そして私は慣れないパソコンに悪戦苦闘しながらも何とかやらなければならない分の仕事を終わらせて、事務室の電気を消して、家路に着いた。
2010-09-17 15:58:264月1日。忘れもしない土曜日。休日の特権だとばかりに昼過ぎまで寝ていた私は、私は嘘を吐く相手も折らず、自宅で一人、テレビを眺めながら暇を持て余していた。
2010-09-17 16:03:58「田中が居なくなったらしい。昨日の夜、酒気帯び運転で警察に捕まって、それで親御さんが引き取りに来て、それで朝になったら部屋に居なかったんだと」
2010-09-17 16:09:31出社すると既に何人かが出てきており、事務室にはホワイトボードが用意され、先の電話の内容が時系列に沿って書き連ねられていた。
2010-09-17 16:13:58主要なメンバーが集まったところで、上司が私達に指示を出した。「これから、田中を捜索に行く。…余り考えたくはないが、最悪の事態も想定しろ」
2010-09-17 16:16:31私はその時、この事務所で電話番をしていろ、と言われた。その時の私は余程酷い顔をしていたのだろうか。まだ新人で、だから現場に行かせることを良しとはしなかったのだろうか。
2010-09-17 16:18:51多分その時の上司の選択は、正しいものであったのだろう、と今になってみれば思う。私はこの街に来てまだ1ヵ月程しか経っておらず地理に明るい訳でもなく、ほとんど大学出たての世間の何をも知らない若造でしかなかったからだ。
2010-09-17 16:20:00皆が車に乗って次々と去っていった。事務室に一人だけ残った私は、椅子に座ってぼんやりと天井を見上げた。そして携帯電話を取り出した。
2010-09-17 16:21:34私の携帯電話に、件の彼の番号は登録されていない。電話番号表を探し出して、彼の番号に掛けようと思った。それぐらいしか、することが無かったから。
2010-09-17 16:22:21切った。そして、もう一度掛けた。『お掛けになった電話番号は、――』同じ声の繰り返し。遣る瀬無い思いと怒りとで、胸が一杯になった。
2010-09-17 16:24:01『見つかったそうだ。自宅近くの公園。公衆便所。見つけたのは近所の人』そんな内容を淡々と告げられて、それから、一言。『今日はもう、家に帰って良いぞ。こっち、捜索組みも解散するから』
2010-09-17 16:29:09その言葉に従って家に帰った。誰も居ない家で、「今日はエイプリルフールだよなぁ…」それだけを呟いて、晩御飯を食べることもせずにそのまま布団に入った。
2010-09-17 16:32:24後は淡々としたもので、通夜はいつだの告別はいつで、だから皆で参加するだの、そんな在り来たりな話でしかない。
2010-09-17 16:34:12