深夜の怒りの風景

何故か泣いた。俺も卑怯者だから。
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平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー1 けばいネオンと雑踏の金曜日の西新宿を抜け私の赤いチャリは神田川沿いに出る。誰もいない静かな運河の流れの中で突然の激しい女性の怒りの声を聞いた。20代後半か?髪の長い女性が、泣きながら電信柱、街路樹、停めてある自転車を片っ端からけっ飛ばしているのだ。

2010-09-11 00:32:02
平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー2 「ふざけんな! 馬鹿野郎! だましやがって! 卑怯者!」と荒れ狂っている。自転車が数台倒れた。「ガシャ!」。彼女の眼には涙が光っていた。多分少しは酔っぱらっているのだろうけど、泥酔者ではなかった。全身全霊をかけたそれは激しい怒りだった。見物人は私一人だ。

2010-09-11 00:34:44
平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー3 私は自転車を停め、しばし呆然と彼女を見ていた。本当は彼女の話し相手になってあげたかった。でもそんな声をかける勇気はなく、ただただ彼女の怒りの諸動作を眺めるばかりだった。いつの間にか私は、なぜか自分が責められているような気分になった。「そうか俺は卑怯者か」

2010-09-11 00:37:47
平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー4 過去何十年もの間の自分の「卑怯者」な数々の行いが、走馬燈のように私の頭の中を駆けめぐった。「出会いと別離」「人生を決定するだろうその瞬間」私はいかに卑怯者だったかを。偶然、深夜の街角で耳にした見も知らぬ女性の言葉に愕然としていた。

2010-09-11 00:42:24
平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー5 深夜の誰もいない銭湯で、ほんの小さな露天風呂に入りながら「意気地なし……卑怯者」って言ってみた。あの白スーツの女性は今何をしているんだろう? って思った。同時に、さっきまで一緒に飲んで私の能書きを聞いてくれていたうら若き女性を思った。

2010-09-11 00:45:20
平野悠 @yu_hirano

深夜の怒りの風景そのー6 シャッターが半分降りた銭湯を出て、私は自転車にか細い心を積んだ。細い暗い道路で、年老いた作業員がランプを振っていた。工事中の赤いランプを振る姿になぜか感動した。なぜなんだかわからないが思わず、「ご苦労様です」と言った。こんなこと、初めてのことだ。(終)

2010-09-11 00:47:21