- Akiya_Kentar
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サルワーニ師によれば、人間と虎は臍の緒のようなもので繫がっているのだという。また、虎に向かって唱えるマントラには「おじいさん」あるいは「おばあさん」といった語りかけで始まるものが多い。虎と人間が、遠い昔に血を分け合った仲であるという伝承は、さまざまなかたちで残っている。
2013-05-19 20:37:10厳格な一神教であるイスラム教だが、精霊(ジン)の存在はながらくイスラム社会でも論争の対象になってきたし、土着の動物信仰や精霊信仰との溝を架橋するために、さまざまな逸話が構想された形跡がある。
2013-05-19 20:38:18たとえば、ムハンマドの従弟で娘婿、武勇をもって知られるアリの精子が地面に落ちて、そこから虎が産まれたという逸話。その虎たちは人を襲ったためにムハンマドの叔父のハムザによって杖で弱点の骨を砕かれた。動物の世界に還ることを誓わされた彼らは、そのとき以来森で暮らすようになったという。
2013-05-19 20:41:38ーハムザが砕いたハリマオの力の源は、トゥランクワッと呼ばれる彼らの骨の一片だ。それは、首にあることもあるし、脚にあることもあるが、他のどこの骨ともつながっていない。その小さな骨を砕かれると、彼らはたちまち力を喪ってしまう。
2013-05-19 20:44:20「昔、トゥロモンという王国があった。 トゥロモンの王はかねてから娘をムラボーの王に嫁がせたがっていたが、強大な虎の王国であるリムンダヤの王からの申し出を受け入れ、しぶしぶ娘をリムンダヤに差し出すことになった。
2013-05-19 20:49:11姫が赴いたリムン(虎の意)ダヤの国では、人々は、昼の間は人間の姿で過ごすが、夜になると恐ろしい虎の姿に戻り、夜な夜な王の宮殿に集まっては、シラットの修行にはげむのだった。
2013-05-19 20:50:20妃はそんな暮らしをたいそう恐がって、事あるごとにトゥロモンに帰りたいと願い出た。王はけっして首を縦に振らなかったが、妃を哀れに思って、虎から身を守る秘密の呪文を妃に教えた。 それでも耐えられなくなった妃は、ある日、トゥロモンに逃げ帰ってしまった。
2013-05-19 20:51:04戻ってきた娘からいきさつを訊いたトゥロモン王は激昂し、国中にいるすべての虎をただちに捕らえ、殺すべしとのお触れをだした。
2013-05-19 20:51:39雨期が来た。リムンダヤの王は、トゥロモンに軍勢を差し向け、妃を返すように迫った。戦いのさなか、トゥロモンの王は虎の姿をとったリムンダヤの王を討ち取り、勝利の証しに、その皮を剥いでみせしめに飾った。
2013-05-19 20:52:15戦はトゥロモンの勝利に終わったが、それからというもの、雨期になるたびに、リムンダヤの虎達は王の復讐のために、森の中の道を通ってトゥロモンに向かうようになった。
2013-05-19 20:53:03その道すがら、パントゥン・ルアスという小さな村があり、カリファ・サンガという聡明な女性が住んでいた。彼女は、トゥロモンに向かう虎たちに対して、この村を襲わずに通り過ぎてくれるのなら、一夜の宿と食事を差し出しましょう、と約束をした。
2013-05-19 20:53:49その申し出が受け入れられると、カリファ・サンガは、バナナの木を森との境界に植え、虎が立ち入らないための標とした。 また、それ以来人々は、パントゥン・ルアスの出であることを虎に知らせるために、白いショールを羽織り、杖で地面を三回突いてから森に足を踏み入れるようになった。
2013-05-19 20:55:20トゥロモンの土地はいまでも存在するが、リムンダヤが何処にあったのかを詳らかに語る古老はいない。ただ、おおよその場所から、現実の虎の移動経路と伝承が語る虎の道は重なっているようだ。虎が多く現れるのが雨期であるというのも、虎の生態と一致する。
2013-05-19 20:57:08トゥロモンからリムンダヤに嫁ぎ、人と虎の間の争いのきっかけとなった妃の名前は、彼女が虎の王から教わった呪文とともに、いまでも忌み言葉として口にすることが禁じられている。
2013-05-19 20:57:46ー虎も、木も、人も、お互いを学びあっていかなければならない。われわれが隣近所の人たちに対してするように、虎や、森の他の住人たちとも、つねに調和を保っていくよう心がけなければならないのだ。
2013-05-19 21:02:49