#106 高緑リレー小説

倉田、あさひ、すみれの3人による高緑twitterリレー小説 ゆる~くまったり進行中
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高緑

倉田 @cla_tam

憂鬱な日、特に雨が近づく月曜日にはサイダーが似合う。だんだん湿り気を帯びて重たくなる空気も鬱屈した気分も、泡と一緒にはじけてしまうからだ。少し迷って自販機の同じボタンを2度押した高尾は片方の缶を左手に、もう片方を右手に持って、緑間の首筋に当てた。 #106

2013-04-08 13:22:45
旭(あさひ) @k_ash082

微かに跳ねた肩に少し愉快な気持ちになったが、すぐさまじとりと向けられた剣呑な目に苦笑いを返す。彼も今朝からどうやら機嫌が悪い。不快げに首元の水滴を拭いながら、眉間には深い皺が刻まれていた。緑間の不機嫌は、高尾のそれとは理由が違うようだが、高尾にはどうにも心当たりがない。 #106

2013-04-08 21:35:16
DJすみれ @smile082010

「雨への備えか?」 受け取った缶のプルタブに指をかけながら緑間が言う。 「お前は雨が降る前に必ずサイダーを飲みたがる」 天気を高尾で占っているかのような口振りに高尾は破顔して「なにそれ、猫が顔を洗うとみたいなやつ?」とおどけた。喉の奥で炭酸が弾ける。 #106

2013-04-09 02:49:41
倉田 @cla_tam

「つーか真ちゃん、おしるこはいいの」プルタブを開ければ高尾の面食らったような声がする。「今日はこれでいい」「なんで」お前が雨の度にこれを飲むから、と思って少し開きかけた唇に緑間は缶を当てた。「お前がおしるこ飲まないなんてマジで雨降りそう」甘い泡が弾ける毎に雲が広がった。 #106

2013-04-09 11:00:49
旭(あさひ) @k_ash082

今日の降水確率を知っているか。呆れ混じりの言葉に、オマエよりは真面目に天気予報を見ているよと高尾は唇を尖らせた。それでもな、と高尾は缶のふちを指でなぞる。「あー、炭酸で雲が吹っ飛ばねーかな」「……逆のことを考えるんだな」「逆って?」首を傾げながら、けらけらと高尾が笑う。 #106

2013-04-09 23:51:23
DJすみれ @smile082010

その笑い声は雨雲を蹴散らすかのような乾いた鳴子の音に似て、冷たい缶の口からしゅわりと抜け出る炭酸と共に空高く昇っていく。高尾のサイダーが雨を呼ぶと思う緑間と、サイダーで雲を吹き飛ばしたいと願う高尾。 湿った空気の匂いを感じながら、金属の味に近いサイダーを飲む。 #106

2013-04-10 17:08:13
倉田 @cla_tam

「真ちゃんは雨、嫌い?」「好きではない」「じゃあさ」高尾は飲みかけのサイダーの缶を脇に置いた。「雨が好きになるようにしてやるよ」「は?」眉をひそめる緑間に構わず立ち上がった高尾は片方の革靴を脱ぐ。「俺の靴が裏返ったら雨だ。雨が降ったらお前は俺ともっと長く一緒にいられる」 #106

2013-04-13 10:43:23
旭(あさひ) @k_ash082

真面目な声音に緑間の反応が一拍遅れた。踵を浮かせた方の靴の爪先を地面に付けながら、高尾は上機嫌に目を細めてみせる。「な、真ちゃんが望む通りになるぜ?」「……高尾の望む通りになるのだよ」どっちみち。高尾は笑いながら、開けた校庭、曇り空の方へ向けて、足を後ろへ大きく引いた。 #106

2013-04-18 22:08:15
DJすみれ @smile082010

蹴り出した足から放られた革靴は、なめらかな曲線を描いていく。四つの瞳が真剣にそれを追う。 最高点を通過し、放物線が0に近付く。 音を立て地面に着いた革靴は一度大きく跳ね返り、ころころと転がった。 「ほら、好きになった」 雨を、とは言わなかった。俺を、とも言わなかった。 #106

2013-04-20 21:08:15
倉田 @cla_tam

缶を置く音がして、高尾の視界の端で深緑が揺れた。灰色の校庭に緑間の髪とYシャツの白がまっすぐな軌跡を描いていく。呆気にとられているうちに走って戻ってきた彼は、高尾がぶらつかせていた片足の下に革靴を置いて笑った。「まったく、よく当たる占いなのだよ」髪の先から雨粒が落ちた。 #106

2013-04-24 21:28:36
旭(あさひ) @k_ash082

何故か笑えてきて、高尾は噴き出す。高尾が靴を履くのを腕を組んで見下ろしていた緑間は、背後で勢いを増し始めた雨の音に眉を顰めた。土の湿る、濃い雨のにおいが空気を満たしていった。「真ちゃん、靴、ありがと」高尾は俯いたまま、何となく顔を上げるタイミングを見失っている。 #106

2013-04-29 19:19:38
DJすみれ @smile082010

水銀が空を割り、遅れて音がやってくる。ハッと顔を上げ目を合わせた二人はどちらともなく笑った。「これからどうする?俺ん家に来るか俺ん家に来るか、俺ん家に来るかだけど」「なんだそれは」「選択肢はひとつってこと」「なら聞くな」雨とサイダーの月曜日は、甘く透明で健全だ、たぶん。#106

2013-05-06 19:26:13