ザイバツ・ヤング・チーム #2
このままハイウェイを走り、目的地の側でしめやかに下車、徒歩にて向かう。「それまで寝てりゃァいいよな」ドモボーイが仰向けになり、アクビをした。「俺のアイデアだ、これは」「黙ってろ……」クアースは吐き捨て、携帯端末を起動した。 25
2013-02-25 16:46:18ネオサイタマ郊外と中国地方の境、バイオパイン地帯に、ネオサイタマ有数の株トレーダー、ナミコモ・トウイチロウの個人邸宅がある。邸宅とは名ばかり、江戸趣味の彼はバクフ城に外観を模した要塞に住む。敷地内をジープが走り、私兵が警戒する……株トレーディングは表向きの職業というわけだ。26
2013-02-25 17:23:49謁見の折、ナミコモの目録データは既にダークニンジャ自らがあらためていた。ダークニンジャはガイオン地下から持ち帰ったコデックスを所持しており、故アラクニッドの啓示、崩壊したホウリュウ・テンプル蔵書の写本とあわせて、古代ニンジャレリック探索の指針とする。 27
2013-02-25 17:55:24今回ディミヌエンド達が持ち帰るべき品は、マツオ・バショーの墨壺だ。既にマツオの「奥の細道」原本はニーズヘグの手によってギルドへもたらされているが、かの書物単体ではニンジャの秘密に迫る暗号を解くプロトコルが得られない。 28
2013-02-25 18:25:52マツオの墨壺が本物であれば、内側にはプロトコルが彫り込まれている。壺の中へ小さな鏡を落とし、読み取らねばならない。巧妙な秘密だ。ナミコモも物を知らぬ男ではない。本物であれば決してこのアルケイン・アーティファクトを手離しはすまい。厳重警備の要塞内にしまい込み、死ぬまで隠匿する。29
2013-02-25 18:34:15知っての通り、詩神とも称されたマツオは晩年に熱病の中でアポカリプス戦争のビジョンにうなされ、北の果てへ旅立つと、最後の宿泊地に奥の細道書のマキモノを遺して姿を消した。過去、そして来たるべき未来が、一見平易な巡礼紀行文の中に隠されているのだ。 30
2013-02-25 18:56:18(親愛なる読者の皆さん:ご存知の通り、彼はどこに行ったのか?翻訳チームはリダンダント体制を問題なく、連載更新はまもなく再開される為、ごあんしんください。)
2013-02-26 14:06:02そこにはおそらく、ヤマト・ニンジャの足跡が……YotHの場所を知る手がかりが、隠されている筈だ。A級のレリックだ……もしも情報が真実であるならば……クアースやドモボーイの立場には釣り合わぬほどに重大なミッションとなる。(((だからディミヌエンドが同行している……))) 31
2013-02-26 15:00:58「ディミヌエンド=サン」クアースは隣に顔を向けた。「何?」「ギルドに来る前は、何を?」「私が?」「そうです」「俺も興味あるぜ」ドモボーイが珍しくクアースに和した。「いきなり入ってきて、こいつがリーダーです、なんてよ。納得いかねえんだよな。殴られたって俺の心は折れねえぞ?」 32
2013-02-26 15:05:16「……」「結束ですよ。結束ッてやつです」クアースは言った。「チームの間に疑心が満ちた状態で、命を賭けるなんて、危なっかしいじゃないですか。ドモボーイ=サンは無礼だけど、気持ちはわかりますよ。いくら鳴り物入りでも、カラテが強くてもですよ?何者かわからないままっていうのはさ……」33
2013-02-26 15:11:47「何も隠してなんかいない……ただ退屈なだけよ」ディミヌエンドは答えた。「キョート・ワイルダネスの"美しい馬平原"に、地下シェルターがある。私はそこから来た」「……」クアースはやや肩透かしを食らった気分だった。彼女は続けた。「シェルターに住んでいたのは私とお父さんの二人だけ」34
2013-02-26 15:28:46「親父どうしたんだよ」ドモボーイが言った。「もういない」ディミヌエンドは答えた。「一年くらい前に、病気で死んだ。それからは、一人」「一人?」「外はマッポーのジゴクで、悪徳が蔓延っているから、シェルターを離れたらいけない。それがお父さんの教えだったの」 35
2013-02-26 15:39:39「イカレてるぜ!」ドモボーイが無遠慮に言った。「シェルター民ってやつかよ」「……そうね」ディミヌエンドは続けた。「私はお父さんにカラテを教わった。私達は、シェルターに近づく人間を狩って殺した。備蓄の食べ物を食べて……水もあった。そういう暮らしをしていたの」 36
2013-02-26 15:45:43「外の世界は悪徳……」クアースは呟いた。あながち嘘でも無いか。「余計なお世話だぜ、そんなもん」ドモボーイが言った。「悪徳なら何だッてんだ。しょうのねえ親父だぜ!」「で、それをニーズヘグ=サンが引っ張り出したんで?」クアースが訊いた。ディミヌエンドは、はにかんだ笑みを浮かべた。37
2013-02-26 15:58:46「ひとりぼっちから、今度はキョート城ッてか?腕輪をつけてよ」ドモボーイが言った。「物好きもいたもんだ」「貴方は?」ディミヌエンドが訊いた。ドモボーイは鼻を鳴らし、「俺はお前より不幸だぜ!当然そこのクアース=サンよりもな。俺はガイオン市外の生まれよ。生まれた時から家族はいねえ」38
2013-02-26 16:27:01「バカめが……そんな事を競い合ってどうする」クアースは顔をしかめた。ドモボーイは身を起こした。「うるせえ、上層のヤンク野郎。俺に言わせりゃお前なんぞ、とんだタフガイ・ワナビーよ。恵まれてる奴がドロップアウト気取り。生まれのヌルさがニンジャのカラテにも影響するんだ!」「アア?」39
2013-02-26 16:38:46クアースも身を起こし、「こいつは、不幸なミッション中の命取りで貴様を報告する事になりそうだな?」「望むところよ……背中に気をつけるがいいぜ」「ア?」「アアッ?」「プッ!」ディミヌエンドが吹き出した。クアースとドモボーイは出鼻を挫かれ、間のディミヌエンドを見た。 40
2013-02-26 16:45:33「何がおかしい」とドモボーイ。ディミヌエンドも起き上がり、「貴方達、ずっとそうやって争ってるけど、最初に会った時からそうなの?」「何が言いてえんだ?当然だ……新生ギルドは実力主義!生き馬の目を抜く出世レースだ。ニンジャに馴れ合いは不要!だろ!」「そうだ」クアースは同意した。41
2013-02-26 16:53:51「勉強になるわ」ディミヌエンドは笑った。ドモボーイは二の句を継げず、唸り声を上げて濁した。クアースは目をそらした。ディミヌエンドは端末を確認した。「……そろそろよ。あれ」ハイウェイの右手にはいつしかバイオパインの森が拡がっている。彼女が指差す先、天守閣めいたものが見えてきた。42
2013-02-26 17:14:14「城だ」ドモボーイが言った。「そりゃ、城だろうぜ」クアースは冷ややかに言った。ドモボーイは手をかざしながら言った。「あんなものオッ建てて、カネにあかせて骨董品を漁って……実際、恥知らずのカネモチなんだろうな!」 43
2013-02-26 18:19:03「ただのバカがあんな場所に城など建てるかよ」クアースは端末を流し見ながら言った。ザイバツの電算資源は限定的であり、潜入先の詳細な情報は得られていない。「後ろ暗いビズをやってるに決まってる……ヤクザ傭兵、いや、ニンジャがいるかもしれん」「だからどうした?」とドモボーイ。 44
2013-02-26 18:32:26「片っ端からブッ殺すだけさ。ニンジャ?上等だぜ。そこらの野良ニンジャなぞ、単なるボーナスポイントよ……俺は今までにも何人か殺ったぜ」「敵を侮って真っ先に死ぬタイプさ、お前みたいな奴は」「アア?」「今よ」ディミヌエンドが立ち上がった。そして下めかけて跳んだ。「イヤーッ!」45
2013-02-26 18:41:28ディミヌエンドはハイウェイのガードレールへ着地し、高架下へ跳んだ。ドモボーイとクアースは睨み合った。「おい」ドモボーイが言った。「テメェ、あの女に手ェ出すなよ」「何だと」「……俺がモノにする」「ワッツ?いきなり何言ってやがる」「ビリッと来たぜ、俺は」ドモボーイは目を細めた。46
2013-02-26 18:50:26