- uedYANKEEE
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そのガキは、親戚の家に遊びに来ていたところで母親とはぐれたらしい。母親を探して歩き回っているうちにはぐれた場所も見失ってしまったと言う。
2013-03-29 08:30:07探してやると言っても、どこではぐれたとか、親戚の家がどこだとか、カズに聞いてもよく分からねえらしい。まあそりゃあ、見知らぬ土地だから仕方ねえよな。
2013-03-29 09:15:05申し訳無さそうに俯くカズに気にすんなと声をかける。「どっちからここまで歩いてきた?」「…あっち」カズが指差したのはこの辺で一番大きいデパートのある方向。
2013-03-29 09:30:11この辺りにケーキ屋はたくさんあるけれど、俺は、一際大きくて有名な店がデパートの中に入ったんだと、母親から聞いたのを思い出した。「カズ、一回デパート行ってみるぞ」
2013-03-29 10:00:18デパートに向かって歩いていると、後ろでべたっと鈍い音がした。振り向くと、カズが転んだらしい、地面に手をついて必死に泣くのをこらえている。
2013-03-29 10:15:06「カズ、痛いか?」「……いた、くない」「カズは強いな」こぼれる直前の涙を拭ってやって、えらいえらいと頭を撫でてやると、カズはくしゃっと顔を歪めてわらった。
2013-03-29 10:30:08「一応傷は洗わないとな」近くの公園に寄って傷口を水で流してやる。水がしみたらしいカズの瞳にまたじわりと涙が浮かぶけれど、泣くことはしなかった。
2013-03-29 10:45:06「どうした、カズ?」「あ、…オレ、がんばった?」「…うん、がんばったよ、えらいな」俺はカズが何を求めてるのか分かった気がして、カズの黒髪に手を伸ばす。
2013-03-29 11:15:06年下の扱い方なんてよく分からないけど、とにかく優しく、柔らかく頭を撫でてやると、嬉しそうに俺の手にすり寄ってきて、可愛いななんて思った。
2013-03-29 11:30:09俺は子供のころ、人混みが苦手だった。ホークアイの制御の仕方が分からなくて、周りの人間の動き一つ一つが視界に入ってきて、頭がぐるぐるして気分が悪くなる。
2013-03-29 12:01:13その日俺は、俺は母親と親戚の家に遊びに来ていた。みんなで近くのデパートまで買い物に行くことになったらしい、「ケーキを買ってあげるから」と、俺も一緒に行くことになった。
2013-03-29 12:15:08知らない土地、街並み、大勢の人。俺は視界が回ってよろける。遠ざかる母親の後ろ姿、気分が悪い、声が出ない。俺は母親とはぐれてしまった。
2013-03-29 12:30:07人ごみにいるのは気分が悪くて、人混みを避けながら、けれど母親たちが向かったと思われる方向に歩いていく。いつの間にか、元いた場所も、今いる場所も、分からなくなっていた。
2013-03-29 12:45:07「どうした、迷子か?」俺が怖くて、心細くて泣いていると、聞きなれない高い声が聞こえた。見上げると、きらきらひかる髪に、はちみつ色の大きな瞳、子供ながらに綺麗だななんて思ったりして。
2013-03-29 13:00:11「おまえ、名前は?」「…カズ」「カズ、な。俺も一緒におまえの母さん探してやるから。…ほら、もう泣くな」涙を拭う手があたたかくて、優しくて、俺はなんだか嬉しくて笑っていた。
2013-03-29 13:15:06デパートに向かうことになって、金色の少年の後ろを歩いていると、俺はうっかり転んでしまった。地面と擦れた膝が痛い。涙がにじむ。「カズ、痛いか?」けれど、上から降ってきた優しい声に、痛くないと強がりを言った。
2013-03-29 13:30:06唇を噛みしみて涙をこらえていると、「カズは強いな」と、少年が俺の頭を撫でた。いつも撫でてくれるお母さんに比べたらその手は、ぎこちなくて、たどたどしいものだったけど、俺はそれがくすぐったくて、気持ちが良かった。
2013-03-29 13:45:07少年に連れられて、公園の水場で傷口を洗う。水がしみて痛かったけれど、少年が俺の瞳をじっと見つめていたからぐっと涙をこらえた。少年は、よく泣かなかったなって笑ってくれた。
2013-03-29 14:00:22けれど、その手が俺の頭に伸びてくることはなくて、俺は無意識に彼の服の裾を引っ張ってしまっていたらしい。けれど、「どうした、カズ?」とこちらを向く彼の声は柔らかくて。
2013-03-29 14:15:07