モータードリヴン・ブルース #1
蜘蛛の子を散らすように人々が走り去り、その十数秒後……車が降ってきた。放物線を描き、管理室の前の道路に叩きつけられたのだ。先程のサラリマンの車であったが、無関心なジョミタはそれには気づかなかった。KABOOOM!車は爆発炎上!ジョミタは口を開けた。「ア?」……悪鬼が現れた。 20
2013-03-19 22:25:03ジョミタは窓口から身を乗り出し、確かめようとした。ウォールルルル、ウォールルルル……下腹に響く不快な駆動音、そして炎上する車が発する熱、火の粉。ジョミタは目を凝らした。ウォールルルル……それは人間の二倍サイズはありそうな、鋼鉄製のゴリラじみた巨人であった。 21
2013-03-19 22:31:41「アーン?」ジョミタは瞬きした。「何かうるせえなマッポ?マッポか?」巨人は相当に不恰好であった。バイクのマフラーめいた巨大なパイプが複数、右肩を覆い、黒い煙を吐き出し続ける。警戒色ストライプに塗られた巨腕はただでさえボディに対してアンバランスに大きいが、拳はその腕よりも過大。22
2013-03-19 22:37:21左腕には巨大な歯車が装着されている。どうもそれはこの巨人にとっての盾のようなのだ。その表面には極太ミンチョ・フォントで黒く「モーター理念」と書かれていた。「モーター、何?」ジョミタは呟いた。「うるせえぞ、お前どっか行けお前」「ピガー!」巨人が頭部スリットから蒸気を吐き出した。23
2013-03-19 22:42:21「ドーモ、モーターサスガ、デス」「ア?」ビガビガ……音を立てて赤い複眼が威圧的に点滅した。「ネガティヴ。モーター理念ニ降伏概念ハ無い」「ア?」「ネガティヴ。モーター理念ニ降伏概念ハ無イ」「ア?」「エラー。質問ガ、ループ」「ア?」「排除!」ガゴン!腰部がシリンダーじみて伸びる!24
2013-03-19 22:50:13「アー、うるせえうる」「イヤーッ!」KRAAASH!モーターサスガは右腕を振り下ろす!管理人室が石油缶めいてひしゃげる!「アバーッ!」圧死!「イヤーッ!」さらに横薙ぎに繰り出すは左腕の歯車盾!高速回転している!ギュガガガガ、火花が弾け飛ぶ!管理人室を水平切断!ナムアミダブツ!25
2013-03-19 22:57:58ギュウイーンインインイン、奇怪なサウンドを響かせ、モーターサスガは震動した。ガゴン!シリンダー状の腰部が音を立てて収縮。ガゴン!腕が付け根部分で折りたたまれ、背中に沿う形で収納。歯車盾がスライドし、背中に負う形となる。ガゴン!脚部がそれぞれ回転し、逆関節状に変形。 26
2013-03-19 23:07:15逆関節脚部が悲鳴のような軋み音を発し、さらに折り畳まれる。カエルが寝そべったような姿勢だ。そこにあるのはもはや巨人ではなく、不恰好極まるスクラップ車両めいた物体だ。接地部分に車輪でもあるのか、おもむろにそれは走行を開始する。ボディを……車体を軋ませ、モーターサスガは逃走した。27
2013-03-19 23:13:34デッカービークルに乗ったシンゴとタバタが破壊と沈黙の現場に到着したのは、そのほんの数分後の事だ。シンゴは窓から身を乗り出し、驚き呆れて、叩き潰された管理人室を見やった。「何だこりゃ」「電柱の次は掘っ建て小屋ですか」とタバタ。「逃げ足早いなあ。どうしたもんですかね?」 28
2013-03-19 23:20:23「どうッてお前、クルマ、それから小屋」シンゴは指さした。「レスキュー呼べ」「既に呼んでます!痛てッ!」シンゴが丸めた雑誌でタバタの頭を叩いたのだ。「この先!検問は!」「張らせてますけど、間に合わないかも知れませんね、あ痛て」シンゴはタバタを再度叩き、車外へ出た。29
2013-03-19 23:25:17「こりゃ一目でアレだ」シンゴは管理人室を前に顔をしかめる。潰れた窓から腕がはみ出している。「デスネー、クルマの方も……」タバタが親指で背後の転倒車両を示す。BOMB!車体が再び何かに引火して爆発!シンゴとタバタは親指を無言で凝視した。 30
2013-03-19 23:34:15大通りにはいつの間にか野次馬の人だかりが生じている。近隣の人々が遠巻きに惨状を眺め、あるいは撮影を試みる。「御用!御用!」マッポビークルが割って入り、中から数人のマッポが降り立つと、「外して保持」テープによる隔離を手際良く行う。何ともなしにそれを眺めたタバタの目が細まった。 31
2013-03-19 23:41:29「タバタ……あン?」シンゴは訝しんだ。タバタは人だかりを押しのけ、路地裏さして走り出していた。シンゴはマッポに二言三言指示を出し、それを追う。「どうした、オイ」タバタは全力疾走である。角を曲がろうとして、残念そうに首を振った。「どうした」「撒かれました」「何にだ」 32
2013-03-19 23:49:40「いえね、野次馬の一人が、スッと離れたんですよね」タバタは説明した。「せっかく見にきて、もう少しダラダラするでしょ、普通。もう用は無いって様子、あんまりしっかりしてたもんで。何だかこう」「……どんな奴だ」「背が高くて、トレンチコート、ハンチング帽です」 33
2013-03-19 23:53:09