Bye Bye White Wizard

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】バイバイウィンドウィザード 伊坂幸太郎氏の『バイバイブラックバード』のパロ空折です。苦手な方はご注意ください。 頭に【BBWW】とついていたらこれです。 例によってたぶん途中途中で止まる。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 ワイルドタイガーの話 スカイハイと言えば今や、常にランキング上位を争う人気ヒーローの一人であるが、彼がデビュー当初からそうであったかと問われれば、それは違う、と虎徹は答えるだろう。 新人にはありがちな話だが、初めのうちスカイハイには、周りが見えていなかった。

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【BBWW】 それは今も変わっていないのではないか？ 会話や場の雰囲気を理解せず、一人ズレた事を口にしては、後で説明してやるからと窘められるところは今も健在…いや、その症状は悪化の一途を辿る一方なのでは？ それについても否定は出来ない。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 だがそれは、あくまでも空気が読めないという意味であって、周りが見えていない、とはわけが違う。 今も昔もスカイハイは場の空気が読めないし読まない男だ。 そしてかつてのスカイハイは、周囲の状況も見えていなかった。 これは、そういう話だ。

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【BBWW】 空を飛ぶという、他の追随を許さない圧倒的な機動力でもって、スカイハイは現場を所狭しと飛び回り、活躍し、あっという間にランキング上位へと駆け上っていった。 けれども虎徹はその様子を地上から見上げながら、「もったいねぇなぁ」と呟いたのだ。

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【BBWW】 「もったいねぇなぁ、うん、もったいねぇ」 「え、え？ もったいない、とはどういうことだい？」 「いや、だってさ。おまえせっかく空飛べんのに、ビューっていってぐわーっとやってかーくほーっつって、毎回それでおしまいだろ？ それってもったいなくねぇか？」

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【BBWW】 「だって飛べるんだぜ？ 俺達にゃあ出来ねぇ芸当じゃねえか。高いところから現場の全部見渡して、あっちで人が倒れてる、こっちじゃ犯人が逃げようとしてるっつう情報が、全部手に取るようにわかるってのはすげぇよ。無い物ねだりしてもしょうがねぇけど、俺も空が飛べたらなぁ」

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【BBWW】 虎徹は深く考えて口にしたわけではなかったが、この時交わした会話が、スカイハイのヒーロー観に大きな影響を与えた。 はっとした様子で口をつぐんだ彼は深く考え込み、思案し、そうして一つの答えを見つけたらしい。 その次の出動から、スカイハイの行動はめざましく変わった。

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【BBWW】 今までの猪突猛進な行動とはうって変わり、上空からの索敵・状況把握・その機動性故の素早い対処や的確なサポート。時にライバルヒーローにポイントを譲ってでも、現場をいち早く掌握し、ヒーロー全員に分け隔てなく、得た情報を共有しようとした。

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【BBWW】 いつしかスカイハイは、ヒーロー達の司令塔のような存在となっていた。彼が得た情報を元に、争い、時に協力し合い事件を解決へと導く。 それが、ヒーロー達のスタイルへと変化していった。 ポイント第一のスタイルを崩してなお、スカイハイはヒーローの頂点に君臨していた。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 KOH、キングオブヒーロー、ヒーローの中のヒーロー。スカイハイその人にこそ、その称号はふさわしい。 虎徹ももう、スカイハイが周りの見えない男だとは思わない。相変わらず空気が読めないところはどうやったって直りはしなかったけれど、それもまたあの男の魅力の一つなのだろう。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「ワイルド君、私はね、ヒーローというのは私の天職だなぁと、最近強く思うんだ」 初めてヒーローアワードでKOHの座を射止めた時、スカイハイは少しはにかみながら照れくさそうにそんな事を言っていた。 「初めの内はね、ヒーローとしての自分がよくわかっていなかったんだ」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「私達の行動は全てポイントに加算されて、自分がどれだけ事件解決に貢献出来たのかが一目で見てわかる。このシステムはとても面白い、そして興味深いね。だけどそうすると、数字には繋がらない部分でのヒーロー活動は全て意味をなさない、無用の長物という事になるのではないだろうか」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「私はいつもそれが不思議でならなかった。評価される為に、ヒーローになろうと思ったわけじゃない。けれども会社からはどうしても、多くのポイントを得るようにと期待されるのだしね。…だけど、ワイルド君に教えられて、ポイントだけが全てじゃないと気付けたんだ」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「私にしか出来ないヒーローの在り方を教えてくれたのは君だよ、ワイルド君。ありがとう、そしてありがとう！ そして今、自分の信念が間違っていなかったのだと…こうしてキングの称号を得られた、その事をとても嬉しく、そして誇らしく思っているんだ」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 はにかみながらそう言ったスカイハイはひどく嬉しそうだったから、虎徹もなんだか嬉しくなって、「そりゃ良かったなぁ」と頷いたのだ。 ポイントを競い合った相手だ、負けて悔しいはずなのに、その日はまるで自分がKOHに輝いたかのように、幸せな気持ちになったものだ。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「私はこれからも、ずっとヒーローを続けていきたいと思っているよ」 トロフィーを片手に誇らしげに胸を張り、そう言ったスカイハイの笑顔は輝いていたから、虎徹も「そうか、頑張れよ」とその肩を叩いたのだ。 ああ、それなのに。 「そうか、ありゃあ嘘だったんだな」

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【BBWW】 ひどく白けた様子で虎徹がそう言った。 キースは咄嗟に「それは違う」と反論しかけたが、隣のイワンにすかさず鋭い視線で睨まれれば、慌てて口を噤むしかない。 「ええ、そうです。スカイハイさんときたら、本当は嘘の塊だったんですよ」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 淡々とそう告げるイワンの声は冷たく、この愛弟子はこんな話し方も出来るのだなぁとキースは妙に感心してしまう。 そんな事を口にすれば、他ならぬイワンにもっと冷たい声と表情で更に冷たい言葉を投げられてしまうのはわかりきっているので、やはりキースは何も言わない。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 キースはいつまでたっても空気が読めない男だったが、ことイワンの御機嫌を伺う事に関してだけは、ほんの少しだけ学習の成果が表れているのだ。 「スカイハイさんはですね、本当はちっともヒーローに向いている人じゃなかったんです。今までの成績だって、全部会社の指示に従っただけ」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「KOHになったのも、毎晩のパトロールも、現場であれこれ気を回すようになったのも全部ポセイドンラインのヒーロー事業部が出した指示です。この人は会社の操り人形だったんです。作られたヒーローってやつです、つまりは偶像です」 つらつらと、よくそんなに言葉が出て来るものだ。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 イワン君はすごいなぁ、頭が良いのだなぁと感心しながらうんうん頷くキースは、イワンが繰り出す言葉の数々がキースを傷付ける物ばかりだという事にもちゃんと気付いている。 だって、仕方がない。そういう風にしようと、他ならぬイワンと二人、きちんと話し合って決めたのだ。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「とにかくそういうわけですから、スカイハイさんはヒーローをやめる事になりました。そして僕と結婚して、これからは専業主夫になるんです」 きっぱりと、そしてはっきりと。イワンはそう宣言をする。 キースが皆の前から姿を消すにあたって、二人で考えた理由がそれだった。

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 キースが遠くへ行かなければならなくなった時、その報せをキースの元に持ってきた人こそが、他ならぬイワンだった。 いつもは俯き加減であまりこちらを見てはくれないイワンが、眉間に皺寄せ、不信感も露わに言ったのだ。 「スカイハイさん、あなた、いったい何をしでかしたんです？」

かんころもち @ka_n_ko

【BBWW】 「あなたの口座は全て凍結されました。諸々の権利書や家財道具の一切も差し押さえの対象です。そして、あなた自身の権利まで――本当に、いったいどうしたらこんな事になるんですか？」 「さあ…なんだろう。私にもよくわからないんだ」 それが、嘘偽らざるキースの本音だった。