第3回Twitter小説大賞に応募するかもしれない→した10作

1
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 二次会のカラオケボックスでやっと俺の番が回ってきて尾崎を熱唱していると、サビの直前で突然歓声が沸き起こった。振り返ると、知らない奴が扉を開けてマイクを手に歌いながら入場してきた。「……誰?」俺とそっくりだった。つまり、俺はその時本当の自分ってやつを見つけたんだ。

2011-12-27 22:06:13
simmmonnnn @simmmonnnn

父が遺したロボットはどんな危険からも私を守ってくれる……筈なのにそんな姿は見たことない。いつも寝室の隅で物言わず座ってるだけ。時々あちこち凹んでたり汚れてたりして、寧ろ私が世話してあげてる。そんな彼がもう半月も行方不明。ニュースは連日、巨大隕石の軌道が逸れたとかそんな話題ばかり。

2013-02-18 21:43:12
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 彼は空気読み屋。空気中に残留する熱気や緊張、怨念、フェロモン等を抽出し、公演直後のコンサートホールなら曲目や演奏順まで特定できる。殺人事件の現場検証で毎日多忙な男だ。「ただいま」「早かったのね」「誰か来てたのか」「いいえ」彼は愛妻家だ。家庭に仕事は持ち込まない。

2013-02-19 10:55:10
simmmonnnn @simmmonnnn

「花火買ってきたぞ」「そんな冗談にも慣れたけどね」と、妻は薄く笑う。半年前、彼女は視力を失った。「冗談じゃない。今からやるぞ」ベランダで二人、線香花火に火を点ける。「ほら、できるだろ。火花が弾ける音。指先に伝わる感覚。焦げる匂い」煙の手触り。蝉の声。辺り一面に反射する夏の陽射し。

2013-02-11 01:18:11
simmmonnnn @simmmonnnn

彼女を背にして、スプレー缶を手に取る。ただのエアーダスターだが、軽く錯乱状態の彼女は気付かないだろう。そして、壁をカサカサと這う黒い奴と対峙する。こいつは昨日、俺が見逃してやった奴だ。今夜は恩返しに来たのだろう。エアーで換気扇へ誘導してやった。ありがとう、お陰で喧嘩を中断できた。

2013-02-20 01:09:30
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 私が泣くと必ず、彼はカメラを向けてきた。「お前の泣き顔は笑えるからな」彼が死んだ夜、泣き明かしていた私の元へ彼の家族が来た。遺品のアルバムをくれた。そこには私の泣き顔の写真は一切無かった。カメラが向くと無意識に得意の角度と完璧なスマイルを決める私しかいなかった。

2011-09-15 00:45:16
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 昔のラブレターは手書きだった、と言ってたおばあちゃん。メールだって手書きじゃん、と返したらニコニコしたまま何度も頷いてたおばあちゃん。ふと、そんなことを思い出しながら、わたしは今チョコを溶かしている。たぶん今おばあちゃんは天国でカカオ豆を収穫しているに違いない。

2013-02-10 13:26:35
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 結局今年も誰からも何も貰えなかった彼女は、自身からホワイトデーの概念を排除する。脳内の3月14日はやがて円周率となり、その無限の小数展開に身を委ねていたら、突然電話が鳴った。「義理アメくれてやるから今から出てこい」日付は変わっていたが構わない。円周率だって3だ。

2013-03-14 12:35:18
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 「月が綺麗だからと、不用意に携帯電話に収めるのは注意したほうがいい。画像に収まった月光は機械の誤作動を誘発するから。時々あなたの打った文面に意図せず心情が吐露してしまうのはそのせい。液晶を眺めて思いに耽ってしまう人も、一度改めて画像フォルダを確認したほうがいい」

2011-09-12 23:08:36
simmmonnnn @simmmonnnn

#twnovel 彼女のパスワードはよく変わる。「髪切った?」「その服可愛いね」他の誰にもログインさせない。「辛いよね」「力になるよ」親しくなるたび複雑になる。少し勇気も必要になる。「好きです」「結婚したい」そうして家族になって、やっとパスワードが固定された。「いつもありがとう」

2013-03-12 22:30:21