【真夜中、川べりの】福間健二 2factory33

福間健二 @acasaazul

真夜中、川べりの、黒い、草むらから、やせた男が歩きだす。濡れた、重い靴をひきずって。一本、二本、くるしい光に投げられる、ロープを巻いた棒を追う。撃つな。殺すな。生かしてやれ。ノイズじゃない。小さなテントのなかで生まれた「いのち」の音だ。（真夜中、川べりの１）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

北に向かった。土手のみち。なんども転落して。なんども歪み、なんども灰をあびて。でも、盗まない。星たちとの約束、眠れない管、雑草の眠りのなかを走る。取るな。引き抜くな。夢奪うな。一ミリ、二ミリ、アスファルトを突き破る芽の「純情」を信じる。（真夜中、川べりの２）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

それからずっと川のように流れてきた。死んだサムが歌い、何人もがカバーして、何人もが遠い北を思う。みんな、借り物。行き当たりばったり、波紋から波紋へのサンプリング。でも、自分に嘘はつかない。水際の、あがきつづける「未発達」にくちづけして。（真夜中、川べりの３）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

崖っぷち。「すばらしい世界」がつぎつぎに針金の身を投げる。踏みつぶす音と底の割れた靴を残して。１＋１は２の、２になれない。目ざめ、追いかける体には、歴史も地理もどうだっていい。死んだ森、ボール紙のベッドで寝たつめたさをおぼえているから。（真夜中、川べりの４）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

下へ、下へと。口笛だけの十七歳。その手錠にあらしを取り返し、サムの「きみはおれをゾクゾクさせる」をナイフにして。こじあける。釘、硬貨、水晶。必要なのは、術でも芸でもない。いいんだ。我慢するな。泣きはらした目にあいさつすれば、真夜中の虹。（真夜中、川べりの５）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

眠った。なぞっていない。藁の上、敵意のさざ波、からっぽの財布。無関心に通りすぎるトラックのライトに一瞬浮かびあがる、窓辺の争う影。それから何が滅びる。この血と夢のものがたりが終わっても次がある。長い、長い時間がかかる仕事をしているのだ。（真夜中、川べりの６）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

長い、長い時間がかかる。変化がおこるまでには。いくつもの川をわたって、心、ズタズタにして、息もできない。さびしい町。ひとつ、ふたつ、ひとりぼっちの柱が「虚無」を点滅させる。消さない。歩く。追いつめ、追いつめられて、信号、破裂するまで。（真夜中、川べりの７）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

一羽の小鳥、それからラジオの「土曜の夜なのに話し相手がいないよ」には、一瞬立ちどまった。でも、ごめん。走りつづけた。耳がジンジンして。ごめん、爆発する。後ろむきになりたい明日の、狂人たちの町を吹き飛ばして、武器は、人間であることだけ。（真夜中、川べりの８）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

さわってみろ、この石。人に使われた自分を責める灰色の時間がつまって、まだ熱い。ただ転んでいるんじゃなくて、なにかを踏んで転んでいるのだ。次は、自分が踏まれる。「割れる」と「裂ける」のあいだの迷路に落ちて。罠にハマって。サムは殺された。（真夜中、川べりの９）＃2factory33

福間健二 @acasaazul

悪いニュース。だまされない。本当じゃないことは本当じゃない。それだけ。弁解の多い草は枯れる。それで何が解決するのでもないとしても、ミスター、ミスターＤＪ、サムの歌をもっと！ 真夜中、川べりの、小さなテントのなかに奇跡を踊らせるために。（真夜中、川べりの10）＃2factory33