ゼア・イズ・ア・ライト #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐らく相手もまた勘付いたはずだ。フジキドがニンジャであるということに。どうすべきか?この者はどんなニンジャか?衝撃と困惑が彼の判断力を鈍らせている。イクサの中でナラクの意識が表層に浮かび上がっている状況であれば、間違いなく叱責と殺害の教唆がニューロンをどよもした事だろう。 26

2013-05-05 12:26:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」やはり、似ている。だが……別人だ。目の前のこのニンジャはフユコではない。当然の事だ。そしてフユコに姉妹はいない。他人だ。フユコよりも若く、怜悧な目元の印象が随分違う。他人なのだ。フジキドはほとんど打ちひしがれたようになっていた。「私に、なにか?」女が尋ねた。 27

2013-05-05 12:39:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いえ」フジキドはかぶりを振った。思えば女の質問もこの状況下でややおかしなものだ。だが、訝る余裕は無い。「それより怪我は無かったですか」フジキドは訊き返した。「ありがとう。ありません」女は笑みを浮かべた。茶番じみている。互いにニンジャであると勘付いていながら。 28

2013-05-05 12:47:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このニンジャは何者であろう?彼は様々な記憶下のニンジャを思い巡らす。タカギ・ガンドー。ウミノ・スド。シルバーキー。ヤモト・コキ。クラクズー。レッドハッグ。……フィルギア。或いは、ダークニンジャ、ラオモト・カン……アガメムノン。アマクダリ・セクトのニンジャ。彼の目が険しくなる。29

2013-05-05 12:53:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

女はフジキドのアトモスフィア変化に身を硬くし、壁に背をつける。フジキドは我に返る。「ここを離れたほうがよい」彼は気絶した逆チョンマゲ男を見下ろす。殺してはいない。「そうですね」女は頷いた。そして何か思いついたように、悪戯っぽい笑みを浮かべた。「ねえ、お礼をしたいわ。御茶など」30

2013-05-05 13:03:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「結構です」フジキドは断った。そして歩き出した。「そう仰らずに」女は食い下がった。「私、コヨイです。あなたは」「……イチローです。お気をつけて。よいお日和を」「イチロー?本当のお名前は?」コヨイはフジキドの隣を歩いた。「隠しているの?」 31

2013-05-05 13:18:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よしたがいい」フジキドは呻くように言った。そして付け加えた。「ニンジャ同士。これ以上詮索はすまい」おお、ナラクの意識があれば何と罵った事か。コヨイは言う。「そう、ニンジャ同士……ただお話がしてみたいだけです。イチロー=サン。イチロー=サンでいいです。名乗らないでも」「……」32

2013-05-05 13:22:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カコーン。バイオ鯉を泳がせる人工の池に設置されたシシオドシが、電子的にアンプリファイされた音を響かせる。人工池を囲む、バンブーノレンで区切られた複数のテーブル。ソルスティスはアイス・チャを運んできた給仕に頭を下げ、対面のイチローを眺める。 34

2013-05-05 13:38:15
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イチローは渋い表情だ。帰りたくて仕方がないのだろう。だが、ソルスティスは何らか「訳あり」のこの男とのやり取りそのものを愉しんでいた。なにしろ、思いがけずこの男に彼女の気晴らしの邪魔をされた事が、そもそもの発端なのだ。このぐらい、付き合わせてもよい……。 35

2013-05-05 13:47:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カコーン。シシオドシが再び鳴る。電子的増幅は下品だ。ワビサビの演出が中途半端なのである。比較的静かな店を選んだものだが、繁華街ではこれで致し方なしといったところ。本物とは……夫であるアガメムノンとのあのアイサツの場のような。息詰まる程に瑕疵の無い。アガメムノン自身のように。 36

2013-05-05 13:59:11
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やや遅れて、イチローには熱いチャが運ばれてきた。「……」イチローは黙ってチャを飲んだ。彼の隣の椅子には紙袋が置かれている。買い出しの帰りなのだろう。ソルスティスを助ける際、一度地面に投げ出した紙袋だ。咄嗟の事で、彼女がニンジャであるとは思いもしなかったに違いない。 37

2013-05-05 14:28:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私、フユコという人に似ているのですか?どんな方?」ソルスティスはイマジナリーカラテ・トレーニングめいて、ニューロン内の仮想で問いかける。イチローの顔は凍りつくだろう。彼女はそんな問いを不用意に投げるような愚か者ではない。あの場でフユコの名を口にした彼の、困惑と憔悴の色。 38

2013-05-05 14:44:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かわりに彼女は別の問いを投げる。「ニンジャのあなたが、どんなお仕事を?」「このような場で人に言うような仕事でもありません」「そうでしょうね」ソルスティスは頷いた。「他にもニンジャのお知り合いが?」「……」イチローはチャを飲んだ。そして訊いた。「貴方はどうなのです」 39

2013-05-05 14:49:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ソルスティスは目を細めた。「その質問はそのように……返されますわね」短く息をつき、「時々そぞろ歩きをします。息苦しくて」「そして、目についた人間を、こうして連れてくるのですか」「フフッ」彼女は笑った。「だって、ニンジャが助けに来てくれたんですもの。なかなか無い事よ」 40

2013-05-05 15:26:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は紙袋を指差した。バケットが突き出ている。「他には何が?」「何でもないです」「だって、落とした時になにか壊れていたりしたら。私のせいです」「チャですよ」イチローは遮り、馬鹿正直に袋から円柱形のチャの瓶を取り出し、テーブルに置く。「ほら」「ぷっ!」彼女はこらえきれず笑った。41

2013-05-05 15:37:57
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「なにかおかしいですか」イチローはやや憮然として問うた。「いえ……ごめんなさい、く、く、く、」堪える程に、ソルスティスは笑ってしまう。笑いながら彼女は涙を流した。「違うの、バカにしたんじゃないんです、本当です」眼鏡を取り、涙を拭った。「本当よ」「……」イチローは肩をすくめた。42

2013-05-05 15:47:04
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二人のどちらかが、続く言葉をなにか発せようとした。……イチローの瞼がぴくりと動いた。彼は呟いた。「下……外の通りが。騒がしいですね」この店はビルの五階……その直後!「アバーッ!」「アイエエエ!」KRAAAASH!喧騒は明らかな事件じみた悲鳴とガラス破砕音に取ってかわられる! 43

2013-05-05 16:28:28
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椅子から立ったイチローは窓に顔を近づけ、通りの様子を見下ろす。BLAM!BLAM!逃げる男が振り返り、繰り返し発砲するたび、通りの人々は口々に悲鳴をあげた。イチローは目を細めた。通りを横切り、反対側の路地へ逃げてゆくその男に、もう一人別の者が続く。イチローは呟く。「ニンジャ」44

2013-05-05 16:32:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ソルスティスはイチローの肩越しに大通りを確認した。彼女は唇を噛んだ。彼女はしめやかに身を引いた。男を追って路地へ入って行ったニンジャは、彼女が知るニンジャだ。アマクダリ・セクトのニンジャである!彼女は数歩後退り、自分の鞄を取ると、素早く身を翻した。アイサツも残さずに。 45

2013-05-05 16:36:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BLAM!BLAM!男は繰り返し引き金を引く。ニンジャは速足で真っ直ぐに近づいてくる。速足であるが常人の駆け足よりも速い!そして銃弾が当たらない!カチカチ……アウト・オブ・アモーだ!「アイエエエ、畜生ーッ!」男は拳銃を投げつける!「イヤーッ!」ニンジャはチョップで拳銃を切断!47

2013-05-05 16:40:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お、俺を殺したところで、データはデスクに送信済みだぞーッ!」男はニンジャに吠えた。タタミ二枚程度の幅しかない薄暗い路地、彼の絶望的な脅しは虚しく跳ね返る。ニンジャは歩みを止めず答える。「ハッタリだ。なぜならお前の端末はウイルス汚染済みだからだ!」「エッ……」「イヤーッ!」 48

2013-05-05 16:50:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」男は己の心臓を貫いたものを見下ろす。それは白く冷えた透明のボーである。男からは見えぬが、肩甲骨を割って背中から飛び出した先端部は、鋭利なヤリ形状である。男は震える手でそれに触れた。掌が貼りつく!「アバーッ?」それは氷!氷から作られたヤリだ!ニンジャが投げたのだ!49

2013-05-05 17:06:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア、アイエエエ、アバババーッ!」男の両掌の皮がべろりと剥がれ、赤い肉が露出!ナムサン!冷気!膝から崩れ落ちた時には既に絶命!ナムアミダブツ!「……」ニンジャは男を蹴って仰向けに裏返すと、懐から豚足を取り出した。身をかがめ、おもむろにそれを男の口に詰め込んだ。 50

2013-05-05 17:11:09