友野詳氏の「シャハルサーガ 第3部」 ストーリー版

友野詳(@gmtomono、連載は@syahalsaga)氏によるルナル世界を舞台にした新作Twitterノベル「シャハルサーガ 第3部」のまとめです。 こちらは「採用された物語」だけを纏めて、ストーリーを追いやすくする事を目的としたリストです。 「採用されなかった選択肢」なども含めて全てを読まれたい方は、 http://togetter.com/li/488909 をご覧下さい。 第2部 全部入り:http://togetter.com/li/460078 続きを読む
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シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

蟹が、武器を踏みつけていたのだ。龍切り包丁と呼ばれる、超大型の刃物。海神リャノの信徒だけが使いこなせる、人間の身長ほどもある刃だ。アリクは身をかがめ、蟹の足もとに飛びこんだ。龍切り包丁を飛び越え、蟹の背側に転がり出る。「行き過ぎてどうすんだ!」船長が怒鳴った。 #シャハル3 45

2013-04-27 22:32:53
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「こうするんです!」大きく重い龍切り包丁は、アリクの腕では、持ち上げるのも難しい。飛びこんだ向こうで身を縮め、両足で峰を蹴って、包丁を船長のほうへ滑らせた。そのためにも、アリクは、蟹の注意を引いて、踏みつけている脚を動かさせる必要があった。 #シャハル3 46

2013-04-27 22:33:56
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

飛び越えたやつと左右、あわせて三匹の蟹が、アリクに殺到する。アリクは、手足で砂をはねあげた。泡をしたたらせる蟹の口もとや、突き出た眼柄にあびせかける。砂漠の民にとっては、定石といえる目潰し戦術だ。四肢をフルに使って、砂上をすべるように移動する。 #シャハル3 47

2013-04-27 22:34:47
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

ふりおろされたハサミが、アリクの体をすれすれにかすめて、次々と砂浜に突き刺さった。右へ左へ転がったが、三匹相手はやはりキツい。右脇腹、続いて左のふくらはぎに、鋭い痛みが走った。砂浜を血が染める。船長を見る余裕はないが、状況はわかっていた。 #シャハル3 48

2013-04-27 22:36:07
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「右だ。左だ。腹を叩き割って、カニミソだが食ってるヒマはねえ! ほら脚だ!」船長は『常にざわめけ』という教えの通り、動きの全てを実況している。彼のあれが、海神リャノとしては異端の教えでよかった。すべてのサリカ信者があの調子なら〈港〉はうるさくてたまらない。 #シャハル3 46

2013-04-27 22:37:22
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「よっしゃああ、一匹、片付けた。残りも、もうちょいだあ。いてえ、右肩に刺さったぞ、このやろう!」 #シャハル3 47

2013-04-27 22:37:37
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

船長が、龍切り包丁で、二匹を解体したとして、こちらを助けてくれるだろうか。このままでは止めるユーディアなしで〈悪魔〉化してしまう……アリクが不安を覚えた、その時。ハサミをふりおろそうとした巨大蟹の眼が、いきなり燃え上がった。続いて、ハサミに氷がまとわりついた。 #シャハル3 48

2013-04-27 22:38:34
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「アイーーリィーーー!!」という雄叫びが、いくつも聞こえた。さっき、砂浜の、海と反対側が密林になっているのは気がついていたが、そちらから聞こえてくる。どうやら、この島の住人が出現したようだ。しかし、炎や氷を操るとは何者だ。助けだと思っていいのだろうか? #シャハル3 49

2013-04-27 22:39:55
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「やつらはやべえ!」と、答えは船長からやってきた。「このあたりの島のシャロッツは、大のよそもん嫌いだぞ!」。異能の角、あるいは異能の目を額に持つ、蹄持つ小柄な種族。それがシャロッツだ。一難は去りかけているが、さて、このもう一難は……。 #シャハル3 50

2013-04-27 22:40:24
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

#SSG選択 「面白くなってきやがった。こうなりゃ、やるしかねえな。小僧はこれを使いな」逃げだした蟹を放置して、船長がシャロッツたちに向き直る。ちぎったハサミを武器にさしだしてきた。「なあに、交渉は強気に限るんだ」……やる気満々にしか見えないのだが。 #シャハル3 51‐B

2013-04-27 22:44:01

通し番号のエラッタ

シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

あー、通し番号がずれてる……。すみません、二度目の46以降49、50、51、52,53ですね。今回の選択肢の通し番号は54です。もうRTしてくださってる方もおられるので、アップのやりなおしはしないでおきます。やっちゃった……ごめんなさい。 #シャハルサーガエラッタ

2013-04-27 22:48:42

第3部 第4夜

シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「いいか、蹄野郎ども。素直に俺たちを助けねえと、無駄な血が流れることになるぜ! てめえらだって、そんなこたあ望んでねえだろう!」モッガン船長が、龍切り包丁を頭上で振り回しながら、大声で怒鳴った。返事のかわりに、無数の投げ槍がふってきた。 #シャハル3 55

2013-04-30 22:54:33
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「うおっ!」船長は、アリクの首ねっこをつかんで、巨大蟹の陰に飛びこんだ。槍が、カカカカンと軽い音をたてて、はねかえる。巨大蟹の甲羅を貫通する威力はないらしい。船長は、髭をふるわせて唸った。「くっそ! これだから双子の月に導かれてない連中はやっかいなんだ!」 #シャハル3 56

2013-04-30 22:54:57
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「槍ですんでよかったじゃないですか。魔力の視線だったら、もっと大変なことになる」シャロッツ族は、額にある第三の目から、さまざまな魔法的効果を持つ光をはなつ。シャロッツなら誰だって使えるわけではないが、蟹の葬られ方からして、使えるのは四、五人はいそうだ。 #シャハル3 57

2013-04-30 22:55:15
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

槍は続けて飛んではこなかった。むやみにつっこんできたりもしない。だが、小柄なシャロッツ戦士たちは、この場を離れるようすもない。船長は、龍切り包丁に髭面を映しつつ、呟き続けながら、どうするべきか考えている。「……やつらめ。素直におじけづけばいいものを……」 #シャハル3 58

2013-04-30 22:56:13
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「おい、小僧? 何してんだ?」「龍切り包丁のほかに、いろいろ流れ着いてたんですよ」アリクは、忙しく手を動かしている。重い鋼の刃を持つ龍切り包丁が、沈まず単独で流れつくわけはない。木箱に入って流れついてきたのだ。それを、巨大蟹どもが踏み砕いて、ころがり出た。 #シャハル3 59

2013-04-30 22:56:54
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

その木箱には、ほかにもいろいろと入っていた。台所で使っていた香辛料壷もそのひとつだ。炎は、まださっき燃え上がった蟹の肉体がくすぶっている。それに、木箱に使われていた砕けた木材を重ね、アリクはふうふうと息を吹きかけた。蟹のちぎれた脚を、木の棒に突き刺す。 #シャハル3 60

2013-04-30 22:57:54
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

時間はあった。幸い、シャロッツたちは、さっきの船長の言葉を警戒しているおかげ、近づいてこないからだ。だが、あの言葉のせいで、アリクと船長を放置して離れようともしないでいる。そのシャロッツたちの表情が変わったのは、あたりにただよう煙の匂いを嗅いだ時だった。 #シャハル3 61

2013-04-30 22:58:44
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「小僧、何してんだあ! そんなことしてる場合か!」モッガン船長に怒鳴られても、アリクは平然としていた。「……いろいろ経験したので。追いつめられた時ほど、眠るのと食べるのが大切って、学びました」アリクは、香辛料を、絶妙の分量で混ぜ合わせ、蟹肉にふりかけた。 #シャハル3 62

2013-04-30 23:00:04
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

蟹の肉が焼ける匂いと、香辛料の香りが、食欲をそそる煙になって、あたりに広がった。「はい、船長。まずどうぞ」「おまえ……おまえなあ! リャノの信徒として、ひとのもてなしを断るわけにいかんだろうが! こんな時でも!」 がぶり、と船長が蟹肉のあぶり串をかじる。 #シャハル3 63

2013-04-30 23:00:55
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「あなたたちもどうですか」アリクは、無造作に立ち上がった。両手に、焼きあがった巨大蟹の肉を持っている。槍も、魔法の視線も飛んでこなかった。視線そのものは集まっている。よだれをしたたらせた、シャロッツたちの視線が。もちろん、蟹肉に。 #シャハル3 65

2013-04-30 23:01:21
シャハルサーガ/アローディア @syahalsaga

「この島のもの、すべて、我らのもの!」「そもそも我らのもの! どうですか、言うな!」シャロッツたちは、アリクを脅かそうとしている。だが、よだれをしたたらせては、迫力がない。シャロッツは欲望に忠実だ。憎悪や嫌悪など、食欲の前には吹き飛ぶ。そう月が導いた種族だ。 #シャハル3 66

2013-04-30 23:01:38
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