:30:40彼には流れ着く以前の記憶がないため、他の場所と比較して【楽園】と認識することができないのだ。 思い出せる最初の記憶の時点ですでに【町】にいて、それより前は思い出せない。 どうにか記憶の糸を辿ろうとしても、■――と黒く塗り潰された記憶に行き会うばかりだ。
2013-02-15 22:30:56当然気にはなるものの、そこまで固執しているワケではない。 【町】での生活に不満はないし、外を知らないのだから出たくなることもない。 ただ、たった一つだけ気に喰わないことがある。 【町】を【楽園】と見なしていながら、自らを曝け出していない人間だ。
2013-02-15 22:31:16彼らは自らを【住人】と思い込んでいるだけで、本質は【住人】ではない。 彼自身に【町】以外の記憶がないゆえに、【町】以外の記憶を持ちながら【掃き溜め】に居続ける存在が許せない。 そんな【非住人】に自らを見誤っていることを認識させ、【外の世界】へと【解放(リリース)】する。
2013-02-15 22:31:51それが、彼の仕事である。 あくまで目障りだから追い出しているだけであり、謝礼など請求するつもりはないものの、不思議とほとんど毎回渡してくるので受け取っている。 相手から渡してきたものを断るほど、人間ができていない。
2013-02-15 22:32:16物語の主人公。 【ヒーロー】兼【ヒロイン】。 【ついている】し、【開いている】。 【GJ師範という青年】と【アリスという少女】が、一つの身体に同居している。 GJ師範にはアリスが視えているし、アリスにはGJ師範が視えている。 一人きりなど、ありえない。
2013-02-15 22:32:46一人ぼっちでも、二人ぼっち。 一人暮らしでありながら、二人暮らし。 一人身の男性らしい閑居としたアパートに住みながら、キッチンの装飾品だけが女子力の高さを主張している。 アリスが【町】にいるからこそ【外の世界】への興味が沸かない事実に、GJ師範は気付いていない。
2013-02-15 22:32:53sky=ワシソダ(@PigTheDebudo ):【変換師(コンバーター)】 原理不明の技術で、物質を【変換】させる。 等価交換の理などありえないし、そもそもこの世に等価のものなど存在しない。 その主張通りに、時間を無駄に、食材を炭に、真人間をダメ人間に、【変換】する。
2013-02-15 22:34:20無論、稀に【変換】により物質の勝ちを上げることもあるのだが、他人の記憶に残るのは失敗ばかりである。 ことあるごとに「変わりたい」と呟いていたため、GJ師範に目をつけられる。 どんな物質でも変えられるスキルを持ちながら、自分自身が変わろうとしない――その矛盾が癇に障った。
2013-02-15 22:35:28しかし実際は、変わろうと思えば変われると理解した上で変わろうとしないだけであり、そんな自分を肯定してもいた。 それを察した師範に紛れもない【住人】と見なされ、以降【解放】を迫られることはなくなった。 今日もまた、自分だけは【変換】せず、「変わりたい」と呟いている。
2013-02-15 22:35:35ネスカ(@watasidesu ):【出戻り夢見る少女】 男性の生殖器に、並ならぬ関心を寄せる少女。 人を愛したことはなく、ただその部位だけを愛でる。 ある日、誰よりそれを愛するはずの自分に【ついていない】事実に、不意に苛立ちを覚えてしまう。
2013-02-15 22:36:38とうに知っていた事実だというのに、一度覚えた苛立ちは膨らむばかりだ。 どうしてこんなにも求めている自分に【ついていない】で、愛しているそぶりを見せぬ道行く男には【ついている】のか。 微かに散った苛立ちの火花が、燃え盛る業火と化すまで半日とかからなかった。
2013-02-15 22:36:47「×ん×、好き?」 道行く男性に問いかけ、否定した者以外の生殖器を刈り取る。 肯定する者がほとんどいない事実に激昂しつつ、片っ端かしから刈り取ってカバンに詰め込む――そのうちに、【町】に流れ着いた。
2013-02-15 22:37:01視界が一変したことに違和感を抱きながらも、通りがかった呪術師ルックの青年に問いかける。 「××ぽ、好き?」 青年が返答せずに眉をひそめたので、刈り取ることを決断し、ズボンを脱がし――目を見開いた。 青年には――【ついていた】し、かつ【開いていた】。
2013-02-15 22:37:21その存在が、彼女を救った。 そういう人間もいる。 いずれ、自分もそうなれるかもしれない。 そう思っただけで、怒りの業火が治まっていく。 正気に戻って頭を下げてから、彼女は青年がGJ師範という名だと知ることになった。
2013-02-15 22:37:37いまの夢は、【そうなる】ことだ。 【町】にいるという、いかなる移植手術をも受け持つ【医者】に依頼するべく、絵を売っている。 モデルは冷凍保存した刈り取った生殖器であり、売れ行きは上々であるらしい。
2013-02-15 22:37:456L(@6LQfwU9M):【朱に交わった赤】 オカルト好きであったゆえ、【町】の存在自体は以前より知っていた。 よくあるネタの一つと一蹴していたのだが、学校と家庭とバイト先のすべてで面倒ごとに巻き込まれてしまい、ようやく深夜に自室に戻った際に呟いてしまう。「楽園……か」
2013-02-15 23:30:20よほど精神的に疲弊していたのか、いつの間にか寝入ってしまったらしい。 「ああ……今日も学校か」胸中で呟いて目を開くと、そこは自室ではなく路上であった。 唖然としながらも、道行く人にどこなのかを尋ねる。 「どこ……? そんなものは誰も知らないし、どうでもいいだろう?」
2013-02-15 23:30:35そんな理解し難い返答ばかりが返ってきて、彼は寝入る前に呟いた内容を思い出す。 いくらオカルト好きでも、たじろがないはずがない。 オカルトというのは、自分に関係がないから楽しめるのだ。 抑えきれぬ焦りを胸に抱きつつ、【町】から出る方法を探し始める――
2013-02-15 23:30:43