Twitter小説 「サエコさんと僕 (仮題)」

「最近僕は変だ。家政婦ロボットのサエコさんの事が、とても気になる……」ツイッターでつぶやいております連続もの小説をまとめてみました。ありがちな設定にありがちな話で目新しさも何もありませんが、もし宜しければお付き合い頂ければ幸いです。
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その一

篤。 @ishia2011

#twnovel 最近僕は変だ。今日も家政婦のサエコさんに用事を言いつける。「コーヒーを」「はい、かしこまりました」明るい笑顔に僕の鼓動が跳ねる。意識するまいと思っても、ついその後姿を目で追ってしまう。僕は変だ。だってサエコさんは、家で使っているアンドロメイド、ただの機械なのに。

2013-02-13 00:56:28
篤。 @ishia2011

#twnovel アンドロメイドは家の事を何でもしてくれる。料理も出来るし掃除も器用にこなす。母さんのいない我が家では、昔からアンドロメイドを使ってきた。「サエコさん」は去年更新した最新型だ。最新型なのに、不思議な格好をしている。古い資料や本で見た事のある、昔のメイド服姿なのだ。

2013-02-13 21:44:27
篤。 @ishia2011

#twnovel 「他にご用はありませんか?」今までの機械と違ってサエコさんは表情が豊かで言葉もごく自然。口元に浮かぶ笑みを見ていると、不思議な気分になってくる。「じゃ、新聞」必要もないのに、つい用事を頼んでしまう。もう少しこのままそばにいて欲しい…って、何を考えてるんだ、僕は?

2013-02-13 22:26:41
篤。 @ishia2011

#twnovel サエコさんは若い女性型のアンドロメイドで高性能が売りの新製品。細面の端正な顔立ちの美人で、ぱっちりとした目がよく動く。艶やかな黒髪に映える白いヘッドドレス、服はもちろんモノトーンのエプロンドレスだ。僕の調子が狂うのは、たぶんこの服装の所為なんじゃないかと思う。

2013-02-14 13:11:42
篤。 @ishia2011

#twnovel 先日父さんに聞いてみた。どうしてサエコさんはメイドの格好をしているのか? 父さんは答えにくそうに伏し目がちになって「いやその…父さんが子供の頃にああいう格好の女の子がいるお店が流行ってな、父さんはちょっと憧れてたというか、その…」要するに父さんの趣味だったのだ。

2013-02-15 21:45:41
篤。 @ishia2011

#twnovel 近頃では学校の授業中にも、ふとした瞬間に思ったりすることがある。今頃サエコさんは何しているんだろう。……馬鹿な。そんな事考えるまでもなく分かりきってる。サエコさんは大体の家の用事を終えて、家にいるに決まっている。どんなモデルであれアンドロメイドであれば皆、

2013-02-19 01:22:02
篤。 @ishia2011

#twnovel 当面の仕事が済めば必ず自動的に待機モードに入る。外出することが許されないドメスティック用途専門の家政婦ロボットは、そういう風に作られているのだ。もちろんサエコさんだって、同じだ。「彼女」も多分今頃は待機モードに入って、家の居間で動きを止めているだろう。

2013-02-19 01:23:57
篤。 @ishia2011

#twnovel もしかしたら昨夜足りなかった充電を今しているかもしれない。そんなの当たり前の事だ。それなのに、……ついそんな事を思い巡らせてしまうなんて、僕は本当にどうかしている。 本当に、最近僕は変なんだ。

2013-02-19 01:26:16

その二

篤。 @ishia2011

#twnovel 彼女に振られた。よりによってバレンタインデーのこの日に。僕が何を考えているかわからないと、彼女は言った。ぼくが一体どこを見ているのかわからない、そもそも私たちは同じ物を見ていたのかしら、と。一緒にいながらそんな難しい事を彼女が考えていたことが僕には驚きだった。

2013-02-14 23:36:55
篤。 @ishia2011

#twnovel そんな彼女に驚いている自分にも。結局僕は彼女の何を見ていたのだろう。そう考えると、なおさらショックだった。学校の廊下で、下校途中の道端で、楽しげに歌うように行き交う明るい顔の人たちとすれ違うたびに、次第に振られたという現実が重く心にのしかかる。

2013-02-14 23:41:22
篤。 @ishia2011

#twnovel 流石に家に着く頃にはすっかり落ち込んでしまい、重たい気持ちで玄関の戸を開けた。家ではいつものようにサエコさんが出迎えてくれる。「お帰りなさい、マリオさん」いつもの挨拶が耳に届く。たぶん顔を上げれば、いつもの笑顔がそこにあったのだろう。

2013-02-14 23:48:25
篤。 @ishia2011

#twnovel だけどその日の僕はそのことに気づく余裕すらなかった。「ただいま」僕は素っ気なく返して真っ直ぐ自分の部屋に入った。部屋に入ると、張り詰めていた気持ちが緩みそうになる。漏れかけたため息を無理矢理飲み込んで、ふと見ると僕の机の上に小さな紙包みが置いてあるのに気づいた。

2013-02-14 23:49:24
篤。 @ishia2011

#twnovel なんだろうと震える手で中を覗くと、綺麗に包装された手作りチョコレートが二つ、三つ。考えがまとまるのに少し時間が掛かった。そうか、バレンタインデーか。驚いて部屋を出て「サエコさん、あれ!チョコ…」サエコさんは僕の声に振り返り、にっこり笑いながら

2013-02-14 23:52:52
篤。 @ishia2011

#twnovel 「心を込めて作りました。マリオさんのお口に合うといいのですが」そしてちょっと真面目な表情を浮かべて「いつもありがとうございます」そう言ってぺこりと頭を下げた。手に持ったチョコの袋を握りしめて、僕はサエコさんを見返す。な、何を言ってーーサエコさんは照れたように

2013-02-14 23:53:54
篤。 @ishia2011

#twnovel はにかんでみせる。その時初めて、サエコさんの笑顔の意味が、分かったような気がした。たとえそれがプログラムされた造り物の表情だとしても、どんな時でも笑顔をもらえる相手がそこにいる。日常の暖かさが、自分は一人じゃないと思える気持ちが、何だか有り難く思える。

2013-02-14 23:59:48
篤。 @ishia2011

#twnovel こういうのも、案外捨てたもんじゃないんだな、なんて。 「…いやだな、サエコさん。ありがとうは、こっちのセリフじゃん。なんで…」言いかけて、ふいに思わず、鼻の奥がツンと痛み、続けて僕の視界が滲んでぼやけた。 (とりあえず、おしまい)

2013-02-15 00:04:31

その三

篤。 @ishia2011

#twnovel 台所で、ガリガリとミルを回す音が聞こえてきて、しばらくするとコーヒーのいい香りが漂ってきた。サエコさんが今日もコーヒーを淹れているんだ。別にアンドロメイドがコーヒーを淹れてたってちっともおかしな事はないんだけど、実はこれにはちょっとした由来がある。

2013-02-20 01:39:28
篤。 @ishia2011

#twnovel 実はうちの父さんの数少ない趣味の一つにコーヒーがある。そのこだわり様と言ったら本当にハンパじゃなくって器具はもちろん豆の選び方から焙煎方法、挽き方、抽出に至るまで、まるで仕事を辞めて喫茶店でも開くつもりなのかと思うくらい、そのウンチクは果てしない。

2013-02-20 01:45:51
篤。 @ishia2011

#twnovel 当然口先だけじゃなくて父さんの淹れるコーヒーはとても美味しくて、確かにこだわるだけのことはあるな、と僕でもそう思う。

2013-02-20 01:47:07
篤。 @ishia2011

#twnovel で、先週から、サエコさんが父さんから教わってそのコーヒーに挑戦しているのだ。豆についての説明から器具の使い方やら粉の分量、時間などのレシピを聞いたサエコさんは、それから毎日サイフォンとアルコールランプを駆使してコーヒーを淹れる。

2013-02-20 01:56:11
篤。 @ishia2011

#twnovel さすがはアンドロメイドだけあって手先はとても正確で教えられたとおりに何度でも同じ動きを繰り返せるんだけど、残念ながら細かい、微妙な味加減までは機械的にはコピーが出来ないみたいで、父さんのコーヒーとはどうも味が違う。

2013-02-20 01:59:18
篤。 @ishia2011

#twnovel 少しづつ分量を変えたり時間をずらしたり、毎日工夫をしているらしいんだけど、なかなか上手くいかない。父さんに言わせると、「一度自分で飲んでみれば、分かるんだけどな」なるほど。だけどアンドロメイドのサエコさんには、それは無理というものだ。

2013-02-20 01:59:45
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