円城塔さんのツイッター小説をまとめて読みたかったのでまとめてみた。

23
前へ 1 2 ・・ 18 次へ
EnJoe140 @EnJoe140

「今年もサボテンの発情期がやってくる。互いに棘を飛ばし合って交歓している。間を通るのはとても危険だ。怪我をするのは勿論だし、それ以上の理由もある。片親にサボテンを持つ私がいうのだから間違いない」

2009-06-30 17:33:20
EnJoe140 @EnJoe140

「おきあがりこぼしが起きないので返品してみる。丁重な謝罪の手紙と一緒に新品が戻って来るがこれもやっぱり起きあがらない。目覚まし時計の横に置いておくと、一度は起きる。アラームを止め、また横になる」

2009-06-30 23:50:40
EnJoe140 @EnJoe140

「鞄が旅に出ることを決意する。道行く子供に襲いかかり、腹に収める。旅には人間がつきものだから。畳んだ翼を大きく広げ、飛びあがる。旅行鞄の大群は一時期空を埋め尽くすが、たちまちのうちに絶滅する。あまりに味が良かったせいで」

2009-07-01 22:27:13
EnJoe140 @EnJoe140

「大根おろし殺人事件はこの街はじまって以来の大事件だが、解決の目途は立っていない。人がサンマを食べるのを諦めるか、勢いで人をおろしきってしまうのは罪だとおろし金に納得させるか、そういう勝負だ。大体、紅葉おろしはサンマに合わない」

2009-07-02 15:01:38
EnJoe140 @EnJoe140

「赤ん坊が半分出かかっている。何か気の利いた台詞の一つも吐こうと思っていたが、そんな余裕はなさそうだ。出オチかと考えると泣けてくる。あんなに色々考えたのに。不甲斐なさに赤ん坊は泣く。周囲の人が泣いているのも、きっと失望したからだろう」

2009-07-03 13:14:01
EnJoe140 @EnJoe140

「もう流されて生きるのは嫌だと流れ星は思う。流れる途中で踏みとどまる。根性で重力に逆らうには限界があり、やはり技術の助けが要る。成層圏文明は、この流れ星の決断からはじまったといわれています」

2009-07-03 23:20:25
EnJoe140 @EnJoe140

「湿り気には秘密がある。湿り気の心は乾いている。ただしぶよぶよに肥満しており、無闇矢鱈と汗をかく。一般にこちらが湿り気とだと思われている。この秘密が明かされないのは、真実が不快をもたらすせいだが、湿り気の心は乾き続ける」

2009-07-04 14:21:11
EnJoe140 @EnJoe140

「鰻と長芋とxxxxが旅に出る。黙っていれば人がわらわら寄ってきて、順を争い握りしめる。にょろりと逃げて前へと進む。大変楽だ。あるときxxxxはxxxxと出会ってxxxxをxxxxするがあまりに卑猥であるために、描写することは許されない。布団の中で鰻が語った」

2009-07-04 23:56:58
EnJoe140 @EnJoe140

「一見、呆っとしてみえるがそうでもない。各種の知能テストで判定されたIQはすべて84の値を示す。学校の試験の点数も全て84。驚愕すべき成績だ。84歳で死ぬに違いない。誰もがそう思っていたが、受けるべき試験がなくなったところで亡くなったという」

2009-07-05 18:47:35
EnJoe140 @EnJoe140

「三角形に四つ目の辺が発見される。あまりに小さく折り畳まれていたせいで、誰も気がつく者がいなかったのだ。その辺を伸ばすと、他の一辺が急速に縮む。これを利用し、のたのたと歩く。自分たちはどっちの方向へ進化しようか、たまに夜の公園で集会している」

2009-07-05 22:43:05
EnJoe140 @EnJoe140

「公園のベンチで老人が一人、膝の上に本を広げている。風が通り、頁の文字を乱して去る。老人の指が文字を押さえて、ひっくりかえったり逆立ちしている文字を順に戻す。老人が北大西洋条約機構から年金を貰っている理由を誰も知らない」

2009-07-06 17:12:43
EnJoe140 @EnJoe140

「少年が村へ駆けもどり、批評家だ批評家がやって来たんだと叫ぶ。村は恐慌状態に陥るが、無論少年の嘘である。批評家などが来るはずはない。知っているのに村人は何度も騙され続ける。その素朴さに少年が怒り、村人を順に批評しはじめるまでの時間は、もうほとんど残っていない」

2009-07-06 17:23:05
EnJoe140 @EnJoe140

「短冊には野心がある。いつか全ての願いを叶えるのだ。それも自分の力だけで叶えてみせる。俺の願いだけが叶いますように。短冊は短冊にそう記す。それでもまだ足りないと見て、周囲に揺れる短冊を片っ端から破り捨てる」

2009-07-07 17:23:34
EnJoe140 @EnJoe140

「その老医師の望みは、引退後、お医者さんごっこに励むことであるらしい。心おきなく切り開いては縫い合わせるのだ。しかしあまりな名医のせいで、治してしまったらどうしようかと心配している。そもそも間違い方も知らないのだ」

2009-07-07 18:19:27
EnJoe140 @EnJoe140

「ある時を境に、有袋類のポケットから紙片が発見されるようになる。何枚かが一緒に綴られており、未知の言葉が記されている。千切って使うものらしい。様々な説が取り沙汰されたが、どうも輪廻の回数券らしいということになった」

2009-07-08 20:44:32
EnJoe140 @EnJoe140

「誕生日、男は女に髪留めを贈る。誕生日、女は男に時計の鎖を贈る。誕生日、男は女に鞭を贈る。誕生日、女は男に手錠を贈る。誕生日、男は女にのこぎりを贈る。次の朝、寝室で至福の表情を浮かべて切断された男の死体が発見される」

2009-07-08 20:45:30
EnJoe140 @EnJoe140

「兎であるとか、蟹なのだとか、木を切り続ける男であるとか、月の模様は様々取り沙汰されてきたわけだが、単に一つの足跡であることが判明している。その人物がどこから来たのか、次にどちらへ踏み出したのか、そららは全く不明である」

2009-07-09 18:07:45
EnJoe140 @EnJoe140

「気がつくと、卵の中にいるらしい。拳で叩いて、とても分厚い。ポケットの中には缶切り一つ。缶切りの刃は滑ってしまって役に立たない。足元は当然覚束ない。どこかへ向けて転がりはじめる。加速は続き、止めようがない」

2009-07-09 18:29:23
EnJoe140 @EnJoe140

「天井と私の間を二匹の鯉が泳いでいる。一方は白く、一方は黒い。互いの尻尾を追いかけあって巴に回る。瞼を閉じる間だけ見える。天井は天井であり水面ではない。ここは布団の上であり、川底ではない。鯉の方には一向気にする気配が伺えない」

2009-07-10 20:01:35
EnJoe140 @EnJoe140

「友達がみんな出かけてしまったので、風船に口を描いてみる。不思議なことに喋り出さない。目と鼻を足し、耳を描く。通りがかった父親が、首だけじゃ話せないだろと道理を言う。それを聞いては、風船ももう黙っていられない」

2009-07-10 20:02:19
EnJoe140 @EnJoe140

「あなた、こういうところはじめて?、とそこには書いてある。まあどっちでも良いんだけれど、と続く。恥ずかしがらずに服をお脱ぎなさいなと文章は言う。あなたはそんな言葉が何の力も持たないことを知っているが、いずれ服を脱いでしまうのは、この文章のせいである」

2009-07-11 02:22:07
EnJoe140 @EnJoe140

「完全に誤った推論により、無欠の真相へと至った師、バスカヴィルのウィリアムは、図書館の最奥部で盲目の図書館長ホルヘと対峙しました。師の見出した書名は『ウィルバーの日記』。そうしてかの修道院は、ヨグ=ソトホースの怒りの中に燃え尽きたのです。過ぎにし薔薇はただ名前のみ」

2009-07-11 20:05:48
EnJoe140 @EnJoe140

「生物工学による社会変革協議会の出した結論は、男性器の位置を尾骶骨部へと変更するというものだった。この提案は何故か受け入れられ、その社会は滑稽さによって滅びた最初の例として記録される。勿論、最後の例であるはずはない」

2009-07-12 02:04:10
EnJoe140 @EnJoe140

「この戦争が終わったら結婚するのだと彼は言う。だから戦争を終わらせるわけにはいかないらしい。しかし私にはこの戦争を終わらせる必要がある。何故なら次の戦争が終わったら結婚すると彼女と約束しているからだ」

2009-07-12 02:41:51
EnJoe140 @EnJoe140

「電車は透明人間で一杯で、包帯人間は私しかいない。いつか私にぴったりの透明人間が現れる。私はその透明人間に思う存分巻きつくのだ。昔はそう考えていた。今はそれが夢だとわかる。透明人間に満ちた電車の中で、私の内側だけが外側だ」

2009-07-13 03:48:48
前へ 1 2 ・・ 18 次へ