山本七平botまとめ/【感覚の違いを旅に学ぶ】/理屈ではどうにもならない「異質の感覚」と共生した経験のない同質民族の日本人

山本七平著『これからの日本人』/感覚の違いを旅に学ぶ/73頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【感覚の違いを旅に学ぶ】「世界三大叩かれ国、南アフリカ、イスラエル、日本」といった言葉を耳にした事がある。 勿論叩かれる理由はそれぞれ運うが、実に面白い共通点がこの三国にある。 それが何かあててごらんなさい、といったクイズはまず正解が出ないであろう。<『これからの日本人』

2013-03-01 15:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

②答は簡単「清潔好き」である。 エジプトのカイロから、ラムセス(アヴァリス)に行き、運河沿いにスエズに南下し、運河の下のトンネルを通ってシナイに抜ける。 いわば旧約聖書の民数記33章に記されているモーセの「出エジプト」のルート通りに伝承のシナイ山、すなわちホレブの山へ行く。

2013-03-01 15:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

③そしてこの山を登ってから聖カタリナ僧院を見学し、イスラエルのエイラットに抜ける。 このルートを通ると、エジプト、シナイ、イスラエルを一挙に見ることができるので、「行くときは是非、声をかけて下さい」という人が必ず十人ぐらい出てくる。

2013-03-01 16:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

④シナイ砂漠の単独行動は危険だから、砂漠専用バスに予備の水や食糧を十分に積んで行くには十人前後が最も安全で経済的だから、これは大変に有難い事なのだが、女性の参加者があるとトイレが心配になる。 人間の住む所に必ずトイレはあるのだが、それが少々日本の女性には使いかねる惨状なのである。

2013-03-01 16:58:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤私と一緒にもう何回もエジプトーシナイの旅を経験した家内などはもう割り切って「エジプトやシナイでは緑化運動に協力すればよいのよ」などと言っているが、初心者はそうはいかない。 そして国境を越えてイスラエルに入った途端に、この種の問題はすべて解消する。

2013-03-01 17:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥「どういう訳ですかねぇ、こうなると少々『尺度の違い』なんてもんじゃない、という気がするのですが」という人が必ずいる。 「そうですね。シナイがイスラエルから返還される前のシナイ空港は清潔そのものだったのですが、半年もちませんでしたなぁ。理由は私にもわかりません」としかいえない。

2013-03-01 17:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦同じことは南アフリカにもいえる。 「山本さん、ピューリタンってのは清潔マニアって意昧じゃないんですかねえ」と同行者がいうぐらい清潔、それも特にやや奥地の、オランダ系ピューリタンの町は、「清教徒」の町というより「清潔教徒」の町と言いたいほどである。

2013-03-01 18:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧一方、黒人はまことに、こういう点ではおおらかで「きれい、きたない」という概念がない。 新任の商社マンの奥さんなどは、黒人のメイドにトイレの便器をざぶざぶ洗った雑巾で平然と食器を拭かれノイローゼになる。 こういった問題は、さて、どう解決したらよいのやら、私には見当がつかない。

2013-03-01 18:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨日本人は食器を洗うとき、水道を出しっぱなしにしてざぶざぶ洗う。 だがイギリス人はこれをしないという話を聞いた。 聞いた話だから、本当かどうか知らないが、そのため何回も注意をうけ、ついに居づらくなったホームステイの学生もいたという。

2013-03-01 19:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩イギリス人はずいぶん清潔ずきのようだが、バーナード・ショーの『人と超人』という劇に、ユダヤ人の清潔という概念がイギリス人の気にいらない、といった台詞がある。 また水道を出しっぱなしにして食器を洗うのは日本人とユダヤ人だけだという話も聞いた。

2013-03-01 19:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪オランダ系のアフリカーナが極端な清潔ずきなことは前述したが、ドイツ人にも似た面がある。 昨年ドイツに行った時、ドイツ人と結婚した日本女性から面白い話を聞いた。 ドイツの女性は鍋釜に至るまで、ピカピカに磨きあげてしまう。日本人は、特に共働きの場合は、とてもあのまねはできない。

2013-03-01 20:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫そこで一週間に一度は家政婦に来てもらうのだが、余り黒くなっているとみっともないので、前日にある程度、磨いておく。 そのためにかえって忙しい、その女性は笑って言った。

2013-03-01 20:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬こういう問題は感覚の問題だから理屈では何とも解決がつかない。 日本人は単一民族でないにしろ、ほぼ同質民族といってよく、異質の感覚と共生した経験が殆どない。 そこで、異質の感覚と共生せざるを得ない状態に置かれた人たちがどのような心理状態になるか理解できなくて不思議ではない。

2013-03-01 21:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭だが、国際化は労働力の移動を当然とするのだから、外国人労働者を受け入れよ、ということになったら、一体どうなるのか。 理屈ではどうにもならない「感覚」の違いの問題がある。 そしてこの感覚問題は、もちろん清潔感だけでなく五感のすべてに及ぶ。

2013-03-01 21:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮現地で感ずるのはこの問題の大きさなのだが、日本でこの点が論じられたことはない。 感じられないことが論じられないのは当然なのだが、将来のことを考えると少々心配である。

2013-03-01 22:28:02